タクシーの中で、雅紀にメッセージを送る。
「会いたい。今から行く」
ほんの数分で、返事がきた。
「分かった。待ってる」
絵文字も、スタンプも何にもない。
そういえば、少し前まで可愛いスタンプや、面白いスタンプも付いてきてたのに、ここ最近は言葉だけで、甘い雰囲気も無くなってた。
ましてこの3週間は忙しくて、うっかり連絡したら会いたい気持ちを我慢できなくなるって思って、連絡するのさえ控えてた。
分かった。待ってる。って、それだけしか返ってこなかったことが、俺が雅紀をどれだけ追いつめたのか思い知らされるようで、落ち込む。
もう、手遅れだったらどうしようとか、余計なことばっか頭をよぎる。何も考えたくなくて、音楽を聞いてた。
マンションについて、震える指でインターホンを押した。
返事は無かったけど、自動ドアが開いたからエレベーターへと進んだ。
速いはずのエレベーターがやけに遅くとも感じる。扉が開ききるのも待てずに降りて、部屋の前まで早足で行く。
そこで、部屋のチャイムを押すのが怖くなった。
押せないままドアを見て、頭の中で言うことをシミュレーションする。
何度かおさらいをしてたとき、ドアがガチャっとなって、中から雅紀が扉を開けた。
コートを着て、どこかに行こうとしてるような姿の雅紀に呆然とする。
「なんで?俺…」
俺の言葉を途中で遮って話し出した雅紀の顔には、何の感情も乗ってなかった。
「そこ、どいて」
声にも、何の感情も見えない。
「雅紀、俺….」
「俺、出かけるから。しょーちゃん、帰って」
「雅紀、なんで?」
「玄関の前まで来てそんなに悩むなら、そんなに俺と話すの嫌なら来ないで。もう、話しかけたりしないから」
「嫌じゃねえよ。お前にちゃんと伝わるように話したくて、必死で考えてた。それに…」
「もういいって。あ、それともシタかった?」
泣きそうな目で、口の端を歪めて話すその言葉に、胸が痛んだ。
手を握って、その綺麗な黒い目を覗きこんで。
「雅紀、話したいことがあるんだ。家に入れてほしい」
ビクッと雅紀の肩がはねた。
こくんとうなずいて、玄関の中に入れてくれたから、ドアが閉まるのと同時にその細い体を抱きしめた。
「雅紀、ごめん」
「う....ん」
「マジで、ごめん。俺が悪かった」
「うん。もう、わかった....から」
雅紀の腕が、おれの胸を押した。