「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレートコメット・オブ・1812」
1/8(火)13:30の公演を、東京芸術劇場で見て参りました。
良かったですよー。
ブロードウェイミュージカルの日本初演のこの作品。
一昨年のトニー賞授賞式をWOWOWの生中継で見ていた時に、とても印象に残っていた作品。
ジョシュ・グローバンの素晴らしい歌声と帝政ロシア時代、貴族文化と場末な盛り場の混とんとした熱狂に度肝を抜かれたのでした。
いつか生で見られる日が来たら良いな…と思っていたら、日本でも上演されると聞いた時は躍り上がって喜びました。ジョシュ・グローバンで聞いたあの歌が井上芳雄さんで聞けるとあらば、なおさら。
さて。
トルストイの『戦争と平和』、この長い長い長~い原作の70ページを切り取ってミュージカルにしたというこの作品。歌詞は原作を強くリスペクトし、原文に忠実に作られているのだそうです。
(もしこれを読んでいる方で、これから観劇の予定の方がいらしたら、この先は読まない方がいいかもしれません。)
主人公は井上さん演じるピエールかと思いきや、物語の全体は生田絵梨花さん演じるナターシャのメロドラマで成り立っています。“ニッチな変人、若い年寄り”と評されるピエールとは直接関係ない周辺の出来事で物語は構成されおり、ピエールはずーっと近所のレストランでちょいとお酒でも飲みながら本を読んだりしているのね。
ナターシャはフィアンセのアンドレイと離れ離れにさせられている間に、アブナイ色男アナトールに迫られ、初めは拒絶するもその強引な色気に駆け落ちを決意します。出会って3日なのに千年思いあっていたような気分だそうで…伯爵令嬢って暇なのね。しかしアナトールとは悪い男で実は外国に奥さんがいる知れて、ナターシャはどちらの男も失う、というのが話の流れ。大げさな起承転結の無い、淡泊な物語。
ステージはアリーナでのコンサート会場の作りをコンパクトにしたような、田の字に巡る花道とその前に半円に突き出した花道で成り立っており、田の字の中のアリーナ席はレストランのテーブル席やカウンターの作り。客席に張り出した半円の中がオケピとピエールが時々座って作業する席。
舞台セットは一番奥の扉と階段のみ。この作品は2012年にわずか87席の会場で始まったそうです。生みの親であるデイブ・マロイ氏はクルーズ船のバンドのピアニストで、2010年に立ち寄ったモスクワのレストランで、この作品はこのような雰囲気の中で上演されるべきと感じたそう。だからなんですね。レストランのお客さんの中で演じられているようで、レストランの客として見ている感覚。セットが無いのはそういった由来があったからなのでしょう。
でもシンプルな舞台と淡泊な物語を補って余りある、ピエール歌う主題曲の美しさと、圧巻のパワフルパフォーマンスと、衣装コスチュームの煌びやかさなんですねぇ。
物語中盤で歌われる主題曲「Dust and Ashes」
愛の無い結婚生活に絶望しているピエールが「恋に落ちるまで人は眠っている 今死んだら自分は眠ったまま死ぬことになる だが準備はできている 今すぐ目覚めてもいい」と独白する曲が美しくてね。まず中心にこの曲があって、話の全体が肉付けされていったのかな?なんて思ったり。
そして台詞もすべて全編が歌で構成されているこの作品。
最後の最後でピエールが普通にしゃべる台詞があります。
全ての2時間ちかい全てのメロディーがこの最後の一文のためにあったのか!!終演後に友とお茶しながら喋っている中でそれに気づいてゾワッとしました。そしてピエールの恋を空から包み込むような巨大な美しい彗星。
もっと深く理解するにはもう一度くらい見たいのですが…。
本当に素敵な作品でした。
東京芸術劇場は初めて入ったのですが、ホールの壁がレンガ造りで、それがまた作品の世界観に見事にマッチして、効果倍増。
それから、初めて見た生田絵梨花さん。盲目的に恋した男が妻子持ちで騙されたと知った途端気絶しちゃうような「ザ・ヒロイン!」がこんなにも嫌味なく似合ってしまうって、ある意味貴重よね。透明感のある綺麗な歌声も素敵でした。
今またトニー賞授賞式のビデオを見て、買ったCDを聞いて楽しんでます。
この舞台、チケット発売初日で全席完売でしたね。
それに敗れた私は貸し切り公演の情報にアンテナを張って生協のチケットでお席ゲットしました。なのになのに、貸し切り公演の日だったからなのか、2階に空席が結構あったぞ。もったいない。なんてことだ。
ちなみに私は2階席で見たのですが、例の田の字の通路の演者の動きが綺麗に見渡せて、とても良い席でした。たった1回の観劇だったら、2階席は良いですよ。