「ねぇ。さとし」
「ん?」
「しばらく、俺、自分の部屋に戻る」
「は?」
「アナタが、バカなこと言わないなら帰るけど、俺の仕事にそんな風に干渉するなら、しばらくアンタの所には帰らない」
「何言ってんだ」
「わかってるでしょ?」
「許さねぇよ」
「俺のこと、無理矢理連れて帰るの?」
さとしの低い声と少しキツくなった目。
咄嗟に掴まれた手首。
ゾクゾクするのは、俺がこの人を好き過ぎるからなんだろうな。
こんなにもこの人は俺を必要としてくれる。
そばに置くことに執着を見せる。
何事にも、自分の意見は後回しな人。
大切なこと以外は、譲ることを嫌がらない。
物凄く男らしい人なんだ。
その目には弱いんだけど、アンタの言う事聞きたくなっちゃうけど、今日はダメ。
だってね、俺は一応まだアイドルなわけよ。
おじさんだけどね。
そんで、やっぱりちょっと色気のある仕事だって需要あると思うんだよね。
もっとおじさんになったら、そんなの無くなるかもしれないけど、お仕事くれる人がさ求めてくれることには、ちゃんと応えたいじゃん。
俺の都合で、断るなんてことしたくない。
スケジュールとか、事務所の方針とかそうゆうのは、仕方ないけど。
それ以外の俺の個人的な理由で、仕事選ぶようなことしたくない。
どんな仕事だって、いつも通りの俺で臨みたいんだ。
この人は、そのこと1番知ってるはずなの。
俺がちゃんと言えば分かってくれるはずだもん。
怒ってるの、俺。
アナタの気持ちは嬉しいけど、でも怒ってる。
さとし、わかってるでしょ?
じーっとさとしを見つめる。
「さとし、離して」
「嫌だ」
「...............」
「...............」
無言で見つめ合う。
さとしの指に、ぐっと力が入った。