握られた手を見て、それから俺の顔を見たかず。
「さと?」
小さく首をかしげた。
それは、かずの一番良くやってた仕草で。
不思議そうだったり
悩んでたり
はにかんだり
甘えたり
いろんな場面でちょっと小首をかしげて
「さとし」
って、言うんだ。
もう、堪んなくて。
我慢出来なかった。
「かず、ごめん」
唇が触れる直前に小さく謝って、その小さな唇に俺のを重ねた。
久しぶりのかずの唇は、少しカサついていたけど、やっぱり柔らかくて温かくて、そこから電気が流れるみたいに気持ちよくて。
なかなか離れられなかった。
触れるだけのキス。
かずの心に触れるような気がした。
トントンっとかずの丸っこい手に肩を叩かれて唇を離した。
「苦し....よ」
「ごめん」
「うん」
「やだった?」
真っ赤な耳のかずが、ふるっと首を横に振った。
その赤い耳も可愛くて、見つめてると俺の方を見てすぐに目をそらす。
「抱きしめていい?」
「ん....」
小さな声。
単語だけの会話。
かずの目に少しだけ色がついた気がした。
少しずつ、少しずつ前に進めばいい。
立ち止まったっていい。
少し後ろに下がってもいい。
それでも少しずつ2人で進むんだ。
いつの間にか離れていた手を握ったら、かずが小さく微笑んだ。
冷めちゃったココアを片付けてたら、潤が風呂からあがって水を取りに来た。
かずのお風呂の準備をして声をかけたら、ぎゅっと服の裾を掴まれた。
あー、これもかずの癖だったなって思いながら、その手を握って脱衣所に連れていった。
風呂に入ってるかずを待つ間、昔のかずの絵を見てた。
寂しそうな顔が多くて、もうこんな顔させたくねぇなって思った。
風呂からあがったかずは、パジャマ代わりのダルダルのシャツとダルダルのスウェットパンツで、髪はまだ雫がポタポタ垂れたままリビングに来る。
そんなかずを足の間に座らせて、後ろから髪をタオルで拭いてやる。
それから持ってきておいたドライヤーで乾かしていく。
乾かしてる間に温かくて眠くなるのか、少しずつもたれてくるかずが愛しくてしかたない。
オレが守ってやんなきゃって、何度も思う。
髪が乾いたかずはウトウトしてるけど、1人で部屋に戻るのを嫌がるから、水を飲ませてブランケットをかけてソファーに横になるようにしてやる。
急いで風呂に入って冷蔵庫から水を出してリビングにいくと、かずは起き上がってスケッチブックを見てた。
たんぽぽの絵
眠る前、夜になると必ず見てる。
きっと、幸せな記憶があるんだな。
いつも幸せそうな空気が漂ってくるから。
「かず、そろそろ寝よう」
綺麗に微笑むかずに声をかけて、2人で2階にあがった。