コーヒー飲む?って聞いたら、ご飯の用意するからいいよって答えた相葉さんは、どこか大人の色気が溢れてて。
やっぱり愛されてるとこんなに人って変わんのか、なんて思った。
ハンバーグを作る相葉さんの見える位置で、ダイニングテーブルでスマホを見ながら必死で何かやってる櫻井さん。
うんうん唸っては「ダメだ」とか「買った方が早いのに...」とかブツブツ言ってて面白い。
どうもお子様ランチなんかについてるような旗を作ってるらしいって気づいたのはかなり後の方で。
それまでは何か調べ物でもしてるのかと思うぐらいの真剣な顔してスマホを見てた。
テーブルの上には線の歪んだフランスの旗のなり損ないがいっぱいで、櫻井さんって本当残念なイケメンだなって久しぶりに思う。
俺はリビングで散らかった画材とスケッチブックを片付けて、カーテンを閉めてキッチンの方から聞こえる音を聞きながらソファーでぼんやり座ってた。
時々小さく揺れて、手を動かしては指遊びのように手を組んだり指をつまんだりしてるかず。
どうしたんだ?
なんか落ち着かないのか?
気になるけど特におかしな様子は無くて、口元がむーっとしたり、尖ったり、小さく弧を描いたり、移り変わるかずの表情を可愛いなって思いながら見てた。
相葉さんの手際は半端ないらしい。
あっという間に出来上がったハンバーグがテーブルにならぶ。
目玉焼きがのった櫻井さん手作りのフランスの旗付きのハンバーグと、人参グラッセにポテトサラダにスープ。
旗の出来は...まぁ、あのおにぎり作る人の作ったもんだから、多少の歪みは仕方ないよな。
いつも通り5人分が定位置に置かれて、相葉さんはパシャッと写真を撮ってスマホを操作してる。
たぶん潤に連絡してんだなって思ってたら、さっと座った櫻井さんが待ちきれないみたいに話し出す。
「松本くんの分は俺が食べていいんだよね?」
「そのつもりで作ったからいいんだけど………」
「太るぞ」
「うっ………」
普通に2人分食べようとしてる櫻井さんに、思わずツっこむと、露骨に傷ついた顔をする。
いや、だってそうだろ?
これ結構な量あるぞ。
なあって思ってかずを見たら、ふわっと笑ってた。
傷つきながらも食欲の勝ったらしい櫻井さんがもぐもぐと食べるなか、かずはハンバーグに手をつけずに「まーくん」って相葉さんに声をかけた。
相葉さんが不思議そうにかずを見る。
「和?」
「………あのね」
「うん?」
そのままフラッと立ち上がってリビングに歩いて行ったかず。すぐに戻ってくると持ってきた茶色い封筒を相葉さんに差し出した。
怪訝な顔をしながらも封筒の中身を出した相葉さんは、その表紙を見てハッとしたようにかずを見て目を潤ませた。
「………和、これ」
「かずとおれで作った絵本です」
かずが相葉さんに渡したのは俺たちの『MUSIC』
そっか。
かず、相葉さんに見せたかったんだな。
黒目がちな目を赤くして本当に嬉しそうに絵本をめくっていく相葉さん。
その横から櫻井さんも絵本を覗き込んでた。
何も言わないかずの代わりに俺が言った。
「出版するんです」
いっそう潤んだように見えた相葉さんの目。
パラリパラリとページをめくる音だけが響いた。
「………おめでと」
優しく笑った相葉さんの言葉は、かずの心に響いたのかな。