【国会事故調】官邸政治家が官邸5階に形成した対応拠点の問題 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

【国会事故調】官邸政治家が官邸5階に形成した対応拠点の問題

秘書です。
国会事故調査委員会の報告書が昨日公表されました。

さて、中川代議士も国会でとりあげた3月12日夕方の1号機への海水注入についてのどたばたは、当時の官邸の意思決定メカニズムがどのようなものだったかをみる上で重要な事例です。

報告書本編と会議録より。

ポイントは官邸政治家により、危機管理センターから切り離されて5階に集められた人が、情報から切断されたり、総理から不信感を持たれていた人だったこと。



第3部 事故対応の問題点

3-1 事業者としての東電の事故対応の問題点

1)事故直後の緊急時態勢と指揮命令系統

c 事故当時の責任者の動向と指揮命令系統に関する認識

VI)武黒フェロー(p.254.)

3月11日16時ごろ、経済産業省資源エネルギー庁から東電本社に対し、原子力の技術的な話ができる者を官邸に差し向けるよう要請があった。これを受けて、原子力品質・安全部長が派遣されることになったが、菅直人内閣総理大臣(以下「菅総理」という)が会議に出席するため、原子力の専門家で上席者である武黒一郎フェロー(以下「武黒フェロー」という)も官邸に行くことになった。それ以後、武黒フェローは、東電本店に福島原子力発電所事故対策統合本部が設置された15日まで、何度か出入りしたものの基本的には官邸に詰めていた。


(国会事故調会議録p.157.)
「○参考人(武黒一郎君)最初、11日と12日は、時々総理の部屋に呼ばれるということはありましたが、それ以外は、官邸の地下に中二階のような部屋がございます、小さい部屋でしたが、応接セットがあって5,6名が座れる部屋でしょうか。
そこは、携帯も通じませんし、外線の電話が2つあるんですが、会社からはほとんどかかってこない、かけてもつながらなかったのかもしれません。ですから、会社にこちらから電話をするというのもままならないという状況で、保安院さんからの情報というのが時々電話やメモでありましたので、そういったものを見ながら過ごしておりました。


e 官邸の意向を重視する姿勢が指揮命令系統に与えた問題(pp.255-256)

社長や会長をはじめ各責任者はいずれも第一義的な意思決定権が発電所にあることを認識していたにもかかわらず、官邸からの指示や要請については、それを尊重すべきだとの考えを持っていたわけである。例えば、勝俣会長は、菅総理からの指示を押し戻すということはなかなか踏み切れなかったと述べているし、武黒フェローも、政府の原子力災害対策本部(以下「原災本部」という)の本部長である菅総理の判断を重視することが事故処理の上で重要だと述べている。


3)1号機海水注入に関する武黒フェローの不合理な指示(pp.260-261.)

1号機・海水注入の経緯

14:53 1号機に注入していた淡水が枯渇
14:54 吉田所長が、1号機への海水注入を指示
15:20 吉田所長が、保安院等関係機関に、1号機への海水注入を行う旨をファックスで報告。
15:30 1号機への海水注入の準備が完了
15:36 1号機原子炉建屋が水素爆発
19:04 1号機への海水注入の準備が再び整ったため、海水注入を開始
19:15 東電から保安院に対して1号機への海水注入をを報告
19:25 官邸の武黒フェローは、吉田所長との電話により海水注入の開始を認識していたが、官邸にて海水注入のリスクについて検討中であったため、吉田所長に対して海水注入のいったん停止を指示した。吉田所長は、テレビ会議システムの発話上海水注入の中断を命ずるも、実
際には海水注入の継続を指示しており、海水注入は中断されなかった。
19:55 菅総理が、海水注入を了解
20:10 官邸の武黒フェローから吉田所長に対し、海水注入について菅総理が了解した旨を連絡。
20:20 吉田所長が、1号機の海水注入再開を指示。

1号機への海水注入が開始されてから約20分がたったころ、武黒フェローは吉田所長からの電話で海水注入が始まったことを知ったが、官邸で海水注入のリスクについて検討が進められていたため、吉田所長に対して海水注入をいったん待つように指示した。これは、菅総理や官邸内のからの指示ではなく、武黒フェローが、リスクについて検討中であった官邸との関係におもんぱかり、「最高責任者である総理の御理解を得て進めるということは重要だ」と考えて、独断で指示したものである。
 約3時間前の15時20分にはファクスで官邸を含む関係各所に海水注入の意向が伝えられ、17時55分には海江田経産大臣から海水注入命令が官邸で粉割れていたわけであるから、吉田所長から海水注入開始の報告を受けた武黒フェローは、その事実をそのまま官邸へ伝えるべきであった。武黒フェローの指示は合理性がなく、結果として、その後の指揮命令系統の混乱を招いた。
 この時、官邸では、菅総理が淡水から海水に切り替えると「再臨界」の恐れがあるのではないかとの疑問を抱いていたため、斑目委員長が中心となってその解消に腐心していた。菅総理は、既に海水注入が始まっていたことを知らなかったっために時間があると思って慎重に確認したものと考えられるが、技術的には無駄な議論であった。
 吉田所長は、せっかく開始した海水注入を中止するわけにはいかないと考え、テレビ会議上は中断したかに見せかけながら、自らの判断で海水注入を継続した。この点で、政府の意思決定の混乱とそれを受けた武黒フェローの指示は、海水注入それ自体にはなんら影響を与えなかった。


