琵琶湖のおもいで4
大雨と子持ちの煮ごろ鮒

 梅雨前の大雨になった時、「しま」には雨合羽を着、投網を持った男達が集まる。
仕事そっちのけのおじさんたちが、橋の上や岸壁の上から濁り水に視線を集中する。
子供心にも緊張感が伝わりそっと見ていたものである。梅雨の大雨で増水した時、
本能が安全と教えるのか産卵のために琵琶湖から「煮ごろ鮒」=真鮒が「しま」へ
上ってくる。大きなものは40~50cmはあった。その腹は卵で一杯である。
魚影らしきものをみるや投網を打つ。

「なんと今日は、いかいのがおったわ」という誇らしげな父の声。鱗を落として
ぶつぎりにして大きな鍋で醤油炊き、醤油のしみ込んだ切り身、卵、浮き袋の
旨かったこと。

 この子持ち煮ごろの醤油炊きが故郷から送られてきたのは昭和六十年が
最後であった。増え始めた外来魚の食欲が煮ごろ鮒を激減させてしまった。