283 :大人になった名無しさん :2006/12/11(月) 23:43:09
長くなるけれど、じいちゃんの事を書かせて欲しいと思う。
うちのじいちゃんは、頑固で短気で、けっこう近寄りがたかった人だった。
女遊びが激しくてばあちゃんを泣かせていた。うちには余りお金も入れず、遊び歩いていた時期もあったりした。
ばあちゃんはじいちゃんの愚痴をよくこぼしては涙ぐんでいた。
俺はあまり、じいちゃんを好きになれなかった。
でも、じいちゃんはずっと勤めてきた会社を定年退職して、ばあちゃんといつも2人でいるようになってから、いろいろ出かけるようになってから、少しずつ笑顔も増えて、優しくなっていった。
山に山菜取りに行くのも一緒、映画を見るのも2人で、ファミレスに入って2人でクリームソーダも食べたらしい。
まるでばあちゃんとの欠けた時間を取り戻すかのような、どんどんまるくやさしくなるじいちゃんが、俺は好きになった。
毎週日曜日はお菓子を持って遊びにいく。犬の顔をごつごつした手で撫でながらじいちゃんはにこにこ笑う。
このころまでは、まだ元気だった、じいちゃん。
おかしいな、と気づいたのは、学校のバスが故障で送ることができなくなって、迎えを頼んだときだった。
軽トラで迎えに来たじいちゃん。
学校を出てすぐの信号が赤だ。
赤なのに止まる気配が無い。
そのまま、通過した。
「今、赤だったよ?」
といっても
「おっ、いけね、わからなかった」
というじいちゃん。
そのときは、あまり気に留めていなかったけど、ここからじいちゃんはおかしくなっていった。
長くなりそうだから続く。すまない
284 :大人になった名無しさん :2006/12/12(火) 00:00:58
>>283です。続き。
夜中に電話がなった。おじさんからだった。
じいちゃんは、ばあちゃんとおじさん(じいちゃんの息子)の3人暮らしだ。
じいちゃんが夜中に暴れたという。叫んで、暴れて、おじさんが力ずくで止めたという。
次の日には、じいちゃんは腰が抜けたようになり、自力で立てなくなった。
トイレも、ばあちゃんに捕まえてもらってやっとの思いでいく。自分ではズボンも上げ下げできない、拭けない。
心配になり、じいちゃんのところへ行った。
「じいちゃん。」
じいちゃんは着物を着せられて座っていた。
俺が話しかけると、明らかに、
俺がいないほうをみて
「だ、だれだ」
といった。
「じいちゃん、わかんないの?」
俺がもう一度話しかけて、やっと
「○○か?」
といってくれた。
でも、じいちゃんは目なんて悪くない。
耳も悪くない、はずだ。
でも、
「誰が来たか、わからんかった」
じいちゃんはそうつぶやいた。
検査入院のためにじいちゃんは病院にいくことになった。
そこでじいちゃんは悔しい思いをする。
うまく身体が動かなくなったじいちゃんはベッドの上で看護師さんの介助で、ごはんを食べることになった。
目もよく見えなくなっていたので、じいちゃんはおかずの魚をうまく取れず床に落っことした。
看護師さんは、落ちた魚を、そのまま皿に戻したらしい。
じいちゃんは、完全に目が見えていないと思われたのにカッとなって、看護師さんに腕を振り回してしまった。
「困ります、暴力を振るわれるのは」
おじさんは看護師と医師からそう怒られたらしい。
でも、じいちゃんは悔しそうに俺らに話して聞かせた。このことを。
俺はじいちゃんのほうが正しいと思ったのだが、この日からじいちゃんは暴力的で危険な患者として扱われることとなった。
そして下った診断は、アルツハイマーだった。
病院にいてもよくならないから、と退院させられたじいちゃん。
日に日にじいちゃんはじいちゃんではなくなっていった。
目が見えなくなり、耳も聞こえなくなった。
完全に昼夜逆転し、夜はおじさんとばあちゃんが寝ずにじいちゃんに付いた。
ごはんも食べられなくなり、言葉もしゃべらなくなり、ひたすら
「こわいよーこわいよー」
と何かに怯え、子供のように泣いた。
病院に連れて行くときも、暴れるのを大人四人で押さえつけて連れて行った。
再診断結果は、クロイツフェルト・ヤコブ病だった。
285 :大人になった名無しさん :2006/12/12(火) 00:16:19
>>284の続き。
即入院させられたじいちゃんは、ヤコブ病特有の退行していく意識のなかで、幼児から赤ちゃんまでさかのぼり、言葉は「あー」としかいえなくなった。
ごはんも、鼻から管を入れて無理やり流し込まれてた。
やられるたびに、苦しげに冷や汗を流していた。
見舞いに行くたび、じいちゃんの病室は、なんだか異様な匂いがするようになった。
骨と皮だけになったじいちゃんの指は、いつにもまして黒く、ごつごつしている。
動かない手を、ずっと握ってあげた。
その手はいつも暖かかった。
そして、、じいちゃんが危ないと連絡があった。
駆けつけると、ゆっくり、はー、はー、と浅く息をつくじいちゃんが、こっちをみつめていた。
あの異様な匂いが充満するなか、意識はもうとっくの昔に無いのに、はっきりとこっちを見ていた。
たまらなく悲しくなって、またいつものように手を握った。冷たかった…。
涙が抑えきれないほど溢れて止まらなかった。
苦しいよな、じいちゃん…
楽になりたいんだよな…
じいちゃんは、次第にぼんやりと宙を見つめていった。
昼過ぎ、じいちゃんは逝った。まだ六十歳だった。
内臓はほとんど朽ちて、脳ももう息をしているのが不思議なくらい、やられていたらしい。
じいちゃんの血と骨髄は、ヤコブ病の研究のため、採取された。死んでからも、痛いことをされているようで、俺は嫌だった。
ヤコブ病は特異な病気なため遺体はすぐ荼毘にふされ、密葬という形でお骨になってから行った。
じいちゃんがおかしくなってから、死ぬまではわずか二ヶ月ほどだった。
怖かったじいちゃんがやさしくなって、嬉しかったのに、なんで、こんな病気にかかってしまったんだろう。
いまだにばあちゃんは出先で入ったファミレスの、メニューの隅に載ってるクリームソーダをみると、2人で食べに行った思い出が忘れられずに、じいちゃんを思い出して涙ぐむ。
だから、俺もクリームソーダは、なんだか悲しい気持ちになるから、苦手になった。
・・・長くなってしまってほんとにごめん。
でも、俺のなかで駆け抜けていったじいちゃんという存在は、いつまでも忘れない。