初めて、五人で砂丘に行く。
まーくんといつも二人で歩いた道を、今日は五人で歩いてる。
アスファルトから砂に変わる一本道。
シェアハウスからの一本道。
サクサクと砂を踏みながら、空に浮かぶ半分の月を見た。
この道も、砂丘も、月も。
何も変わってないのに、今日は少し違って見える。
サクサクと歩いて、砂丘の一番高いところでいつものように腰をおろす。
「潮くさい」
「ベタベタするしね」
「靴の中砂だらけ」
「玄関もだよ」
微笑んでるまーくんと、お約束の文句を並べる。
「それ毎回言うの?」
「うん、そう」
「文句言いながら毎日のように来てたのかよ」
「そうだよ。ね?和」
「うん」
「………砂丘も気の毒だな」
潮くさくてキライって言いながらもここに来てたのは、まーくんと二人になれたから。
俺が俺でいられたから。
今だって潮くさいのはキライで、ベタベタするのも嫌で、砂だらけになる玄関の掃除もめんどくさくて嫌だけど。
だけど、月が綺麗だから。
まーくんが優しい顔をしてるから。
みんながいるから。
だから今日は俺も少しだけ、幸せな気持ちになる。
あの頃いつも苦しそうだったまーくん。
俺の話を聞いてくれるけど、聞いてくれるだけだった。
それでもまーくんが俺を大事にしてくれてる気持ちを、ここにいる時だけはちゃんと感じられたから。
大事な時間だったんだよ、まーくん。
笑ってるまーくんがキラキラしてる。
俺は少し寂しい。
俺と二人でいた時より、ずっと嬉しそうな顔してる。
やっぱり、少し寂しい。
ずっと海を見てたら、突然櫻井さんがプレゼントがあるんだって言い出して。
プレゼント?
なんにも持ってないのに何言ってるんだろうって思ってたら、スマホを取り出してなにか話し出した。
まーくんがなにか知ってるのかなって顔を見上げたけど、まーくんも何のことって顔してて。
「ああ、山本?俺。うん、準備は?」
ヤマモト?ヤマモトって誰?
「こっちはオッケーだよ。電話切って30秒?分かった。頼む」
何がオッケーなんだろう。
30秒ってなに?
通話を終えた櫻井さんが灯台の方を指差して言った。
「見てて。俺からのプレゼント。20歳おめでとう」
ひゅるるるるるるるるー
どおおおおおん
大きな大きな、打ち上げ花火。
夜空にぱぁっと光の花が咲いた。
ひゅるるるるるるる
どおおおおん
何度もひゅるるるるるるって音がして
鮮やかな光の花が咲く。
まーくんを見たら、キラキラの目で空を見上げてた。
大野さんは目が真ん丸になってて、口もポカンと開いてた。
潤くんの顔はまーくんで隠れて見えなかったけど、すげぇって呟く声が聞こえた。
これが誕生日プレゼントなの?
花火って高そうだけど幾らくらいするんだろう?
どこからあげてるのかな?
ヤマモトって誰?
いや、人じゃないのかな?
会社?
組織?
あ、櫻井さんの使用人みたいな人たちなのかな。
チームヤマモトで櫻井さんのありとあらゆる要望を叶えるために、全力でサポートするのが任務で。
普段は普通の仕事してるけど、エマージェンシーコールですぐに集まって事にあたるプロ集団みたいな?
てことは、今回は花火職人とか連れてきてるんだよね。
あらゆる手配もお手のもの。
翔様!お任せ下さい!
みたいな人たちだったら面白いなぁ。
考え出したら止まらなくて、ちょっとの時間だったのか長かったのかわかんないけど、気づいたら花火は終わってた。
火花がちらちらと舞い落ちてきて、瞼がチリっと熱くなって、我に返る。
空気の中に焦げ臭い匂いがして、打ち上げ花火の匂いって、手持ちの花火とは違うんだって思った。
「予算や時間とかの都合上5発しか準備できなかった、ごめん。でも、おめでとうってことで」
「………しょーちゃん」
「5発しかって………。打ち上げ花火って1発すげぇ高いんじゃないの?」
「ん?うーーーーん。まあ、そこそこ?」
「………そこそこって」
櫻井さんはやっぱりお金持ちで、ちょっと変な人だけど、きっといい人なんだと思う。
「………ありがとう」
まーくんが嬉しそうで、俺はやっぱり少し寂しかったけど、俺は小さい声で花火のお礼を言った。
「どういたしまして」
優しい声で櫻井さんが答えて。
大野さんはいつの間にか俺の隣にいて、優しく笑ってた。
それからまた、みんなでシェアハウスまでの一本道を歩いた。
後ろを振り返ると、半分の月が俺たちを見ていた。