地獄の歯医者~後編~ | なかよしこよし

前回までのあらすじ。


前編を読んでください。


それではどうぞ!


てなわけで診療室のドアを開けたら先程受付の所で仕事をしていた柴咲コウ似のお姉さん、僕が指示された診療台の所で優しく微笑んでらっしゃるじゃないですか。

多分ね、僕の姿を見た助手さん達が「あの人は私が診るのよ!」「キー!私だったら!」と、1人の男を巡って骨肉の争いをしたんだと思う、きっとそれで控えめだけど芯が通ってる事で評判のいい柴咲さんが権利をゲットしたに違いない、おずおずと手を挙げ「私が…診ます…」とか言ったに違いないよ、間違いない、この人は僕に惚れてる。


さぁという事でスキップ混じりに診療台へと腰を降ろします。


「ちょっとまず口の中を見ますねー、はい、あーんして下さーい」


何だか未来の2人を想像しちゃうね、うふふ。などと考えてる場合じゃありません。

虫歯が進み口から生ゴミみたいな匂いのする口内を見せるだなんてもう嬉しいやら恥ずかしいやら、マゾっ気全開にしておずおずと口を開きます。

一瞬柴咲さんの眉間に皺が走ったような気がしないでもないんですが何やら診療は始まってる様子。

鼻毛がコンニチワしてたらどうしようとか妙にソワソワしながら柴咲さんを薄目で見てたら驚愕の事実を発見。


柴咲さん凄い巨乳。


これには飛び上がるほどの衝撃を受けました。

だって顔は柴咲で身体は根本はるみ、正に最強じゃないですか、エリート中のエリート。

いや別に柴咲さんのオッパイがおおきかろうがちいさかろうが僕のモノではあるまいし、触れるわけじゃないのは知ってるんです。

お嬢ちゃん、すまんがちょっとそこにワシの刀を納めさせてくれんかのなんて言えるハズもありません、そもそも言ったが最後で確実にブタ箱なのは目に見えてます。

ただね、ぶっちゃけてしまうと歯医者に憂鬱をブラ下げて足繋く通う成人男性にとって助手さんのオッパイというのは1つの希望じゃないですか、何だかそれだけで得した気持ちになれるのは男のサガだというものです。


心の中で小さくガッツポーズをしているとどうやら柴咲さんの診療は終了。

先生が来るのでしばらく待ってて下さいと言われ、赤ちゃんが首に巻く涎掛けみたいなのを付けられたまま診療室の中を見渡してたんだけど、なんかアレですね、思ってるよりもずっと歯医者っていうのは怖くないんだというのが正直な感想でした。

祖父の恐怖語りのせいなのか僕がイメージしてた歯医者っていうのはもっとおどろおどろとしてて、銀色のプレートの上には使い古されたアナルビーズとかバイブが散乱、ギャアアと泣き叫ぶ子供は診療室へと担がれるように運ばれ、その光景に涙を堪えて見送る母、そんなイメージでした。


ところが実際はどうでしょう。

白で基調された清潔感溢れる診療室、子供さんが持つ歯医者に対する恐怖心への和らげか最近の仮面ライダーやらキャラクターなんかが部分部分にアクセサリーとして置かれています。

かくいう僕の診療台から見上げる天井にもクルクルと回るオブジェが用意されていました、まぁオシャレ魔女なんとかかんとかのキャラクターをムシキングなのか知りませんがやたらとデカいクワガタムシが追い掛け回すというやや猟奇的なオブジェではありましたけども。

それに加え子供の泣き声みたいなのも聞こえない。

周りは小学生や幼稚園生だらけだと言うのにビエーンーだのウギャーだの言わず皆物言わぬロボットのように大人しく治療に応じてるんです、5.6歳児の子供なのに我慢強いなぁとしばし感心していたんですが、もしかしたら子供が我慢強いのではなく医療の技術が向上しただけなのではと思い直します。

僕が幼少の頃からですからざっと考えても10年以上、その間に医療技術が進歩していないハズがありません。


最近の歯医者は痛くないんじゃ…。


歯医者の治療を何より恐れていた僕にとってこれは願ってもいない光明。

痛みなくして改革無しとは言うけどなるべくなら痛くない方がいいに決まってますからね、何だかテンションが上がってきました。

それでまぁ待たされている間にどの助手さんが美人かなと不細工の癖に品定めをしてたら、その中で一際白衣が映える女性を発見、赤いフレームの眼鏡に白い白衣ですからイヤでも目立ちます。

その眼鏡の奥に隠された少し吊りあがった瞳の中に映るのはドSの女豹の姿、きっとガーターとかボンテージコスチュームに身を包み、眼鏡を片手でクイッと上げながらヒールで男を踏みつける事にオーガズムを感じるに違いありません、こりゃたまらん、ハァハァ。


それでその女性を見すぎという位凝視しているとどうやらこの女性、助手ではなくれっきとした先生のようでテキパキと業務をこなしています。

というか待ってて下さいと言われ30分は座りっぱなしなのでそろそろケツが痛い、もしかしてこんなに待たされるのはきっと女豹1人で歯医者を切り盛りしてるからなのかもしれない。

こ、これはひょっとしたらひょっとして、柴咲×女豹のダブルコンビでの診察になるんじゃと何だかやたらと興奮してきました。

もしかしたら僕だけ特別治療が必要ねとか言われて別室へと案内されちゃったりなんかして、


「先生、悪性の腫瘍を見つけました。」


「や、それは…」


「フフ、大変ね、股間に転移してるじゃない、柴咲さん、(唾液なんかを吸い取るヤツ)で除去をお願いできるかしら」


「わかりました」


ここで柴咲さんのバキュームフェラですよ、バキュームフェラ。ジュボボボ、もう一回言うぞ、バキュームフェラですよ。たまらん!

