先日、地域の薬剤師の方々を対象とした講演会があり、
抗血栓薬と消化管障害についてお話してまいりました。
抗血栓薬は、心筋梗塞や脳梗塞などのご病気を予防するために処方されることが多く、
血栓・塞栓の形成を予防する薬剤で、
おおまかに、その作用機序から抗血小板薬と抗凝固薬に大別されます。
容易に想像していただけると思いますが、
血栓ができにくくなると言うことは、出血が止まりにくくなる作用と同じですので、
潰瘍やがんなど消化管に出血しやすいご病気があると、
容易に出血を来してしまいます。
ですから、これらの薬剤は、
血栓を作りにくく、かつ出血性の合併症を起こさないような
よいバランスを維持していかなければ、
最大の効果を発揮することができません。
そのため、処方された薬剤をしっかり服用していただくことはもちろんのこと、
出血の合併症を起こさないように、
日頃から十分注意する必要があります。
出血の合併症で最も重要なものが消化管出血です。
たとえば、内服を開始する患者さんにあらかじめ胃潰瘍や胃癌、大腸癌があれば、
内服開始直後または内服を続けているうちに
いずれ吐血・下血などの症状を起こしてしまいます。
さらに、抗血小板薬であるアスピリンという薬剤は、
直接胃粘膜を傷害する作用を有しているため、
長期間服用しているうちにができてしまい、
吐下血を起こしてしまう危険性があります。
同様の作用は、腰痛・頭痛・風邪薬などに使用される解熱鎮痛薬(NSAIDs)にもありますので、
これらの薬剤を長期間服用している方も要注意です。
ひとたび抗血栓薬を服用している患者さんが消化管出血を起こしてしまうと、
格段に死亡率が上昇することが知られています。
しかも死亡原因としては、消化管出血による出血多量・出血性ショックを想像される方が多いと思いますが、
実は心筋梗塞や脳梗塞など元のご病気が増悪して死亡する確率が非常に高くなります。
これには様々な理由があるとされていますが、
出血治療のために抗血栓薬を中断することが一因とされています。
抗血栓薬で治療している患者さんが消化管出血を起こさないためには
どのようなことに注意するとよいでしょうか?
やはり、治療が始まる前に胃癌検診・大腸癌検診を受けること、
そして治療している間も定期的に検診を行うことが大切です。
特に、胃・十二指腸潰瘍の既往がある方、長期間内服している方、複数の抗血栓薬を服用している方、高齢の方、ステロイドを服用している方は特にご注意ください。
治療が始まる前にしばらく胃癌検診や大腸癌検診を受けていらっしゃらなかった方は、
是非、直近の胃癌検診・大腸癌検診をお受けください。
また、すでに腹痛・胃もたれ・食欲不振・黒色便などの症状を自覚している方は、
速やかに主治医の先生か、内視鏡検査が可能な消化器専門医にご相談ください。
今後もクリニックでは、地域の薬剤師の方々と連携し、
抗血栓薬を服用している患者さんの消化管出血の予防に努めてまいります。