避 ~ホール~ | 鳴かぬ螢が身を焦がす

避 ~ホール~

12月半ばになっても、私は使えないままでした。


というのも、本来新人指導の一切をしている店長が入院していたのです。

(初期ガンが発見されたらしく、しばらく検査入院させられていました。

 だから人手不足になっていたようです)


いまだに下げ物しか出来ず、


使えない自分が情けなく申し訳なく。


早く色々な仕事を覚えたくても教えてくれる人もなく。



このバイト辞めようか。


早々にそう思いはじめていました。




私は初日以来、一時間休憩に入らないよう5時からの出勤に変えました。

(1時からの出勤だと22時の閉店時間まで勤務時間8時間+休憩時間1時間になるのです)


それというのも、休憩時間で男性と一緒になりたくなかったからでした。





【その後の休憩室】


気まずい。


沈黙が痛い。


目の前の男性は黙々とピラフを食してます。


ここは、新人で下っ端である私が気遣いせねばいけないのか?




斎:「あ、あの・・・」



私が声をかけると、彼は食事の手を止めて私を見ました。


・・・整った顔です。


目は細め。


鼻は高め。


唇は厚め。


肌は浅黒い。


半袖の制服のぞく腕は程良く筋肉がついていて・・・


ここまで格好良い人だったとは。

(休憩入ってから、まともに顔を見ていなかったから気付かなかったのでした)


何というか・・・平安貴族のような人です。


そう思ったのは顔のせいでもありますが、


そこはかとなく育ちの良さ、品格が感じられ、


自分とは一線引かれたところに居る人の様に思えたのです。



あと、何となく違和感のある人でした。



斎:「今日からホールに入った、斎です。

   慌ただしくて、きちんと挨拶できなくて

   本当に済みませんでした。」



彼は自分の名札を私に見せて、


私にいたずらっ子の様な笑顔で言いました。



彼:「これ、読めますか?」



これ?


というのは、名字のこと・・・?


確かにあまり見かける名字ではありませんが、


珍しい訳でもなく・・・。



斎:「『笛吹』さんですよね?」



笛吹:「すぐ読めましたか?すごいですね。

    そうです、『ウスイ』です。    

    調理場です。よろしくお願いします。」





この会話から、その後世間話に発展


・・・・・すれば良かったのですが、


お互いかなりの人見知りらしく


会話は弾まないまま休憩を終えたのでした。







というわけで、


苦手男性


かつ慣れない人


2人きりになるかもしれない休憩が嫌で勤務時間を短くしたのでした。


・・・自分に甘いです。






その休憩で一緒になって以来、


笛吹さんと話すこともなく、


むしろ調理場の人よりもホールの人と親しくなろうと、


かなり人見知りが激しいのに果敢に話しかけ、


親交を深めていました。




それだけでなく、


何となく笛吹さんを意識してしまって、避けていたのです。


この喫茶店はカウンターを隔ててすぐに調理場があり、


コーヒーやらパフェやら作るがホールからでも見えます。


故に笛吹さんと話そうと思えば出来るのですが・・・




何となく、目を合わせたくない。


出来るだけ、視界に入れたくない。




そう思い笛吹さんを避けていました。


その理由は、今ならわかります。


理屈ではない、感覚でしか表現出来ないことですが、


笛吹さんは自分に似ている、


自分に近い人間だと、警戒していたのです。