「しょーちゃーーーん」
今日も元気に走ってくるアイツ。
手をブンブン振りながら坂を下ってくる。
道路脇の歩道には桜並木の新緑がキラキラしてて、木漏れ日が雅紀の茶色い髪に反射してすげぇ綺麗。
母さん同士が同級生で、俺と雅紀はひとつ違いの幼なじみ。
仲の良かった高校生が、大人になって結婚して、偶然にも同じ街に住むことになった。
約1年違いで子どもを授かって、その後のそれぞれの兄弟も近い年齢で産まれて、あっという間に仲良くなった母さん達に連れられて、俺と雅紀は当たり前のようにじゃれ合って育った。
大きくなるにつれて、黒いつぶらな瞳の美少女みたいに育った雅紀は、なぜかずっと俺のそばに居た。
顔は美少女でも、中身は完全な男の子。
少年野球に、バスケット。
生キズの絶えない少年だった。
今年、俺から1年遅れで高校生になった雅紀。
去年の夏は、必死で勉強してたよな。
『ぜーーーったい、しょーちゃんと同じ高校に行くんだからね!協力してよ!』
夏休みも冬休みも、俺は雅紀の受験勉強に付き合って、2年間受験生みたいだなんて思ったんだ。
努力が実って合格通知が届いた日。
『しょーちゃん、好きだよ。俺と付き合って』
グズグズに泣きながら、俺に抱きついたままで告白してくれたんだよな。
俺は言えなかったから。
色んなこと考えて迷ってる俺に、真っ直ぐな愛情を示してくれる雅紀。
『しょーちゃんも俺のこと好きだよね。ね?もういいじゃん。付き合おうよ』
そう言って、俺にキスしてきた雅紀。
勢い良すぎて、歯がぶつかってお互いの唇が切れたのも良い思い出だな。
ティッシュで唇の血を押さえながら、俺に好きだって言う雅紀を見て、やっぱり好きだって思ったんだ。
きっと、コイツより好きになれるやつになんか出会えない。
唇は痛くて、腹が立つのに笑っちゃって、しょげてるのに笑ってる雅紀が可愛くて仕方なくて、俺からもう一回キスしたのが始まりだったな。
春になって、毎朝お互いの家の真ん中の坂の下で待ち合わせて学校に行くようになった。
毎朝、少しだけ雅紀の方が遅くて、時間には余裕があるのに坂を駆け下りてくる雅紀。
髪が風になびいて、キラキラしてる。
「しょーちゃーーーーん」
「気をつけろよ」
「だいじょーぶーー!」
ブンブン手を振りながら嬉しそうに笑ってる。
俺も手を振り返して雅紀を待つ。
今日もいい天気だ。
「しょーちゃん、おはよ」
「おはよ、雅紀」
「行こっか」
「おお」
「いい天気だねー」
あっという間に坂を下りてきた雅紀とてくてく歩きだす。
梅雨の晴れ間の青空を見上げてる雅紀。
「雅紀ー」
「なにー?」
「好きだ」
「えっ?」
真っ赤になって慌ててる雅紀の手を握って歩く。
「おっ、俺も。好きだからねっ」
可愛い雅紀の手をひいて歩いた。
おしまい