それで「や、やめてください!」とか何とか言ってると「静かにしなさいこの豚!」とボンテージに身を包んだ女豹がムチを片手に登場、パチーン!いやぁあひぃとか何とかかんとかで


そろそろ妄想にも疲れてきました。

このままじゃムラムラするばっかりで股間に悪影響なだけです。

まぁとにかくひょっとしたら至福の時かもと胸を躍らせてたらやっとこさ柴咲さんが登場。


「すいません遅くなりました」


イインダヨと気持ちのいい返事をしていると柴咲さんの後ろから先生が登場。待ってました!


「…はい、よろしくね」



C.W.ニコル



C.W.ニコルやん。

ままま待って待って落ち着いて下さい、僕は女豹を待っていたんです、断じてC.W.ニコルじゃない。国許に帰れ。


もうどう見ても本人にか見えない彼がね、休日は山で熊とレスリングに興じてるような彼こそがどうやら先生みたいなんです。

その山のような巨躯の身体をこの診療所のドコに隠していたんだと壮大な疑問が残るも、ここまで来たらもう逃げも隠れもしません、というか出来ません。

半ば強引に治療を始めるニコル。


「痛かったら右手を上げてくださいねー」

なるほど、痛かったらどうやら治療の手を止めてくれる様子、その身体だけあって心強いサポートです。

勿論男のプライドがある以上そんな女々しい事はしませんが。

んであーでもないこーでもないと治療は進み、今日は様子見で終わるかなと安堵していた矢先。


「今日は思い切って抜歯します」


と衝撃発言、何を思い切るのか分かりませんが後ろにいる柴咲さんに指を二本上げて指示しています。

間違いなく友好の証というかジャンケンでもピースでも無く、今日は二本いくぞというメッセージがビンビンに伝わってきます。

いやね、抜歯って歯医者でいう最も重要な部分、言うなれば手術みたいなモンじゃないですか。


「これは難しいな…」


呟く医師。


「先生…ここの部位を…」


なんて助手が口を挟んだりしたら


「新米は口を挟むな!汗ッ!」


「はい、すいません(汗を拭く)」


なんて会話や重要性があってもいいと思うんです。

それが来て初日でいきなりの抜歯、いくら痛くないかもなんて思っても抜歯は頂けない。


もう今日はやめてください、お家に帰して下さいと言いたい気持ちでいっぱいでしたが僕に惚れてる女(柴咲さん)がいる手前そんな男らしくない事は言えません。


「お願いします」


さぁいよいよ抜歯の始まりです。

どんなハイテク機器が飛びだすんでしょう、あれ、もう抜いちゃったんですか?という素っ頓狂な返事をしている未来の自分が想像出来ます。


ゴリメリベキベキ


「いってぇえええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!!」


「柴咲君、抑えてて!」


「はいっ!」


手ですよ手、信じられます?

医療技術など知った事かと言わんばかりにニコルのそのゴッツイ手を嫌がる僕の口にムリヤリ突っ込んで僕の口の中をメチャクチャに掻き回してるんです。

これがもう痛いとか痛くないとかそんなレベルじゃなくて奥歯を引っこ抜こうとするモンだからもう首を揺らす揺らす、そのまま首がちぎれちゃうんじゃとかそういうレベルで僕の頭を振り回してるんです、何か「チッ!」とか聞こえました、殺す気か。


気がつけば暴れる僕を助手さんが三人がかりで押さえつけてました。

しかしこのままじゃアカン、死ぬ、死んでしまうと生命の危機を感じた僕、もう男のプライドとかどうでもよくて勢い良く右手を挙げました、もう辞めて下さい、痛いですとその想いを全て込めて右手を挙手しました。


「ハハハ、痛いですかー?!終わりますからねー!」


ゴキゴキゴキ


この野郎やめるどころか、痛いなら早く終わらせようというのが基本コンセプトらしくて更に力を増すじゃないですか。


「いてぇえぇえええぇぇぇぇえええぇぇっ!痛いッ!せんせッ!痛いーッ!」


もうあらん限りの力でSOS。

右手を必死に振り回します。


ぽよん


「…やっ!」


振り回した右手がね、何かに当たった後小さく女性の悲鳴が聞こえるんです、それも超至近距離で。

うっすらと目を開けて横を見ると柴咲助手が胸を押さえているじゃないですか。


どうやらオッパイを触ってしまったようです、オッパイ、オッパイですよ、オッパイ!おっぱいおっぱい!


もう頭の中はおっぱいでいっぱい、あの恥ずかしがるような仕草が最高に萌える、萌え死ぬ。

それからも地獄の抜歯は続いたんだけど不思議と全く痛くない、むしろ今のは事故、次こそは狙って触る!あわよくば鷲掴み!という事ばかり考えてました。

それで治療が終わって気がつけば何か2本の予定が5本くらい抜かれてますしね。

先程のおっぱいの感触の余韻に手の甲に頬擦りして浸っておりましたら、ニコルが何か神妙な顔してるんです。


「申し上げにくいんですが…」


「は、はい…?」


「入れ歯になります。」



なんだよもうそんな事か、てっきりさっきのおっぱいで柴咲さんが告訴でもしたのかと肝を冷やしたじゃねえか。

というわけでワタクシなかよしですが齢23歳にして入れ歯が決定致しました。

笑った際に口から入れ歯がこぼれる青年を見かけましたら間違いなく僕です、気さくに挨拶でもしてください。


その後は帰りに薬局でポリデント買って帰りました、またオッパイに触れたらいいなーと至高の笑みを浮かべつつ。


おしまい。