仮歌を受け取って3日後、俺とさとしの予定が合って、久しぶりにさとしの家に遊びに行った。
俺は機材の調子が悪くて思ったより終わるのが遅くなってしまって、少しだけいつもより急いで着替えて、マネージャーにさとしの部屋に送ってもらった。
仮歌を頭に入れるために移動車の中でも、その歌を聞きながらゲームをする。
新曲は俺たちにとって初めてのパターンのウエディングソングで、みんなの憧れの女友達の結婚を祝う歌。
さとしだったらどんな風に振付るんだろうなんて思ってる間に、さとしのマンションに着いた。
明日の迎えもここにって頼んで、お疲れ様って言って車を降りる。
俺がエントランスの中に入るまで見届けて動き出す車。
本当にマネージャーの鑑だよなぁ。
俺とさとしのことも、何も言わずに黙認してくれてる。
このままそうやって2人で歩いていけたらいいなって思ってた。
世間に知られることなく、限りなくグレーな2人でいられたら、それで良いと思ってた。
だから
だけど
ねぇさとし。
どうして?
どうして俺にそんなこと言うの?
どうして2人の関係に波風立つようなことしようとするの?
俺には
わかんないよ。
さとしの気持ちも、自分の気持ちも。
どうしたらいいのかも。
どうすれば良いのかも。
玄関で俺を迎え入れてくれたさとしは、ソファーに座った俺の隣に座って、俺の頬に手を伸ばした。
するっと俺の頬を撫でて、それからふわりとキスをして、嬉しそうに笑った。
ゆっくりと小さな箱をクッションの下から取り出す。
その箱の蓋を開けて俺に見せると
「かず。結婚しよう」
って、少し照れくさそうに言った。
銀色の華奢な指輪がふたつ並んでた。