ホテルの内線が鳴った。


「はい、美容室です」




ホテルマン
「お客様の明日のご予約をお願いします。
10時から中村様でシャンプーブローです。」






「かしこまりました。
中村様、10時
シャンプーブローですね。」





ホテルマン
「あの…中村様は、中村玉緒さんです。」




「…えっと…?
あの、中村玉緒さん…ですね?」


ホテルマン
「そうです。あの、中村玉緒様です。
よろしくお願いします。」


「かしこまりました…」





「店長、
明日10時にホテルからの予約で

中村様でシャンプーブローが入りました。

それで、
中村様は、あの中村玉緒さんだそうです。」




美容師一年目。
18歳のわたしが
配属されたのは
ホテルの中の美容室だった。


あのとても有名な中村様の
シャンプーブローの予約を取り
店長に報告した。



ホテルの内線はたまにしか鳴らないので
出るのは
いつもちょっと怖かった。



たまにしか鳴らないのに
なんかすごい人から予約が入って
オロオロした。



店長も先輩も、
え?
それ本当?

と、
信じてくれなかった。笑


そういえば
舞台があるってCMで見たねと
誰かが言って

やっと信じてもらえた。
…安堵!






翌日10時。




「中村でございます〜。
ウアハハハハ。😆」



本当に
中村玉緒さんがいらっしゃった。
ジーパン姿だった。


本物だ。
本物の玉緒さんだ🥹
本当にそういう風に笑うんだ。🥹






美容師の一年生は
シャンプーマンといって

シャンプーをするのが仕事だ。



中村玉緒さんのシャンプーは
きっと
シャンプーマンの
わたしの仕事だ。
朝からソワソワ緊張していた。







玉緒さんの担当は
きっと店長だ。

一体どんなブローをするのだろう。
ブローというけど
ヘアセットなのではないか?






店長のワゴンの下に
セット用のピン皿も出しておいた。





わたしは
朝からソワソワしたが


店長は
いつも通り
キリリと美しかった。


店長はいつも美しい↓


玉緒さんをシャンプー台に
ご案内し、
店長の指示を待つ。



「シャンプーお願いします」
店長のかっこいい声で
指示が出た。


やっぱり担当は店長なんだ。
店長と玉緒さんのコラボ🥹キャー!
(ヲタク🤣)



「本日シャンプーをさせていただきます、
中谷と申します。よろしくお願いします。」



玉緒さんは
優しい笑顔で


「はい☺️」


と言ってくれた。



わたしは
シャンプーするのが好きだったし
得意だったので



いざシャンプーが始まったら
緊張もどこかへ飛んでいった




有名な人の
シャンプーをするなんて
こんな経験は今後あるんだろうか、
今、まさに貴重な瞬間だ。



玉緒さんの頭皮と髪の毛は
どっしりとして生命力に溢れていた。



「かゆいところはありませんか?」


「大丈夫ですよ。ぐふふふ☺️」


こんな至近距離で
玉緒さんの笑い声
浴びれるなんて
至福。
と思った。




シャンプー台は
3台並んでいて


隣でシャンプーしていた
先輩と目が合い
2人でニコニコした。





先輩も、
隣のシャンプー台のお客さんも


一緒に玉緒エナジー浴びた。
この笑い声聞いたら
誰でもニコニコしちゃう、



幸せの伝染だ。






「お疲れ様でした。」

シャンプーが終わる。





店長が膝掛けをもち
セット面で待っている。






「どのようになさいますか。」







「乾かすだけでいいです。
ウワハハハハ😆」


えっ乾かすだけでいいの?!
みんな思った。と思う。






女優なのに、
乾かすだけでいいんだ。

巻き髪とか
ヘアセットとかしないんだ。🥹

女優にも、
なんでもない日はあるのだ。




店長は
玉緒さんの髪を
ドライヤーで乾かしはじめた



使うであろうブラシを
何種類か手に持って
店長の斜め後ろに立ち、
ヘルプに入る。



ヘルプは特等席で
美しい技術を見ることができる。








店長がドライヤーを持つと
かっこいい。

まるで武器のようだ。








武器と表現すると
なんだか危なっかしいかな?



侍には刀を

騎士には剣と盾を


のような感じで
尊くてかっこいいのだ。



赤いドライヤーが
大きめの拳銃に見えてくる。




ドライヤーの口をつけて
ブラシでブローが始まる






玉緒さんの生命力に溢れた
髪の毛に
ロールブラシが絡み
ふんわりと丸みがついて
艶が出てくる




前髪は
立ち上げるようにブローをして

完成だ。







「お疲れ様でした」


先輩が
玉緒さんの上着を
広げて待っている





玉緒さんは
広げられた上着に
スッと袖を通した。


これもまた
美しい光景だった






お会計の際に

「こちらをお願いできますか。」



店長が
色紙を出すと

玉緒さんは
「はい☺️」と
さらりとサインを書いてくれた。






「ありがとうございました。」
スタッフ全員で見送る。






玉緒さんは

「この辺で
いいパチンコ屋ありますか😆」

と店長に聞いていて、
それもまた
おもしろかった。





その日偶然に
美容室に来てた
お客様は

目を丸くしてびっくりしていた。

そりゃそうだ😂
いつもの美容院に
いつものように行ったら
中村玉緒がいたのだから。




あの日
あの場所にいた人は
みんな




玉緒さんの訃報を聞いて


あの日を思い出しただろう。








その後、
同じ舞台に出ていた女優さんが
もう1人シャンプーブローにいらっしゃった。


1日で2人も大女優を
シャンプーするという貴重な日だった。



お店が終わって
帰り道に
お母さんに電話した。



お母さんはすごいね、と
喜んでいた。


とても懐かしい思い出。





あの日のサインは
ここにある。


ありがとうございます。