アップしていなかった映画パンフレット。今回は2023年9月に観ていた「アステロイド・シティ」。群をぬく作家性を持つウェス・アンダーソンの最新長編映画です。

 

 「アステロイド・シティ」という舞台制作の裏側を白黒テレビの番組として再現するという体のモノクロ映像のストーリーと、その「アステロイド・シティ」のストーリーが交互に語られる構造の映画。舞台芝居という設定の「アステロイド・シティ」。その制作の裏側が舞台芝居として再現され、舞台芝居の「アステロイド・シティ」がフルカラーの映画として表現される。なんとも奇妙な映画です。

 

 フルカラー映画として展開する方は、ウェス・アンダーソン独特の絵作りや饒舌な台詞回しが心地よい。アメリカ南西部の砂漠の街アステロイド・シティ。隕石が落ちた後のクレーターが観光資源となっているこの地でジュニア宇宙科学賞の授賞式が行われる。そんな街に14歳のウッドロウ(ジュニア宇宙科学賞の受賞者、ジェイク・ライアン)と3人の妹がカメラマンの父オーギー(ジェイソン・シュワルツマン)と訪れる。彼らはこの先にある妻の実家に向かう途中だったのだが、車が故障してアステロイド・シティまでレッカー車で連れてきてもらった。オーギーは、妻(最近亡くなってしまった)の父のスタンリー(トム・ハンクス)に街まで迎えに来てもらうよう電話で呼び出す。さらにこの街にはマリリン・モンローのような映画スター、ミッジ(スカーレット・ヨハンソン)も娘でジュニア宇宙科学賞受賞者のダイナ(グレイス・エドワーズ)と一緒に滞在していた。そんなアステロイド・シティのクレーターの中で行われるジュニア宇宙科学賞受賞式の最中に、なんと宇宙人がやってくる! そのため街は封鎖されて、という話。

 

 一方のモノクロ映像の方はいくつかのエピソードが語られるもののなかなか掴みにくい。劇作家コンラッド・アープ(エドワード・ノートン)、演出家シューベルト・グリーン(エイドリアン・ブロディ)、演技指導のソルツバーグ・カイテル(ウィレム・デフォー)、シューベルト・グリーンの妻ポリー(ホン・チャウ)、オーギーの妻役だったのだが出番がなくなった女優(マーゴット・ロビー)などなどが、舞台の裏でわちゃわちゃする。哲学的な問い掛けや意味深なやり取りで、カラー画像とは明らかにテイストを変えていて、観ている側もあたふたしてしまいます。

 

 全体的にはカラーの方の印象が強いので、楽しい映画です。ただ、その端々にモノクロ画像が差し込まれてくるので「楽しいだけじゃないぞ」って釘を刺される感じです。それもまた楽しく感じられるっていう、不思議な映画です。特に楽しいのが、カラー映像に出てくる宇宙人の存在。ウェス・アンダーソンの映画に宇宙人が登場するってだけで、意表を突かれた感じです。とても良い。

 

 最後に余談を。先の「市子」もこの「アステロイド・シティ」も、すでにAmazon Primeで見放題になっている。そういう世界になりましたか。でも、映画館で観るのとサブスクで観るのとは大きく異なる。これからも映画館には通いますよ。