「こんにちわ、たこ焼きいかがですか?」


「焼きそば200えんですよ。」


「やっぱり可愛い娘多いな。」っと道中がぼそっと話す。この道中とは神戸の時代からの腐れ縁。


小学校の2学期に、親の都合で引っ越し。新しい小学校で一番早く仲良くなったのは、席の後ろにいた道中だ。

「正木くん、わからん事あったらなんでも聞いてな。」

昔から世話焼きで友達の多かった道中とは、よく団地で二人野球をした。赤い消火栓がストライクで、それを目掛けて投げる。ゴムのボールをカープやらシュートやら、時にはアンダースローやサイドスローで投げて、後ろの手すり棒を越えたらホームラン。


転校したクラスが、朝から毎日学校中の掃除。夕方は美術の作品作りを頑張る。小学校低学年レベルの絵しか書けなかった自分が、面白いほどに上達したのはこの頃だ。

ちょうどこの頃、『佳子ちゃん』というクラスの学級委員をしている女の子を好きになり、どうにかして話せないかと道中に相談したら・・・

「橘高(佳子ちゃん)、同じ学級委員の『上土井くん』と付き合ってるんちゃうん。なんか二人似合てるで~。」

そう、上土井くんは将来灘高校を目指す秀才で、顔もキリッとしていて、何も勝てそうにない。

「まあ、機会があったら、二人で話すきっかけを作ったるわ。」


そしてそんな機会が、毎年恒例の地獄の遠足『赤目四十八滝を歩くっちゃよ!』で訪れた。

赤目四十八滝は伊賀と大和の国境を流れる滝川の上流に連なる数々の瀑布が美しい大自然のアートを作り出す。室生赤目青山国定公園の中心に位置し、その長さは約4キロにも及ぶハイキングコースをグループが協力して歩く遠足だ。

奇跡的に道中に僕、佳子ちゃんを含む6人グループで歩く事になった。

なかなか人見知りで話せない僕に、道中はみんなが楽しく話せるように話しかけてくれて、それをきっかけに佳子ちゃんとも話すことが出来た。


遠足が終わったあとは卒業まで話す事すら出来ず、中学では私立の学校に佳子ちゃんは行ってしまった。

中学、高校と道中とは同じ学校に進んだが、同じクラスになることはなかった。それでも道中が高校に入ってから始めたハンドボール部の仲間が道中をきっかけに仲間に入れてくれて、当時、クラスで浮いていた俺を救ってくれたのはいまでも感謝している。学校も不登校ぎみになり、たまにでても授業はさっぱりわからない。自分をダメダメ人間だと思っていたが、ハンドボール部の仲間が何故かえこひいきせずに話しかけてくれた。野球部だったので、ハンドボール部に入部は出来なかったが、そんなきっかけを作ってくれた道中にはいまだに感謝している。


「あっ、道中くん。道中くんも学園祭に来てたの?」

っととある3人組の女性グループが話しかけてきた。

「そやねん。小学校からの連れとその友達。みんなで西鉄大橋駅で集合して見に来たんや。」

「そうなん。明日は国体の試合やから、遅れないようにね。」

「はいはい、わかりました。」

道中は照れ臭そうに答えていた。後で聞いたら、東亜大学陸上部のマネージャーとそのお友達だったらしい。そう道中は一浪して東亜大学に入学。この大橋駅の近くにアパートを借りて、大学から陸上部に入部。長距離選手で走ってばっかりとは聞いていた。

「あれが、前話していたマネージャーの智子さん?」

「まあ、ええやんけ。恥ずかしいわ。」


学園祭を一通り見たが、可愛い女の子を見かけても話しかけるタイプではなく、道中も含め女性に対しては人見知り。彼女ってどうやって作るんだろうって悩む20歳の秋であった。


「最後に記念写真でも撮ろうか。すんません、写真一枚お願いしていいですか?」

たまたま通った大学生の方にお願いして写してもらった。みんな香蘭女子短期大学の香りが吸えて、学園祭に来て良かったねと話しながら帰ったのであった。......続く