自転車の鍵を差し込んでカチッとならして跨る。
早く帰りたいから、松にいの家の手前の坂はキツイけど自転車で行くことにした。
傾き始めた太陽が目に刺さる。
「眩しい....」
呟きながらペダルを漕ぎはじめた。
松にいの家までは急げは20分くらい。
走り出した途端に帰りたくなる気持ちを抑えてペダルを漕ぐ。
なにか起こったりするはずないのに、かずを置いてきたことが気になって、いつもなら姿を探すブチの猫を思い出しもしなかった。
マンションの手前の坂でよっしゃ!って気合いを入れて一気に坂を登った。
自転車置き場はいつも通りガラガラで、やっぱりこんなお金持ちが多そうなマンションで自転車使う人なんて少ないんだろうなぁなんて、余分なこと考える。
やっぱ、ちょっと不安だよな。
何言われるんだろ?
急に重くなった足を叱咤しながら松にいの部屋に向かった。
チャイムを押したら驚くほどのスピードで玄関が開いて。
「おせえよ」
「や、でもチャリ、全力疾走してきたんだけど.....」
「うっせぇ。俺が遅いっつったら、遅いんだよ」
松にい、無茶苦茶だよ。
って思ったけど、言ったらまたごちゃごちゃ言われそうだから黙ってることにした。
「まぁいいや、入れ」
押し黙った俺を見て、少しだけ表情が緩んだ松にいに腕を引っぱられて玄関の中に入った。
そのままリビングに引っぱりこまれて、ちょっと座ってろって言って戻ってきた松にいが持ってたのは少し大きめの封筒。
スッと渡されて中身を確認して、ザッと血の気が引いた。
ナンデ、コレガココニ?
頭の中真っ白ってこういう事なのか。
理解できない.....。
なんで?
袋の中に入ってたのは、俺とかずの『MUSIC』だった。
「どうなってんだよ」
「..........」
「これ、なんで俺が持ってるのか分かるか?」
「....さぁ.....」
「これ、俺の世話になってる出版社の奴から預かった」
「え?」
「どうなってるんだ?」
「どうって.....」
「俺には言えないような事なのか」
「いや.....そうじゃないけど」
「コレは、お前と和の宝物だろ」
「.....うん」
「出版しないって言ってたよな」
「.....うん」
「じゃあなんで、出版社に持ち込まれた?」
「それは.....」
「しかも、お前の名前も和の名前も消えてる。黙って見逃すことはできない」
「だから、それは.....」
「どうなってるのかちゃんと説明しろ。説明するまで帰さねぇぞ」
松にいはもう怒ってなくて。
いや、怒ってるんだけど心配してるって顔してて、俺はどう答えたらいいのか、何を答えたらいいのか混乱するばっかりで、そんな俺を見てふっと松にいの表情が緩んだ。