イチョウの木

 

「マイ箸」を持ち歩き、それが自然保護に大きな貢献をしている

と勘違いされた時期がありました。

それこそ、「木を見て森を見ない」行為です。

 

人間が森林に手を加えること自体が「悪」であるような、

歪んだ風潮がつくられていたこともあります。

 

私たちは、一面的にものを見るのではなく、

木と森の両方を見る必要があります。

 

昔の人は炭づくりのように積極的に樹木を、人間の営みに活用しました。

木炭に適しているのは固い広葉樹で、カシ、クヌギ、ナラです。

 

以前は木炭づくりのために、森林に人が入りました。

最近は広葉樹が少ないうえに、需要の範囲が狭まっています。

そのため、荒れた森林が増えています。

 

森林と人間とは、持ちつ持たれつの関係が必要です。

人間の手が入らない森林が、近年荒れているのです。

 

さて、イチョウの木です。

広い葉を持っていますので広葉樹だと思われがちですが、針葉樹です。

(ウイキペディアでは広葉樹でも針葉樹でもない、と説明されています)

 

世界最古の現生樹種の一つで、家具・建具の材料、天板に活用され、

カヤに似ていることから将棋盤、碁盤にも使われますが、

まな板としてよく知られています。

 

イチョウは日本国内で52~57万本あるとされます。(2007年現在)

全体の8%ほどを占めていますから、サクラと同じくらい

身近なものといえます。

 

冬季はサクラと同じで、グロテスクな容貌になるので

親近感がわかないといわれます。

 

イチョウは春と夏にかけては涼しげで、

秋にはとても魅力的な色彩になります。

紅葉が、何とも言えない美しさを放ちます。

 

そのイチョウが街路樹に活用されているのには、

それなりの理由があります。

「防火」に効果的である、ということです。

 

イチョウは葉が厚く水分をたくさん含んでいます。

幹にもたくさんの水分があり、木自体が強いので防火に効果的です。

 

寿命はどうでしょう。

イチョウは1億5千年ほど前からあり、「生きた化石」

といわれるほど長寿です。

(樹齢1億5000年の木があるわけではありません)

 

イチョウには老化の遺伝子が存在しないという研究報告もあり、

実際どのくらいの寿命なのか不明、というのが本当のところです。

 

過酷な条件下に置かれる街路樹としてイチョウの寿命も、

実はわかっていません。

 

定期的に植え替えるべきだという街路樹の考え方に、

果たしてイチョウが当てはまるものなのかわからないのです。

 

伐採禁止なら

 

森林と漁業は、実は密接な関係にあります。

樹木によってつくられ、川から海に流れる植物プランクトンが

動物プランクトンの餌となり、それを小魚が餌にする。

そして小魚を中・大型の魚類が食べることで、猟場が豊かになります。

 

森林の営みが海につながっていれば、魚が捕れて

人間生活が豊かになります。

魚類のカスを鳥が食べ、その鳥が山林に糞をばらまき、それが

植物の栄養源になるという、自然のサイクルが成り立っていました。

 

大事なのは、この自然のサイクルです。

武蔵野台地は、これによって緑豊かになりました。

 

街路樹は、このサイクルの外にある孤立系の植栽です。

現在の形態としての街路樹を増やしても、

生態系の整備には貢献しません。

 

あえて生態系の関係をとなると、「ビオトープ」

ということを意識したものにする必要があります。

 

そうした視点を欠いて樹木を伐採してはならないという主張は、

論理破綻に陥るものほかなりません。

 

      ビオトープ:野生の動植物が生態系を保って生息する環境。

       また、公園などに作られた、野生の小動物が生存できる環境。

 

樹木の伐採については視野を広げて議論し、

感情で判断しないことが大事です。

別の言い方をすれば、科学的な議論を展開したうえで、

可否の判断をすべきではないかということです。

 

本当に樹木を大事にしたいということであれば、

ソーラーパネル敷設のために樹木が伐採されている現実を直視し、

それを止める声をあげるべきではないでしょうか。

 

そうした基本的な姿勢を持たない人たちは、

近視眼的に、あるいは政治的に「木を切るな!」と叫び、

いかにも自然を大事にしているポーズをとります。

 

そのことで「環境にやさしい人」という、

イメージが形成されるからだと思われます。

中には、混乱を目的にする人がいそうです。

 

「木を切るな」、という意見自体が悪いわけではありません。

視野と一貫性が問題なのです。

 

神宮外苑地区の再開発が問題になっています。

外苑の60パーセント以上は、明治神宮が所有者であるとのことです。

いまの日本では、私的所有者の意向を無視するわけにはいきません。

 

外苑の森を守れという意見がありますが、外苑に森は見当たりません。

現状を一切変えてはいけないということでなければ、

外苑再開発は自然保護の視点を加味して考えられば済む話です。

 

 

千代田区の「街路樹伐採問題」はどうすべきでしょうか。

 

区議会がちゃんと勉強をして、科学的な議論を行うべきです。

区議会議員が選挙を意識した、人気取りで有利な側につくようでは、

地域の対立構造を複雑にするだけでしょう。

 

昔の議会は、左右を問わず議会として自然保護の勉強会をやりました。

当時の議員なら、必要最低限の知見は有しているはずです。

いまも、当時勉強会に関わった議員が何人か残っています。

 

先輩議員の皆さんの、あのときの知識はどこへいってしまったのでしょう。