代筆屋の仕事の裏側──たった1行の言葉に、何時間もかける理由
代筆屋という仕事をしていると、
「文章って、そんなに時間かかるんですか?」と聞かれることがあります。
正直に言えば、かかります。
時には、たった1行を書くだけに数時間、いや数日かかることもあります。
でもその理由を説明しようとすると、少し言葉に詰まってしまう。
“時間がかかる本当の理由” は、、、
■ 相手と依頼者の“あいだ”にあるものを拾う作業
代筆屋の仕事は、依頼者の言葉をそのまま文章にする仕事ではありません。
依頼してきた人と、その相手とのあいだに漂っている
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言えなかった気持ち
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本当は伝えたいのに飲み込んだ思い
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どこから話せばいいかわからない過去
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たった一つの後悔
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ずっと心に刺さった小さなトゲ
そういう “形にならない部分” を拾い上げることから始まります。
これが、とにかく時間がかかる。
たとえば依頼者が「ごめん」と言ったとき、
その「ごめん」は本当に謝罪なのか、悲しみなのか、恐れなのか、
あるいは「離れたくない」という願いなのか。
同じ言葉でも、依頼者によってまったく違う意味や意図を持ちます。
その違いを見落とすと、文章は表面だけの薄っぺらいものになってしまう。
だから私は、まず“あいだ゛にあるものを拾う作業に時間をかけるのです。
■ 1行の裏側に、依頼者の何年もが詰まっている
ある依頼で、どうしても書けなかった1行があります。
「本当は、ずっとあなたを恨んでいました。」
この一文を書き出すまでに、7時間ほどかかりました。
文章力が足りなかったわけではありません。
依頼者は言いました。
「でも……恨んでいた自分も、嫌だったんです。」
その揺れをどう書くか。
恨みと、悲しみと、好きだった気持ちと、諦めと、怒りと、感謝と――
複雑に絡まった感情の糸を、ひとつずつほぐしていくような作業。
そして気づいたのです。
ああ、この1行を書き切れば、この人は前に進めるんだ、と。
この1行に依頼者の何年もの過去や未来が詰まっている。
だから私は、1行に何時間でも何日でもかける。
その1行が、依頼者の人生を左右するからです。
■ “削る”ために時間を使う
代筆屋の文章は、派手ではありません。
むしろ地味で、静かで、余白が多い。
でもその静けさを作ることに一番時間がかかる。
文章を書きながら、何度も何度も削っていく。
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美しいけれど相手の心を締めつける言葉
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正しいけれど伝わらない理屈
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自己満足になりそうな一文
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言い過ぎてしまう言葉
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足りなすぎる言葉
この「削る作業」は、想像以上に時間を食います。
でも、削って、削って、削っていくと、
ふっと “本当に書くべき1行” が姿を見せる瞬間があります。
その瞬間のために、私は机に向かっているのかもしれません。
■ たった1行で、人生が動くことがある
大げさに聞こえるかもしれませんが、
代筆屋の現場では、これは珍しいことではありません。
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ずっと止まっていた関係が一歩進む
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何年も戻らなかった返事が届く
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交わらなかった心が、やっと触れ合う
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終わりかけた関係が、静かに息を吹き返す
そのきっかけが、たった1行の言葉だったりします。
文章の長さではなく、言葉の量でもなく、
“感情の芯に触れているかどうか”。
が相手の心を動かす。
だから私は、1行に何時間もかけるのです。
その1行が、依頼者の人生の歯車を、ほんの少しだけ動かすかもしれないから。
■ 最後に
文章を書くことは、心を磨く作業に似ています。
丁寧に扱えば扱うほど、
その人の本当の気持ちが静かに光り始める。
代筆屋として、私はその光を言葉にする手伝いをしています。
もしあなたにも、どうしても形にできない気持ちがあるのなら、
その一行を見つけるところから、お手伝いできるかもしれません。
代筆屋ナカジ
追伸 まぁほんとにエネルギーのいるしんどい仕事をしてるなと自分で思います。
だからこそ責任感があるし、やりがいもある。
報酬を頂けることも嬉しいですが、何よりも、「あなたに依頼してよかった」「ありがとう」
依頼者からのこうした声に勝る喜びはありません。
物書きとしても一人の人間としても、生きていて良かったと思える瞬間です。

