MUSICを読み終えて膝の上に広げたままぼんやりしてた。
ぼんやりした頭の中、ふと、なにかの映像が過ぎった。
それから言葉も過ぎって、また映像が、言葉が次々と現れては消える。
これはなに?
何の映像?
戸惑ううちにも映像とフレーズは、止まることを知らないように流れていく。
なぜか、書き留めておいた方が良いような気がしてパソコンを引っ張り出した。
キーボードに指を置くと、その先が分かっているかのようにカタカタと打ち始める指先たち。
書き始めると、言葉のカケラがフレーズが、こんこんと湧き出る泉のように頭の中に溢れ出す。
カタカタとパソコンを打つ。
打つそばから消えていくフレーズを追いかけるように、カタカタカタカタカタ打ち続けて。
言葉もイメージも溢れるように流れて、言葉と映像の奔流の中で溺れそう。
モノクロの世界に色がついていって、鮮やかな色のモノたちが、キラキラと輝いてたくさんの言葉を話してる。
待って、待って、待って、まだ消えないでって思いながら必死でその世界を書きとめる。
どの場面を書いているのか、どのフレーズを書いているのか、とどまることの無い色と洪水のような言葉たちと自分の境い目も曖昧なまま、書いて書いて書いて書いて書き続けて。
ふと目を開けると大野さんの腕の中にいた。
目を開けてすぐに溢れ出す映像と言葉を書きとめようと、フラフラと立ち上がってパソコンの前に座る。
カタカタなるキーボード。
木が鳥に話しかけて、鳥は仲間を呼んで答える。
川の静かな歌に、海の荘厳な歌が重なって綺麗なハーモニーが生まれる。
窓に揺れるカーテンも生きているように踊って、スリッパも跳ねて。
生きている世界。
命が芽吹くのを太陽が優しく見守る。
雨が芽吹いた命を潤す。
世界の色はどんどん鮮やかになっていく。
俺と映像と言葉と。
それ以外は存在しないような、それだけの世界だった。
いつ朝が来て、夜が来たのか。
いつ眠り、いつ起きたのかも分からなくなるほど夢中だった。
パソコンに詰まった物語のカケラ。
それぞれのカケラを見れば、その続きは心の中に溢れてくる。
そうか。
これは俺の中から生まれてきてるんだって唐突にわかって、そしたらカケラが急速にまとまり始めて、俺の中でひとつの物語となっていく。
またカタカタと動き出す指先たち。
紡がれていく物語。
気持ち良くて、頭がどんどんクリアになっていく。
命を宿したたくさんのモノたちが、生命に溢れる自然と共に生き、生きることの歓びを歌う。
新しい物語がそこにあった。
そして物語の種が残っていた。
最後のキーを押して、顔を上げた。
見上げた窓の外には青空が広がっていて。
起きてたのに、夢を見てたような気持ちだった。
すーっと静かな寝息が聞こえて、隣を見たらパソコンの横で、テーブルに突っ伏して口をぽかっと開いた大野さんが眠ってた。
手には小さなおにぎり、ストローをさしたコップも置いてある。
大野さんって声をかけようとして、口の中になにか入ってるのに気づく。
もぐもぐと噛むと米の味がした。
もしかして、俺に食べさせてくれてたのかな。
大野さんの手の中のおにぎりを取って、口にほうりこんだ。