もうどうしようもないくらい雨が降っていたので
折りたたみ傘を取り出しました
傘があまり好きではないの
いつもぎりぎりまでフードなんかでしのぐんだけど意地になってまで守るポリシーでもないから
折りたたみ傘くらいは気分で持ち歩いたりもしてるのです
私の折りたたみ傘はバリ島から連れ帰ったもの
“サクラ洋傘”とか“精品”とか日本語がちらほらついてるけど
フォントが軒並みおかしな感じになってるからきっとバリ生まれだと思うな
バリの傘がものすごく可愛いのに気付いたのは偶然の出来事
旅行中埃っぽいマーケットを散策した帰り道の時のこと
バリニーズも抱き合う程の恐ろしい雷が突如空をつんざいてどっかんどっかん落ちてきて
あっという間にたらいをひっくり返したようなスコールに
跳ね返った水しぶきでけぶる道路を
急いでいるのか雨宿りを諦めた人がずぶ濡れになって歩く様子を
私と友人は軒下から呆然と眺めるばかり
お喋りするにも雨音に負けない大声を出さなくちゃいけないから
自然とみんな口数少なく煙草に火を点けたり
身体中の感覚全部から雨が容赦なく私に入り込んできて
止められた時間の中
自分の輪郭が溶けていくのを感じていました
そうしてしばらく経った頃
相変わらずの土砂降りにも関わらず道を行く人達に
傘をさしたバリニーズが混ざり始めたの
その時初めて見た彼等の傘の可愛さったら！
水色に藤色の大輪の花
緑色にショッキングピンクの薔薇
クリーム色に紺色の小花
どことなく古臭くて
でも妙に陽気なデザイン
ちっとも雨に似合ってない感じが笑えてくるような
そんな派手な傘達を
男性もお年寄りもまるで躊躇せず
みんな当然な顔してさしてたの
滝のように落ちてくるスコールの中
揺れながら行き交う色とりどりの花模様
私と友人はその姿に惚れ込んでしまって
もうこれは手に入れるしかない！と
後日スーパーのごちゃりとした傘売場から
それぞれのお気に入りを見つけ出して日本に連れ帰ったのでした
今日久しぶりにさしたこの傘がその時のもの
私が選んだのは
ブルーに映える赤の花柄
時代遅れなレディのよう
雨の帰り道はちょっぴり面倒だったけれど
この傘を開いた途端よみがえったバリ島での出来事
思い返しながら歩いていたら
あっという間におうちに着けたのでした
***希良***