4月4日。

早朝。

｢雅紀。今日は診療所を休んで姉ちゃんの出産に付き添ってくる。雅紀もリハビリが終わったら病院に来て？｣

｢いいの？｣

｢いいも何も。会ってやってよ、赤ちゃんにさ。な？｣

｢ん、ありがとう。リハビリは午前中だけだから母さんに頼んで病院に連れて行ってもらうよ｣

朝ごはんの支度をしていたら翔ちゃんがコーヒーを飲みながら言った。

深夜に翔ちゃんが誰かとLINEでやり取りをしていたのはこのことだったらしい。

詳しく話を聞いていくと、本来のお姉さんの出産予定日はもう少し先だったけど、急遽今朝に帝王切開に踏み切ることになったらしい。

コーヒーの入ったマグカップを持ちながらもどこかソワソワと落ち着かない翔ちゃん。

クルクルと車椅子を動かして翔ちゃんの隣に行くと、翔ちゃんは不安そうな顔をしてた。

｢大丈夫だよ。お姉さんの出産は絶対に上手くいくはず。だって今回は翔ちゃんとお姉さんは一緒に産まれることが出来たろ？だからさ、お姉さんの出産も大丈夫。2人揃って産まれるはず｣

｢ん、そーだよな｣

分かるよ。

遠い昔の翔ちゃんはお姉さんと一緒に産まれてくることは出来なかった。

無くなってしまったお姉さんの命は翔ちゃんの体の中に吸い込まれるようにして産まれてくることしか出来なかった。

それが心のどこかで翔ちゃんに影を落としているんだろう。

もちろんお姉さんもそれを不安に思っているだろう。

だけどさ。

翔ちゃんが俺に赤ちゃんを見に来てと言ったのには理由があるんだろ？

｢翔ちゃん？｣

｢んぅ？｣

｢赤ちゃんにパワーをもらいに行くからね。リハビリに効果覿面だろうな｣

｢んっ｣

クイッと翔ちゃんの腰を引き寄せると、ちょっとバランスを崩した翔ちゃんは車椅子の前に膝をついてしやがみこんだ。

その翔ちゃんを胸にそっとしまった。

大丈夫だよ。

お姉さんのお腹の2つの命はこの世界に出てくる。

そして俺はその2つの命からパワーを貰って自分の足で立ち上がる。

そう言うと翔ちゃんは胸の中で小さくうなずいた。

小さく小さく肩を震わせながら、何度もうなずいていたんだ。

マンションの前に母さんの車が迎えに来た。

リハビリに向かいながらお姉さんの出産が今日であることを伝えると、母さんは嬉しそうに笑ってた。

そして病院でみどさんにもそれを告げると、みどさんは大号泣して喜んでたんだ。

翔ちゃん、母さんもみどさんもお姉さんの出産を心待ちにしてるよ。

お姉さんや潤さんのそばにいてあげてね。

Sounds of joy315