ぼうっと目を開けたら他人だった
私は私ではなく他人になっていた
知らない天井、知らない部屋、知らない布団、知らない体
なにも知らない
部屋のドアを開けて声のする方へ行ってみた
おはよう、と言われた
おはよう、と他人の私は返した
知らない家族、知らない朝食、知らないリビング
部屋に戻って着替え、玄関から外へ出た
知らない服、知らない靴、知らない家々
近所の人に会った
おはよう、おはよう
他人の私は近所の人と挨拶を交わす
海が見えた
本屋に寄る、喫茶店に寄る、パン屋に寄る
知らない物語、知らない珈琲の味、知らない食感
海にたどり着く
砂を踏む、波が寄せる、波が引く、貝殻が擦れる、鴎が鳴く
何もかも初めて聴いた音のよう
知らない靴を脱ぎ、足首まで海に浸かる
海水の冷たさ、波の感触、さらわれる砂のこそばゆさ
感じた事のないものばかり
目が覚める
他人から私になっていた
知ってる家族、知ってる朝食、知ってるリビング
おはよう、と言われた
おはよう、と私は返した
けれども声は届かない
私は飼われた金魚
ないものねだりの夢を見る