その指輪から目が離せなかった。
キラキラと紺色の箱の中で光ってて、さとしの綺麗な指にきっと映える。
思わず手を伸ばしそうになって、ぎゅっと手を握りしめた。
ドキドキしてる。
声が震えそうで、さとしに気づかれないように息を吸った。
「さとし」
「かず.....」
震えないように出した声は少し硬くて、さとしが俺をじっと見つめる。
「俺、それ受け取れない」
「え?」
「俺、あなたと結婚しない」
「え?なんで.....おいらのこと、嫌になった?」
「なってない」
「なら.....」
「好きだから、結婚できない。あなたと俺は嵐だから。結婚はダメでしょ?」
「ダメじゃねぇ」
「俺はダメだと思ってる」
戸惑ったような顔から、拗ねたように口を尖らせて、今は少し怒った顔してる。
ごめんね。
ごめんなさい。
俺はあなたのことすごく好きだから、みんなに知らせるようなこと怖くて堪らないんだよ。
その先に何がある?
アイドルでありながら、結婚。
しかも同じグループのメンバーと。
しかも同性婚。
それって、許される?
俺は、
俺には無理だよ。
あなたは大丈夫かもしれないけど、俺はそんなに強くないから。
もしも、否定されたら。
さとしを想うことを、否定されたら?
そばにいることが難しくなってしまったら?
ダメだよ。
無理だよ。
俺はずっと今のままでそばに居られるだけで良かったんだよ。
永遠のグレーゾーンで良かったのに。
どうして、そんな顔するの。
そんな泣きそうな顔するなんてずるいよ。
「ダメじゃねぇ」
「ダメだよ」
「ずっとそばにいたいって、言ってたじゃん」
「居たいよ...」
「なら、居ろよ」
「そばに居るのは出来る。でも結婚はダメ」
「なんで?」
きっと、この人には通じない。
俺のごちゃごちゃして、ぐちゃぐちゃな考えなんて、通じない。
だけど、俺、うんって言えないから。
「ごめんなさい。今日は帰ります」
さっきおろしたばかりの鞄を持って、動かないさとしの横を通って来たばかりのさとしの家を後にした。