堕 ~コーヒー~ | 鳴かぬ螢が身を焦がす

堕 ~コーヒー~

笛吹さんは仕事をよく把握していない私でも解るくらい


仕事の出来る人でした。



動きに無駄がなく、


体が自然と効率よく動いているのです。


しかしこのバイトを始めたのは4ヶ月前。


1年以上やっている他のバイトの人と比べても引けを取りません。


何となくですが、頭のいい人なんだろうと思いました。




私はなんだかんだ言って、


彼が気になっていつの間にか目で追っていました。


だから気付いたのです。




だから、彼の優しさに気付いたとも言えます。





笛吹さんは仕事が早く、


オーダーをあげるのが通常より速い人です。


ホールの人をあおるくらいです。


人への配慮がやや欠けているようにも見受けられます。


坦々と自分の仕事をこなす、機械の様な人で、


一気にいくつものテーブルのオーダーをあげることなんかもざらでした。





私はそれが嫌でした。





私はいまだオーダーの持って行き方を教えてもらえず、


下げ物


新規の対応


の二つしか出来なかったのです。


だからフリーなのが私しかいない状況でオーダーが上がっても


持っていけないのでした。


他のホールが帰ってきて持っていくまで


いたたまれなくなるのです。




そんなことが何回かあって。


ある日のこと。




ある時コーヒーが沸き、笛吹さんは火からおろしました。


フリーでいるのは私だけ。


どうしよう、オーダーがあがってしまう。


嫌だ


・・・と思っていたら。




笛吹さんはコーヒーをあげず、他の仕事にうつってしまいました。


何でだろう。


オーダー出してからでも出来るのに。


そして他のホールが帰ってきてからコーヒーをあげたのでした。






そんなことがその日のうちにも何回もあり。


やっと私は悟ったのです。





私が持っていけないから、オーダーあげないでいてくれるんだ、と。


私が困っているのを笛吹さんは気付いていて


だから自分で調節できる限り、


配慮をしてくれていたのです。




堕ちました。




優しい一面を見て、


そんな笛吹さんに気付けて


嬉しかったのです。





誰にも言えなかった


身を焦がす恋の始まりでした。