腎臓が悪い、と言われた猫ちゃんの飼い主様は多く、その多くは慢性腎臓病という病気であると診断されていると思います。当院では、慢性腎臓病はIris(International Renal Interest Society 国際獣医腎臓病研究グループ)が提唱するガイドラインを参考にして、その病期をステージングし、治療を行っています。
慢性腎臓病は残念ながら、治すことはできない病気となりますので、診断後は病期が進行していくのを遅らせることと、猫の生活の質を落とさないことが治療目標になります。
Irisのガイドラインでは、血液中のクレアチニン値とSDMA値をステージングに使用していますので、まず血液検査を行います。そこで、腎臓に関連する数値が基準値を超えているようであれば、慢性腎臓病の疑いは強くなりますが、確定診断には尿検査、レントゲン検査、超音波検査が必要です。血液検査“だけ”して、腎臓が悪いから点滴した、という話をたまに聞きますが、それはまっとうな獣医療と言えません。
たとえば、高齢猫が食欲不振と体重減少で来院して、血液検査をしたら腎臓関連の数値が基準値を超えていれば、かなりの高率で慢性腎臓病だと思います。診断法に「パターン認識」という方法があり、この診断法は、猫を見て「慢性腎臓病だろう」と考え、検査を進める方法で、確定診断に到達するまでの時間が短く、検査も少なくて済み、効率がよく、結果的に患者(動物の場合は、飼主も)の負担も少なくて済む、という利点がある診断法です。しかし、血液検査“だけ”では、確定診断とは言えず、治療も不適切なものになることがあります。Irisのガイドラインでも、尿検査と画像診断を行い、尿路結石症、腎盂腎炎を除外することが必要と明記していますし、パターン認識では、生命に危機を与えるまれな疾患を除外しておくということが重要となりますので、この場合は腎臓の腫瘍を除外することが絶対に必要です。
先ほど書いたように治すことができない慢性腎臓病ですので、早期に発見することが重要なのですが、早期発見も簡単ではありません。慢性腎臓病の定義に「3か月以上続く腎臓のダメージを持つもの」または「3か月以上続く正常より50%以上糸球体濾過量が低下しているもの」とありますので、ステージ1や2を確定診断するには、3か月かかることもあります。
Irisのガイドラインは、http://www.iris-kidney.com/guidelines/index.html で読むことができますので、興味のある方は一度読んでみてはいかがですか。