私はあまり誰かを羨ましく思う事はない。
生まれ変わってもまた自分で良いと思う様な人間である。
今までカッコイイと思ったのはあしたのジョーの矢吹丈と空手バカ一代の大山倍達とジョジョの奇妙な冒険のジョセフ、そしてワンピースのサンジだけ。
そんな私が新年会たるものに参加させていただいた。
そこでうしろシティの阿諏訪が料理を振る舞う事になった。阿諏訪の料理はテレビなどで拝見しているが実際に口にした事はない。しかし百聞は一見にしかず。私は自らそれに触れてみないと確信が持てないタイプである。
まず阿諏訪が作ってくれたのが
トマトの前菜。
「料理ができるまでどうぞ」というこの気遣い。
更にトマトがひっそりバラの形をしている。
マジか阿諏訪。俺らやぞ。気心知れた俺らにバラの形をあしらって来るて何やねん。
なかにしさんなら塩だけ与えて丸かぶりで行かすぞ。
一口食べるとその食材の一体感に驚いた。
この一体感。憧れている家庭の形である。うちの家にもこの一体感が欲しい。
いやいやまだ前菜。私は一品では信じない。
次に阿諏訪が出して来た料理
もつ鍋。
行きつけの肉屋でわざわざホルモンを。
阿諏訪。何やこのホルモンの肌の色は。湯上がりの乙女やないか。
一口食べると私は乙女の虜となった。
更にその後は
味を変えて出して来た。
阿諏訪よ。坂本龍馬が死ぬ前に軍鶏を買って食べようとした鳥鍋やないか。
龍馬。君が生きてたらさぞ食べたかったろうに。
そしてさっきと全く違う味。
私は興奮して思わず近所迷惑を考えず「美味い!」と叫んでしまった。
龍馬。君が見ていたらきっと私に「ほたえな!」と言っただろうな。
しかしここまでは阿諏訪が選んで買った食材。
ここからが本番だ。
なぜなら我々もアメ横で食材を買って来た。しかも阿諏訪に頼まれた訳ではなく完全に個人の趣味で選んだ食材を。
我々が買って来たのはたらと大トロと中トロと刺身用の海老。
さあどうする阿諏訪。
つみれ!?
鳥も海老もつみれにして来た!
海老の数も計算し、そのまま鍋に入れる海老とつみれの海老、残りは刺身にもしている!
たらのエキスもふんだんに鍋に染み渡り最高の味を出している!
料理人阿諏訪に死角はないと言うのか。
いや阿諏訪。実はそんなにさばいた事なさそうな食材も用意しておいた。これは我々の意地悪と言っていい。
それはナマコ。
いやしっかりハラワタ抜いてさばいてるやん!
ナマコ切るのちょっとかたくない!?
そう言えば阿諏訪が料理を始める前包丁が切りにくいかもという一言に対して彼はこう返していた。
「切れない包丁の切り方があるんで」
何やそれ!
やりよった。
まいったよ阿諏訪。すごいよ阿諏訪。
え!?何してんの!?それ捨てるんやろ!?
「これはビスクにします。」
ビスク!サンマルクカフェとかで見たやつやん!
「中トロは刺身にしましたが大トロは刺身に向いてなさそうなやつだったんでネギトロにしました。醤油も隠し味入れてますんで。」
料理が終わり彼はベランダで夜の東京の街を見つめながらタバコをふかした。私はそれを見て思った。
「サンジやん。」
お前もうワンピースのサンジやん。
どんだけかっこええねん。終始立ちっ放しで我々の為に料理を振る舞い、美味いと言う声を背中で聞きながらタバコをふかす。
阿諏訪。お前もうサンジやん。
オールブルー見つけたらすぐ教えるわ。
阿諏訪は若い頃料理の修行を積んだらしい。
今日阿諏訪に気付かされた。
人間は若い頃の財産がどれ程大事かを。
私には何もない。
私は幼少期より習い事は全て避け、面倒な物も全て排除して生きて来た。
結果彼のように料理などできるはずもない。
面倒を避けて生きて来た私には積み上げた物など何もないのだ。
しかし私はこう思った。
阿諏訪よ。
君にキャプテン翼の日向くんの小学校時代のバイト先がわかるか。一休さんの第二話で一休さんがやったとんちがわかるか。ファミコンの聖闘士星矢黄金伝説完結編の最強パスワードがわかるか。
積み上げた物が私にもあった。
ただこれを答えた後にタバコをふかしても阿諏訪の様な背中にはならない。
阿諏訪泰義。
私がカッコイイと思うサンジはここにいた。
最後に
本の告知だよ阿諏訪。
買うよ。私も。
それではまた。