夜中に眼が覚める。
時差ボケのせいなのかな?真夜中なのに何故か妙に頭が冴えてる。
そのまま眠りに着けなくてテラスに出て台湾の夜を見る。
ちょうど良い風が吹いていてそのまま心の中に吹いてくる。
空を見上げたら星が輝いている。
どこの空も同じ。
星も月も、とても綺麗。
身体の調子は相変わらず良くない。
頭のフラフラと左手の痛み。
でも心は踊ってる。
もう旅が過去になりつつある。
振り返ってみると一瞬だった気がする。
本当に一年半もギターだけで生活してきたんだったよな。
一週間とかの期間限定ではなくて生活そのものをギターで稼ぎ出す生活。
ほんと一瞬だった。
まるで自分の人生ではないような感覚で過ごしてきた時間。
どこか他人事のような、どこか夢見心地のような。
日本を出発した時に止まってしまった日本での時間はどんな感じなんだろうな?
時計は直ぐに元どおりになるのかな??
朝日が昇ってくる。
日本でも同じように朝日が昇った頃。
時差もない。
本当にいよいよだ!
いよいよ本当に日本に帰れる!!!
太陽を見た途端に眠気がきて昼過ぎまでベッドで眠る。
飛行機は夜の便。
ここから大阪までは2時間とか3時間とか。
いずれにしても今日中に帰れる!
飛行機の時間まで宿で写真を眺める。
このフォルダを開ければそこにあるのは確かな日々。
楽しそうにギターを弾いている俺や景色に溶け込んで格好付けてる俺。
俺を見ている幸せそうな各国の人や街に溶け込む自然体の人々。
日に日に傷が増えていくギターやオーラが増していくハーレーの姿。
写真ではおさまらない広大な景色。それを頭の中でイメージ出来る今の俺。
素晴らしい。
どの日を切り取っても素晴らしくて、ピッカピカに輝いている。
そう思えばこんなにも笑顔で過ごした期間って中学生以来かもな。
あの何も気にしないでただただ目の前のことに楽しでいたあの頃以来。
そのくらい自由だったってことだよな。
何故か自ら厳しい環境に身を置いて、まるでその世界を楽しんでるように。
上手くいかないということを楽しむためにわざとギリギリの暮らしをしてみたり。
思えばこの一年半、、。誰からも命令されずに。誰からも意見を言われずに過ごしてきた。
同じように誰にも命令してないし誰にも意見を言ってない。
常に自分に向けて問いかけて、答えを自分の中に見つけてきた。
自由だったよな…。
何びとにも縛られずに、それこそ社会の枠からも外れて誰も俺を知らない世界で生きてきた。
無理して無理して、それでも無理して。
勇気を絞り絞って旅に出て。
気が付けばいつの間にか恐怖というものが消えていたな。
世界のことを知らなかった一年半前の俺はもうこの世にいなくて、今いる俺はあの頃と全く違う。
お金に関する概念、時間に対する概念、人生に関わる概念。
優しさの意味、虚しさの意味、挑戦の意味、勇気の意味、愛しさの意味、諦めの意味。
そんな全てにおいて。
全ての項目でレベルが上がってる。
旅に出て良かった。
人は器を大きくするために生きていると仮定するのであれば俺の器はだいぶ大きくなった。
飛行機に乗り込む。
この旅最後の旅。
きっとだけど。
でもあながち間違いでもない。
ふと思う、こんなこと。
「俺は世界で一番、多くの人の優しさに触れた人だったんじゃないかな?」って。
この一年半だけを見れば世界一多くの人に直接お金という優しさを受け取った人なんじゃないかな?
写真を見返して思い出す。
俺と出会った沢山の人。
どこの国でも俺は笑顔でギターを弾いている。
こんな顔出来るようになったんだなー。
大人になってから忘れかけていた自由な中での笑顔。
そしてそれを見守ってくれる全ての国の優しい人たち。
「ありがとう。」
何回言っただろう。
その国の「ありがとう」を何回言わせてもらっただろう?
やっぱり旅の最後に思うことは「感謝」になるんだな。(笑)
ありきたりなんだけど。
もっともっと独自の目線で世界を見たら良いんだけど。
ある意味、誰よりも独自の目線で世界を見てきて行き着いた答えが「感謝」。
出会った人全てに感謝の気持ちを送ろう。
初めてコインを入れてくれた韓国の男の子もバイクチームの一員として向かい入れてくれたカザフスタンの仲間たちも日本人宿で人生を重ねたキルギスでの旅仲間も。
イランの国境で味方になってくれたみんなも、甘い恋の時間をくれたジョージアの女の子も。
始めて海外で年を越したイスタンブールの友達も、一緒にストリートに座ってバスキングしたイタリアのあいつも。
ニースで過ごしたブルジョワな日々も、ポルトガルで感じた家族の優しさも。
モロッコの青の街で暮らすように共に過ごしたあいつも、そしてモロッコを一緒に旅したあの娘も。
オランダまで助けに来てくれたあの方も、ドルトムントでのシェアルームの時間も。
俺に結婚の楽しさを教えてくれたノルウェーの家族も。
そしてハーレーを失うきっかけとなった事故の相手の人にも。
人が人と出会うことには意味があって、出会いによって人生が大きく変わっていく。
優しさや楽しさ、愛おしさといったプラスの気持ちを教えてくれる人もいれば、
虚しさや悲しさ、憎しみといったマイナスの感情を教えてくれる人もいる。
そんな全てが俺の人生には必要で。
そして必要な時にいつもそうゆう人が現れるように人生はプログラミングされている。
今のこの「感謝」という気持ちは俺の人生に必要だった事象で、俺が無意識のうちに求めていたものなんだと思う。
この表現しようのない感謝の気持ちは、きっと旅をしなかったら一生得れなかったと思う。
俺の人生はまだまだ続く。
これから日本で会う人は、新しい俺に会うことになる。
大きな「感謝」という感情を知った俺はきっと強くなっている。
あの頃よりもずっと、強くなっている。
神戸の街が見える。
俺の街も見えてきた!
旅が終わる。
旅が終わる。
旅が終わる。
ロビーを降りるとキモトと塚田が待っていた。
洵智「やっほー!帰ってきたよー!!ラーメン食いに行こうぜー!!」
旅だけじゃなくて。
俺の人生において出会った人、全てに感謝。
今の俺になれたのは、プラスもマイナスも含めて出会った人たちの影響。
「ありがとう」
洵智「うぉーー!!!なんじゃこの味!くっっっっそ旨いな!!!うぉーー!!帰って来て良かったーー!!!あはははははーー!!」
日本での時間が始まる。
さて、次は何に挑戦しようか??
次はどんな事に挑戦しようか!!!!
ギターを担いでハーレーに乗って。
永遠に続くシベリアの道も
未知の中央アジアの国々も
イスラム圏の魅惑の世界も
ヨーロッパの洗練された文化も。
俺とギターと、ハーレーと……。
俺が作り上げた誰にも真似できない旅。
「ギター1本世界一周ハーレーの旅」
ずっと心に残っていく記憶、
ずっと記憶に残っていく思い出。
ギターにも感謝で、俺の旅にも感謝で
ハーレーに深く深く感謝する。
空と雲の色をした相棒と
大きな空を駆け抜けた時間。
俺は、幸せだった……。