いつものスーパーでカートを押しながら歩く俺の隣には、俺の腕に手を添えるかずがいる。
何がいる?って聞いたら、んーって少し悩んで野菜を手に取り始めた。
レタス、トマト、玉ネギ、水菜、ピーマン次々とカゴに入っていく食材。
きっと自然に身体が動くんだろうな。
かずの両親がシェアハウスを出ていくってなって、かずは戻ってきたその日から迷うことなくキッチンに立ってご飯を作ってた。
野菜を選ぶ様子は前と変わらないように見えるけど、時々目線が彷徨う。
どうしたら良いのかわからないって顔をするから、どうした?って声をかけた。
「さと...」
「ん?」
「んーん」
「疲れた?」
「だいじょぶ....」
少し話すとまた落ち着いて食材を見始める。
鶏肉と合い挽きミンチ、ハムとウインナー、それから特売のブリの切り身、玉子と牛乳を買って、カゴはパンパンになった。
「もういいのか?」
「うん...いい」
「じゃあ、レジ行くか」
「ん」
満足そうに笑うかずとレジに並んで、エコバッグに買ったものを詰めた。
左肩にエコバッグをかけて、右手はかずと繋いでシェアハウスまでの道を歩く。
かずは時々立ち止まって、道端の花やアリンコの行列を見たりする。
シェアハウスの前のゆるい坂道をのぼりながら、かずは小さな声で歌ってた。
それは流行りのアイドルの歌で、応援ソングみたいな元気な歌だった。
表情はまだ硬いけど、その明るい曲調はかずの気持ちが上を向いてきてるって思えて嬉しかった。
シェアハウスの玄関で鍵を取り出したら、郵便のバイクが門の前に止まった。
うちか?って思って振り向いたら、郵便のお兄ちゃんが松本さんに書留ですって言いながら、分厚くてでっかい封筒を出した。
サインして受け取ると見た目通り、ズシッと重くてかずに鍵を渡して玄関を開けてもらう。
「重っ、潤なんか頼んだのか?」
「じゅん...くん?」
「ん、なんだろうな」
「なん...だろ...」
話しながら玄関に入って、鍵をかけてエコバッグと封筒をダイニングテーブルに置いて、かず疲れたろ?って話しながら振り返ったら、かずがカクっと崩れ落ちてく。
慌てて手を伸ばして支えると、さとって呟いて目を閉じた。
とりあえずソファーに連れていこうと抱き上げたら、スピスピと静かな寝息が聞こえてきた。
「かず?....寝てんのか…?」
ソファーに寝かせて、体温計を持ってくる。
計ると熱はないし、汗をかいたり夢でうなされたりもしてない。
久しぶりの外出で疲れたのか。
ブランケットをかけてそのまま寝かせることにして、買ってきた食材を冷蔵庫にしまった。