隆ちゃんの妙案になぜかみんなが賛同した。

男同士のカップル。

しかも片方は来年度の入学希望者。

そうとなると注目を浴びるのは想像しやすい。

あの時の片方だとみんながオレや雅紀のことを知っていてくれれば彼女は簡単に手出しは出来ないはずだ。

そしてオレたちは全員教育学部なんだ。

教員を目指している彼女が法に触れるような事だったり嫌がらせをしていることが学校側の耳に入ろうものならいくら単位を取得していても、当然の様に教員免許なんて出せるはずがない。

｢隆ちゃん…お前…頭いいな｣

｢何言ってんだ！ショーン！！照れるじゃねぇか！｣

オレの素の呟きに隆がオレの腕を力いっぱい叩いた。

｢っっっつってぇ！！！｣

｢あああああ！！ごめんごめん！｣

｢つか、バンビのその腕…どうしたんだ？｣

｢なんなら盛大につけられたキスマークよりもそのデッカイ絆創膏が目立ってるけど？｣

オレの叫び声に続いてブッキーと滝沢が質問をしてきた。

そうだったそうだった。

彼女の登場で怪我の説明をすんのすっかり忘れてたよ。

オレの説明を聞いたみんなは｢その傷もそもそもはあの女のせいじゃねぇか｣って学食のテーブルをバシバシ叩きながらランチ定食を頬張っていた。

で、そのあとの4限までオレはみんなにガッチリとガードをされ、最寄り駅まで滝沢にガードをされ、そんなオレを彼女がじっと見つめ続けていた。

彼女の周りには男友達の姿が見えないのがせめてもの救い…なのかな。

｢櫻井、油断すんな。雅紀を迎えに行くのをあの女が尾行してきたら雅紀の存在はすぐにバレる。雅紀の為にも気をつけろ｣

｢…ああ…そうだよな…｣

｢みんなは気づいてないしお前もそうだけど、ターゲットが雅紀にいくとは限らない｣

｢どういうことだ？｣

｢ストーカーだ｣

｢…｣

｢自称百戦錬磨で負け知らずのプライドがめっちゃ高いあの女がお前のストーカーになる可能性だってゼロじゃねぇだろ。そうなった時の狙いが雅紀になってみろ。俺たちガキにはなにも出来ねぇぞ｣

｢……｣

｢そんだけ嫉妬深い感情を乗っけた色のキスマークつけて見せびらかすのはいい方法だったかも知んねぇけど、ひっくり返せば危険だったってことだ。隆太の提案も危険との隣り合わせだってことも忘れんな｣

｢…ごめん…｣

｢ま、俺の考え方が余計なお世話だったなって笑い話になればいいけどな｣

｢…ああ…気をつける…悪いな、滝沢…｣

｢俺から雅紀を奪い取ったのがお前なんだからかな。責任持ってアイツを幸せにしてやれよ｣

｢ん、あんがと｣

電車内にお互いに警戒した目線を走らせながら滝沢とそんな話をしていた。

これについてはイノッチ先生や松本の力を借りることもあるだろうな。雅紀やその周りの人たちを巻き込まないためにも。

今日は特別だぞって言って滝沢はオレと一緒に帰るって宣言し、見事にオレを自宅まで送り届けた。

...送ってもらうってこんな感情なんだな。

なんだかくすぐったい気持ちになった。

雅紀はいつもこんな気持ちなんだな。

今日は家庭教師のバイトがない日だから雅紀に会えない。

あのサラサラのミルクティー色の髪に触れられないんだなぁ。

よっし！サプライズ仕掛けてやろう！

奇襲攻撃だ！

晩飯を食ってからオレはチャリを飛ばして雅紀んちに向かった。

会いたい。

会いたい。

サラサラのミルクティー色の髪に触れたい。

あの太陽みたいな笑顔に会いたい。

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