乳児に対する保育者のアプローチとしての「背中の保育」(2) | Fuminori Nakatsuboのブログ

Fuminori Nakatsuboのブログ

保育・幼児教育の理論と実践に関する記事を投稿します。

 「背中の保育」とは,保育者が自らの背中を介して乳児の主体的な遊びを保障したり,遊びの 空間を確保したり,彼(女)らが自分の力で動き出すまでの猶予を与えたりするようなアプローチのことである(水野・中坪 2021)。以下, 具体的なエピソードを紹介する。

[エピソード 2]落ち着いて,そして充電して(4 月) (ユウヤ / 男児 /1 歳 6 ヵ月)

 私の膝に2 人,私の前に4 人の子どもが座って絵本を見始めた。そこにユウヤがイライラして私の膝に飛び込んでくる。この落ち着きを一気に壊し,他の子をかき分けて私にしがみついてくる。7人が入り乱れたので私は膝からみんなをおろし,ユウヤをギュッと抱きしめてから背中の方に回した。そして私の前に居た6 人と絵本の続きを読みだした。ユウヤは,急に私の背中に回されて叫んで泣いていた。ユウヤを部屋の角の方にちょっと追い込んで背中で「壁」をつくり,落ち着くことのできる小さな空間をつくった。そして私の前に居た6 人は,落ち着いて絵本を見てい た。私の背中に居たユウヤは静かになっていった。あまりに静かだったので,そっと肩越しに後ろを見てみると,ユウヤは座って指しゃぶりをしながら私のエプロンの端を握っていた。私が背中でユウヤを感じていると,背中にドンときた。ユ ウヤが立ち上がって私に寄りかかって来たのだ。 少し経つとスル~ッと肩越しから私の前に現れて膝に座った。ユウヤに膝を貸し続けた。ユウヤは「充電」が終わるとゆっくり立ち上がって遊びに出かけた。

 このエピソードにおいて保育者は,イライラして飛び込んできたユウヤに対して背中で「壁」をつくることで,落ち着くことのできる空間を保障している。「背中の保育」によって乳児に安心感が生まれ,園における居場所づくりのきっかけになっていく。「背中の保育」とは,面と向かって乳児とかかわるよりも,背中というワンクッション置いたかかわりの中で,乳児自身の意思で行っていることを保障したり,自分自身の力で落ち着いていけるようにしたりするための保育者の心配りであると捉えることができる。

初出掲載誌:水野佳津子・中坪史典 2021 「乳児に対する保育者のアプローチとしての「背中の保育」」『乳幼児教育学研究』第30号 53-62頁