2020/6/23投稿
バスケットは体力の消耗が激しいスポーツで、交代したら出れない野球と違い何度でも復帰できるから、ベンチワークも大事になる。試合は5人対5人なので、基本は自陣に入ったらマンツーマンディフィンス。ガードがボールを運び出し、シューターに振るか、スクリーンを掛けてマークを外しシュートを狙うか、うちで言えばキャプテンの富士さんのゲームメイクが鍵を握る。
スポーツ大会はバスケットボールも女子の部と男子の部は別である。試合前になると、男女混合での試合はなくなり、男子だけチーム対女子だけチームの戦いで試合感を高めさせていく。
女子の部は参加校が少なく14校、男子の部は47校と参加校が3倍である。富士先輩が北島先生と一緒に戻ってきた。対戦相手の発表だ。富士先輩が話す。
「対戦相手が決まった。福岡大学です。」
「え〜!去年のベスト8?」
みんなの顔から笑顔が消えた。同好会レベルの自分たちが、ベスト8の福大とやって勝てる訳がない。そういったみんなの気持ちを理解した上で、富士先輩が皆に話す。
「力の差があるのはわかっている。4年大だから人材も相手が豊富だ。でも、みんなと公式な試合が出来るのは最期だ。相手が強いからって棄権するなんて、試合をして負けるより恥ずかしいやろ?決まった事は仕方がないんだから、悔いのないように精一杯やろうぜ」
副キャプテンの橋本先輩があとに続く。
「せめて20点は取ろうぜ!」
20点じゃあ勝てねえだろと思いながら、また練習が始まった。泣いても笑っても試合は1週間後である。
そして試合当日、会場である福岡大学体育館に乗り込んだ。試合は女子も同じ日に組まれ、会場は鳥栖の体育館。同じ短大の熊本女子短大、通称"クマタン"が対戦相手だ。それでも相手は名門、頑張ってもらいたいて思ったが、男子の対戦相手の選手をみて、傍目で見てもレベルの差は歴然だった。こんなヘラクレスみたいな対戦相手をどう攻略すればいいのか見当がつかなかった。
スタートはセンター橋本先輩、ガードはキャプテンの富士先輩、パワーフォワードが藤仲先輩、シューターに藤光先輩、そしてスモールフォワードに1年生から照葉くん(直樹)が選ばれた。バスケットボールは第四クォーターまでありみんな出場するだろうが、直樹は1番の点取り屋だし、実力的に選ばれて当然だと思った。当然、僕はベンチスタート、まだバスケットを初めて3ヶ月半だから当然だ。
真中にセンターの橋本先輩と、福大のセンターが集まり、ボールトスの時間だ。
「ピーッ!」
ホイッスルと共にボールは相手に取られ、速攻で2点を決められる。富士先輩がボールを出そうとリングしたから出そうとするが、なかなかパスの出しどころがなかった。相手はマンツーマンではなく、フルコートディフェンスで挑んできた。自陣にさがらず、一気にフルでマークをつけてくる。ボールをもらう為に下がってきた直樹に相手は二人で襲いかかる。直樹が幾ら上手でも、簡単にボールを取られさらに点を取られた。
ボールを出さない事には試合にならない。全員が自陣にまで下がる。藤仲先輩にボールが渡るが、同じ様に二人がかりで取りに来る。それを見越して、藤光先輩がフォローに入るがあっけなくブロックされ、スリーポイントシュートを簡単に決められる。
ボール出しを橋本先輩と代わり、キャプテンの富士さんにボールが渡る。フェイクから直樹にパスを出し、自分のマークを引き連れてスクリーンをかける。直樹のドリブルで、やっと相手陣地まで攻め込んだが、相手のセンターを含め戻りが早く、直樹が囲まれて弾き飛ばされた。直樹が足を抑えてうずくまっている。そのまま村亀先輩と交代で、直樹はコートの外に出た。顧問の北島先生と僕や弓矢くん、松下くんらが駆け寄る。
「直樹、大丈夫か?」
「大丈夫だとは思うけど、左足をぐねったみたい。」
「取り敢えず冷やして、湿布貼って、ベンチに座ってなさい。」
北島先生の言葉に肩を落とす直樹だが、足の引きずり方が尋常じゃない。悔しい気持ちはわかるが、仕方がない交代だ。
「正木、弓矢、松下、交代で入るよ!」
富士さんから第一クォーターを終え、小休止中に告げられる。25対3、富士さんのスリーポイント意外の点数は入っていない。ポイントゲッターの直樹を失い、攻め手がないのは明らかだ。もう作戦というよりは、早く試合を終わりたいと思っていたと思う。
第二クォーターが始まるが、相手の攻めに防戦一方、ボールすら触らせてもらえない。
「正木くん!」
初めてボールに触るが、1秒で奪われた。あれ…ボールは?振り向いた時にはゴールを決められていた。2分で橋本先輩と交代だった。
試合終了と同時に、みんなコートに倒れこんだ。相手はすぐに、また練習を始めた。こんな試合、練習にもならなかったのだろう。86対12、僕は『スクールウォーズ』の歴史的敗退の試合を思い出していた。104対0かなんかの試合で、滝沢先生がロッカールームて『お前ら悔しくないのか?』『悔しいです』『俺は今からお前たちを殴る。今日の悔しさを絶対忘れるな!』『先生!』……高野先生はそんな事をしないのはわかっていたが、こんな点数取られて他のみんなはどう思ったのか知りたかった。
体育館の裏に集まり、キャプテンの富士さんが語った。
「照葉、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「みんなお疲れ様。相手は福大、試合の結果はやる前から想像はしてたが、やる前から逃げ出すんじゃなく、真剣に練習したじゃん。俺はこのメンバーで試合が出来た事を誇りに思う。俺と村亀は、介護コースに1年お世話になるので、試合には出れないが練習には来るからな。ほんとに有難う。」
続いて、副キャプテンの橋本先輩が続く。
「みんな、お疲れさん。藤光や藤仲は就職、俺は西九州大編入を目指して頑張るが、卒業までは練習に来るから宜しくな。」
高野先生からは1言、
「俺は滝沢先生みたいに殴らんからな!」
殴ったら大問題になりますよ、先生。
試合を終えて数日後には、直樹は沖縄に帰ってしまった。試合が終わるまで練習に試合まで参加してくれた直樹が有難かった。なんせ僕が無理やりバスケ部に入れましたから。ちなみに『クマタン』と戦った女子バスケ部も検討虚しく負けてきたと連絡が入った。残った1年生を中心に、新チームが2学期から始まる。
そんなバスケ部に村亀先輩から夏合宿のプレゼントを頂いた。村亀先輩、実家がホテルなんだって!
そんな夏合宿の話はまた次回に……続く
『感想』
福岡大学の試合に出させて頂いたんですが、体育レベルと国体レベルといいますか、まったく歯が立たない体験をしましたね。
バスケットサークルは火・木・土が練習日で、ソフトテニス部と被らないからと掛け持ちしていました。
中学時代はサッカー部、高校時代は硬式野球部と、どれも長続きせず中途半端にしてきた私ですから、やり続けた人はやっぱり違うな〜なんてのん気な事を思ってた気がします。