車の中で、ずっと手を繋いでた。
離したら、雅紀の気持ちも離れていきそうで。
その体温を感じていたくて。
マネージャーは、当たり前のように俺のマンションの地下駐車場の車寄せに車を停めて、俺と雅紀が降りるのを待った。
「ありがとう」
「明日はお二人とも10時のお迎えです。こちらで良いですよね?」
「ああ」
「....うん」
雅紀はちょっとためらいつつも、ここへの迎えで良いって返事をした。
その事だけで、かなりほっとした。
手を引いて車を降りて、何も話さないまま部屋まで歩く。
エレベーターの中も黙ったままで、だけど途中でギュっと手を握ってくれたから、俺も気持ちを込めて握り返した。
「座って」
リビングに入ったら、心許ないような顔をしてるから、促してソファーに座らせた。
「コーヒー飲むか?」
「あっ....うん。俺がやる」
「じゃあ、頼むな」
雅紀がコーヒーを淹れてくれる間に、お風呂をザッと流して、湯はりボタンを押しておく。
エアコンが効いてきて、温かくなり始めるのと同時に、コーヒーの良い香りがキッチンから漂ってくる。
「雅紀」
「なに?危ないよ」
コーヒーを淹れる雅紀を後ろからそっと抱きしめた。
首筋から雅紀の甘い匂い。
鼻先を埋めて、思い切り吸い込む。
「もー、しょーちゃんくすぐったい」
怒ったような声だけど、怒ってはいない。
ちょっと拗ねてるときの声だ。
「ほら、コーヒー入ったよ。行こう」
振り向いた顔は、可愛くて。
だけど、今キスしたらコーヒーこぼすよなあって妙に冷静に判断して、俺のコーヒーを受け取ってソファーに移動した。
「うまいな、雅紀のコーヒー」
「ありがと....」
「雅紀が好きだ。だから、コーヒーも最高にうまい」
ちゃんと言わなくちゃって思うあまりに、なんか詐欺師みたいなこと言ってる気がする。
大丈夫なのか?
じわっと手汗が滲んできた。
「しょーちゃん、俺のこと好きなんだよね?」
雅紀が小さな声で話し始めた。
「好きって思ってくれてるのは分かってる。....だけど.....一番は、にのちゃんでしょ?」
泣きそうな顔で、俺をその黒い瞳でじっと見つめながら言った。
その言葉を待ってた。
そうすれば否定できる。
お前が何にも言わないのに、俺から言うわけにはいかない。
そんなの逆に怪しまれる。
「俺の好きなのは、今も昔も雅紀だけだよ。ニノを好きだったこともない。あいつは可愛いし、あいつには甘いよ俺は。だけど、妹みたいなんだよ。どうしても厳しく出来ない。そのせいで、雅紀を不安にさせて本当にごめん」
頭を下げて、ちゃんと言葉にして伝える。
伝わっただろうか?
「しょーちゃん。ありがとう」
ふわりと雅紀の匂いに包まれた。