翌日、午後になって帰ってきた潤。
休学届も出してもうやることなくなったし、今日の最終で行くわって笑った潤は、スッキリした顔してた。
荷物まとめてあるから、住むとこ決まったら送ってほしいって言うから部屋を見に行ったら、ダンボールが10個くらい積んであって本棚やベッドはそのままになってて。
「俺、ここ借りたままでも良いかな」
って、言った。
かずは少しだけ笑ったように見えた。
それからたんぽこのオムライスを作って、ゆっくり話しながら食べた。
食後のコーヒーを飲んで、立ち上がった潤。
じゃあ行くわって、玄関に置いてあったボストンバッグを肩にかけて、日が落ちたばっかりの坂を降りていく。
かずは潤が見えなくなるまでシェアハウスの前に立ってた。
潤が見えなくなって、俺の方を見たかずは少し寂しそうに見えた。
リビングに戻るとさっきより温度が下がったような気がする。
夜が更けるまで、スケッチを描く俺の横でスケッチブックを眺めてたかず。
眠る時も少し寂しかったんかな。
触れた指先を握ったら、スルリと手を繋いだ。
翌朝、目覚めても繋いだままだった手は少し痺れてて、かずと2人で笑った。
朝ごはんを食べてる時にダイニングテーブルの上のかずのスマホが鳴った。
チラッと画面を見たかずが、俺の方を見る。
「どうした?」
「松にい」
「俺が出るか?」
コクっと頷いてずいっと差し出されたスマホをタップした。
もしもしって言った途端に何でお前なんだよって文句を言われる。
「ちょっとさ、お前らの作った絵本のことで和に話しあんだけど、替れるか?」
ちょっと待っててって言って、かずに松にいの言葉を伝えるとスッと手を出したから、スマホを渡すと「もしもし」って小さい声で話した。
しばらくうんうんって返事をしてたけど、急に真ん丸な目で俺を見て、微かに笑った。
それから電話の向こうの松にいに「うん。ありがとう」って言って、また俺にスマホを差し出す。
電話を代わると、松にいはいつもの調子でバーっと話し出して、俺は相槌を打ちながら必死で聞く。
「え?マジで?すげっ」
思わず漏れた声は、ひっくり返ってた。
松にいは、俺とかずのあの絵本を松にいの本を出してる出版社の担当さんに頼んで製本してくれたんだって。
そん時に中身を見た担当さんが、是非うちで出版しませんかって言ってきたってことらしい。
とにかく和の気持ちが第一だから今確認したけど、出版するか?って聞いたら、かずがうんって答えたって教えてくれる。
え?松にい俺の意思は?って聞いたら、お前はかずに同意だろ?って言われて終わった。
「来月には本屋に並ぶと思うぞ。あ、でも原稿いるから、 明日にでも持ってこいよ」
うんって答えるのと同時くらいに電話は切れてた。
だけど、そんなことより嬉しさのが強かった。
俺とかずのあの絵本が世の中に出る。
それをかずが受け入れたことが、めちゃくちゃ嬉しかった。
スマホを置いて、ずっと話してる俺を見てたかずに良かったなって言ったら嬉しそうに頷く。
そっと腕をまわしてかずを引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
「かず、ありがとな」
コクっと頷いたかずの手が俺の背中のセーターを握った。