大腸ポリープの摘出手術:難しい手術2

 

 腹部の激しい痛みは相変わらず続いていたが、主治医の悪戦苦闘は続いており、彼は時折補助をしていた医師に指示を出していたが、手術機器の一部を操作していたようだ。 時折痛みが著しく増していたが、「先生も根気がいる作業だ」と思った。

 

 そんなことを思ったりしながら痛みに耐えていると、再び上向きに体形を変えることになったので、またモニターで大腸内の様子を見ることができるようになった。 手術が始まってから既にかなりの時間が経っていたが、まだ青い結束バンドの輪はポリープの山を越えていなかったようだ。

 

 するとやや年配のベテランらしい医師が来て主治医の横に立ち、主治医と会話をしていた。 内容はよく聞き取れなかったが、主治医が時折「なるほど」と言っている声が聞こえたので様々なアドバイスをしていたようだ。 この医師は、診療科が異なるのかもしれないが、きっとリモート手術の経験が豊富にあるのだろう。

 

ただ、彼が横になっている私の目線とモニターの間に立っていたため、しばらく映像が遮られることになった。 その間に青色の結束バンドの輪がポリープの上を通り抜けて根元で結束できたように思われるが、残念ながら止血する場面は確認できなかった。

 結束バンドの輪は細いテープのように見えていたが、今度は銀色に輝く金属の輪が姿を現した。 これはポリープの山を乗り越えるのに少しは時間を要したように思われるが、今度は比較的スムーズにいったようだ。 それは前の青色の結束バンドの経験が活かされたかもしれないし、金属の輪の方が作業をし易かったのかもしれない。

 

そして少し煙のようなものが上がり、ポリープが根元でカットされた。 この時、思わず「あっ、切れた!」と口走った。 それは主治医が悪戦苦闘していたことに対する労いと感謝の気持ちもあったのだろうが、これであの耐え難い痛さから解放されるという安堵感であったのかもしれない。

 

ポリープが切れた後には、少し盛り上がった跡が残っていた。 その表面は電気的な熱で焼かれたようだったが、そういった医師たちの会話が、断片的に聴力の衰えた私の耳に伝わってきた。

 

 続いて細い金属の先に小さな平たい円盤のような物が付いたアームが、切断された異形のポリープを掴むようにしながら運び始めた。 しばらくすると、主治医が

「ポリープが肛門を通りますので、力を入れないようにしてください」

と言った。

 

肛門には様々な装具が通り易いように円筒のような物がはめられているのではないかと想像していたが、この時にはどうだったのだろう。 医師は慎重にポリープを引き出そうとしていたようだったが、

「あっ! 切れた!」

という言葉が聞こえた。 それでも、何とかポリープが引き出された。

 

 主治医は

「お疲れ様でした」

と労ってくれた。

「どうも、ありがとうございました」

と礼を述べたが、私の方こそ主治医をはじめ医師の皆さんを労いたい気持ちだった。

 

この時に壁の時計を見たところ、午後四時半を少し回っていたので、正味一時間半余りの手術だった。 手術室に向かうために病室を出るとき、看護師が妻に「一時間ほど」と言っていた言葉が蘇り、それよりも一倍半以上もの長い時間がかかった難しい手術だったのだと思った。

 つづく

 

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