今年観た映画のパンフレット。今回は「PERFECT DAYS」。役所広司が去年のカンヌ国際映画祭で主演男優賞を獲得したヴィム・ヴェンダース監督作品です。

 

 東京の下町のアパートに住む平山(役所広司)は、朝、近所の老女の箒の音で目覚める。布団を片付け、歯を磨き、髭を整え、清掃用のユニフォームを着て家を出る。アパート近くの自販機で缶コーヒーを買い、車に乗って職場である渋谷の公園のトイレに向かう。車内では古いカセットテープを聴き、到着すると、清掃を始める。昼は近くの神社のベンチでコンビニのサンドイッチを食べながら、木漏れ日をフィルムカメラで撮影したりする。仕事が終わるとアパートに戻り、銭湯の一番風呂に浸かる。そして地下の行きつけの居酒屋で一杯ひっかけ、帰宅し、文庫本を読んで寝落ちする。週末は、衣類をコインランドリーで洗濯したり、古本屋で読み終えた次の本を探してみたり、美人女将のいる居酒屋に行ってみたりして時間を過ごす。仕事でちょっとした動きはあるものの、平山の生活は規則正しく進む、そんな平山に、ちょっとした出来事が起こって、という話。

 

 「観なきゃ、観なきゃ」と思いつつ先送りしていた本作をついに映画館で観てきましたよ。TBSラジオ「東京ポッド許可局」でさんざん話題になってきた本作です。期待して鑑賞するとその期待から「思ってたほどじゃないかな」と感じることが多々あるのだけど、今回はそんなことはなかったです。これ、とっても良かったです。何が良かったのかなあ。よくよく考えているのだけど、わからない。自分の生活と照らし合わせても「こういう生活がしたいのか」と問われれば、多分「ノー」と答えるだろうけど、でもその平山の生活がとても心地よく感じてしまうのです。

 

 それは平山の心持ちの問題なのかな。こういう生活をする前の平山が垣間見えるシーンでの平山の表情、そしてハグ。「この世界には、たくさんの世界がある。つながっているように見えても、つながっていない世界がある」。それがわかっていながらも、それぞれの世界で生きる人たちに温かい視線を送る。時に微笑み、時に憤り、時に困惑し、時に涙する。そんな平山がとても愛おしくなってしまう。

 

 そう感じさせてくれるのは、もちろん役所広司の演技もあるが、ヴィム・ヴェンダース監督のドキュメンタリーチックな演出だったり、周囲を固める個性的な役者のそれぞれだったりするのかな。公衆トイレの清掃員という、およそ商業映画では考えられない主人公の設定もあるのかもしれない。さまざまな面で見て、ある種「完璧な映画」と言えるのかもしれない。

 

 ちなみに平山が毎朝飲む缶コーヒーはSUNTORYのBOSSでした。