ほわほわの湯気がたちのぼって、ほんの少し甘い鴨の匂いがする。
ブロックの鴨を炙ってあるのかな。
脂身に焦げ目がついてて、香ばしくて旨みがギュッと詰まってる。
おつゆは鴨の出汁とネギの甘味でふんわり柔らかい味がして、お蕎麦に絡んで美味しい。
「うめー。これ旨いな」
「ね。美味しい」
「この鴨も旨い」
「うん。じゅわっとしてて香ばしくていいね」
「おう。」
「鴨汁そば美味しいんだー!」
「俺も、いつも迷うんだよ。でもざるそばが旨すぎて、結局ざるそばばっかり食べてるわ」
「うんうん。しょーちゃん、この間も天ぷらざるそばだったもんね」
「本当に旨いんだよなー」
みんなでお蕎麦を食べながら話す。
相葉さんがソワソワしてるから、きっと鴨汁そばを食べてみたくて言い出すタイミングを探ってるんだろうな。
「雅紀、ざるそば食うか?」
「えっ?あ、うん、ありがと。しょーちゃん」
「雅紀のもいいか?」
「うんうん。はい、しょーちゃん」
「おー、温かいのも旨いなー」
「ざるそば冷たっ。でも美味しいなー」
「旨いなー。今度は温かいのもアリだな」
「あ、しょーちゃん。ほっぺにおつゆ飛んでるよ」
「ん」
仲良く話しながら食べてるふたり。
俺たちよりラブラブなんじゃないの?
翔さんのほっぺたのおつゆを相葉さんが、おしぼりで拭いてあげてる。
当たり前みたいな顔しちゃって、翔さんのそんな顔ちょっとレアですよね。
「かず.....」
小さな声でさとしが俺を呼んだから、さとしを見たらむふふって笑いながら
「相葉ちゃんと翔くんラブラブだな」
って、嬉しそうに言うから「うん」って、返事をするかわりに頷いた。
したら、俺の大好きなふにゃんとした顔で笑ってくれて、お店の中なのにキスしたいなんて思ってしまった。
「あー!ニノちゃんとおーちゃん見つめ合ってるー。なんかエッチ」
「なっ.....」
「良いだろ?」
「智くん、そこ威張るところじゃないから」
「もー、さとっ」
「ダメか?」
「ダメって言うか.....恥ずかしいでしょ?」
「ニノちゃん、可愛いー!」
「雅紀、鴨汁そば食べさせて貰ったら?」
「あっ、そうだった。ニノちゃん良い?」
「これ食え!」
相葉さんの言葉に、俺が頷くより早くさとしが自分のそばを相葉さんの前にズイッと差し出して、睨みをきかせてる。
もー、本当に意味不明。
なんで睨んでるの。おかしいでしょ?
「そっか、ごめん。おーちゃん。ニノちゃんのはダメって言われてたんだった」
「ん。わかればいい」
途端にヘラっと笑うさとしを見て、なんとなく色んなことを諦めた方がやっぱり良いんだろうなって思ってたら、なんか斜め向かいに座った翔さんも「仕方ないな」って苦笑いしてた。
ふうーって、ひとつだけため息が小さく出たけど、机の下で繋がれた俺の右手をさとしがキュッて握ったから、つい嬉しくなってフフって笑ってしまった。