東京行ってからどうすんのとか、しばらく色々話してて。
それでもかずは眠ったままだったから、潤に風呂入ってこいって言った。
だって、明日東京に行くんだから。
人生かけて新しく歩き始めるんだからさ、ちゃんと風呂入って、ちゃんと寝かしてやりたいって思ったんだ。
俺も海外行く時はそれなりに覚悟して行くし、前日は必ずちゃんと風呂に入って気持ちを落ち着かせる。
新しい何かを始める時、気持ちが浮ついてるのはもちろんダメだけど、緊張しすぎててもやっぱりダメで。
一度落ち着くことが必要だと思ってる。
まぁ、空手の黒帯ならそんなのコントロール出来るんだろうけど、それでもやっぱりさ、なんかしてやりたいと思うじゃん。
ここんとこ、かずのことで潤にはかなり助けられた。
病院行った時も帰ってきてからも、相葉さんと櫻井さんがいなくてテンパってる俺を、何度も落ち着かせてくれたから。
ピリピリとんがってたのに、いつの間にこんな優しい顔するようになったんかな。
寝てるかずの顔を見てる潤の顔を見て、そんなこと思ってた。
じゃあ風呂入って寝るわって言った潤がリビングを出て行って、かずの小さな寝息だけが聞こえる。
かけた毛布からのぞく緩く握られた小さな白い手。
手のひらに残る爪の跡が血豆みたいになってて痛々しい。
どんだけチカラが入ってたんだろう。
震えてたかずの手を思い出す。
あの血走った目は、眠るかずからは想像も出来ないけど。
間違いなくあれも現実だった。
叫んで奇声をあげて、暴れるかず。
泣き叫ぶ相葉さんをただ抱きしめてた櫻井さんの姿が頭に浮かんで、俺もかずを抱きしめようと思ったけど、かずの暴れ方は相葉さんのそれとは違ってた。
相葉さんは、泣いて叫んでいても相葉さんだった。
酷く傷ついて、自分なんて要らないって泣いていても、相葉さんだった。
かずは、かずであってかずでは無いような。
目の色が違ってた。
いつものかずとは全然違ってて。
無愛想でも誰かを傷つけたりするようなヤツじゃないのに、自分だけじゃなく俺にも向かったものは何だったんだろう。
怒りなのか、悲しみなのか、絶望なのか、俺には分かんない。
分かんないけど
何とかしてやりたいと思った。
俺に分かったのは、かずが傷ついてるってことと、苦しんでるってこと。
ただ抱きしめるだけじゃダメなんだってこと。
だって、抱きしめることも出来ないくらい暴れて叫んで、ハサミまで振りかざしたんだ。
俺だけでどうにか出来るわけない。
櫻井さんが病院に行けって行った意味が、やっと分かった気がする。
愛情だけじゃ治らないって言われた意味。
櫻井さんは病気だって言った。
あの顔、狂気に満ちたあの顔がそうなんだって、やっと分かってきた気がしてる。
かずと相葉さんは似てるけど違う。
かずと俺には助けてくれる人が必要で、きちんと治療しなきゃダメだってこと納得出来たから。
小さな寝息。
少しだけピンク色になってきたかずの白い頬。
時々、ピクッと動く指。
目覚めた時、かずは暴れたことを覚えてんのか?
壁に頭をぶつけてた時みたいに、忘れてんのか?
忘れてたらいい。
忘れてる方がいいと思った。
自分で頭を打ち付けてることだって、たぶん嫌だと思ってるはずで。
暴れまくって俺に鼻血出させたとか、ハサミで襲いかかったとか、知らせたくない。
怖かったし、殺されるって思ったけど、今だって俺はかずが好きだ。
その気持ちは変わってない。
またピクッと動いた指を包むようにかずの手を握った。
眠るかずを見つめながら明日のことを考えてた。