(国会事故調会議録p.159.)
「○桜井正史君 その前に、既に海水注入というのが福島の方では決断されていたり、現に清水社長の方も既に海水注入を了承されていたとか、客観的にはそういう流れがあって、さらに、海江田大臣の方もそれについては指示を出されているという、その辺のことはご存じでしたか
○参考人(武黒一郎君)大変残念ながら、そういった一連の海水注入をめぐる指示とか決断とかということについて、その時点で私は正確には把握しておりませんでした。」

(国会事故調会議録p.159.)
「○参考人(武黒一郎君)・・・最初の11日、12日、というのは、物理的に情報通信手段が限られていたので、今どういうことをやろうとしているのか、どういうことが問題になっているのかということをじかに把握するのがなかなか困難で、そういったことをするために、総理の秘書官室のところにある固定電話をお借りして、本店に電話をして聞くということでやとできていたという状況であります。」

(国会事故調会議録p.159.)
「○参考人(武黒一郎君)・・・それまで私はまだ、さきほど申し上げましたように、現場の方の準備作業が整うに至っていないと思っておりましたので、それだったら準備作業に間に合うので、7時半から説明をさせていただいて、早く総理の御理解を得るようにしたいというふうに思いました。」

4)3号機海水注入から淡水への切り替えに関する官邸からの提言(pp.262-263.)


6:43 官邸に詰めていた原子力品質・安全部長から、本店経由で吉田所長に連絡があり、淡水があるうちは淡水を優先して使ってはどうかとの官邸からの提言が伝えられた。
 福島第一原発吉田所長:「ええとね、官邸から、あのちょっと海水を使うっていう判断するのが早すぎるんじゃないか、というコメントがきました。で、海水を使うことは、もう廃炉にするというようなことにつながるだろうと、こういう話で、極力ろ過水なり、真水を使うことを考えてくれと」

福島第一原発では、淡水の残量が限定的であることから、3号機に対して最初から海水を注入するよう準備が進められていた。これに対して、官邸に詰めていた原子力品質・安全部長から、淡水があるうちは淡水を優先して使ってはどうかとの提言が伝えられ、これに従い、既に海水注入の準備が整っていたにもかかわらず、淡水を優先して入れるために注水ラインの切り換え作業を行った。事故対応に大きな影響を与えた可能性は低いが、この作業に数十分の時間を要した。


(国会事故調会議録p.160.)
「○桜井正史君 海水を入れるということは、炉が将来どうなるんでしょうか。
○参考人(武黒一郎君) これはもう使えなくなるというか、もともと、あの時点で炉を再度使うことを考えることはあり得ないと思います。」


3・3 官邸が主導した事故対応の問題点(p.302.)

総理をはじめとする官邸の政治家は、本来、初動対応を担う危機管理センターが地震・津波への対応で手いっぱいと考え、官邸5階の総理執務室等を拠点に、急進展する事故への対応を自ら主導して進められていった。
官邸5階には、保安院幹部、安全委員会委員長、東電関係者らが助言者として集められたが、これらの関係者は官邸政治家の説明要求を満たせず、官邸政治家たちは不信感を募らせていった。その後の1号機の爆発を契機にこの不信感は頂点に達し、官邸政治家が前面に立つ事故対応の体制が形成されることとなった。

3.3.1 官邸の初動対応

2)官邸主導による事故対応体制(pp.306-307.)

a 官邸政治家による対応拠点の形成

・・・そのような強い危機感を持つ官邸政治家の目には、本事故への初動対応を担う官邸の危機管理センターは、地震・津波の対策で「もう手一杯な状態」と映った。少なくとも、官邸政治家にとって、危機管理センターは、多数の要員がおり、間断なく電話が鳴り響く実に騒然とした所で、「原発がこの先どうなるかとか非常にセンシティブな議論」や「物事を決める」場ではないと捉えられていた。
 このため、危機管理センターの中2階の狭いスペースや、官邸5階の総理執務室周辺に限られた人員が集まり、事故対応の方針が決定されていくことになった。菅総理、海江田経産大臣、枝野官房長官等の関係閣僚、総理補佐官・総理秘書官等の官邸幹部スタッフ、保安院の幹部、斑目委員長、武黒フェローをはじめとする東電幹部らが、官僚機構とは事実上分断された状態で、限られたプラント情報等を基に、避難区域の設定をはじめとする事故対策を実質的に決定していった

b 原子力専門家に対する不信感

緊急事態宣言発出に関する協議に際し、菅総理は、「こういう場合に呼ばなきゃいけない人を全て呼べ」「技術の分かる人間を呼べ」と指示し、保安院幹部や斑目委員長、東電関係者らが、官邸政治家に対する説明者、若しくはアドバイザーとして急きょ官邸に集められることとなった。
・・・
官邸5階に集まった関係者の目には、「一生懸命答えてはいた」と映った斑目委員長はともかく、特に保安院関係者を中心に原子力の専門家たちは、何を聞かれても「ふにゃふにゃとして答えないという状態」で、「次に何をすべきか」というような提案は一切なく、「まるで宿題をやっていない生徒のように総理らと目を合わせないようにしていた」ように映っていた。
こうして、政府内の原子力専門家たちに対する官邸政治家の不信感は徐々に色濃くなっていった。斑目委員長が「起きない」と断言していた爆発が12日15時36分に1号機で発生したことを契機に、官邸政治家における政府内の原子力専門家に対する不信感は頂点に達し、官邸政治家が前面に立つ本事故への対応体制が形成されることになった

3.3.2 官邸による具体的な事故対応

3)海水注入(p.311.)

3月12日15時20分ごろ、東電は、原災本部事務局等に対し、1号機について「今後、準備が整い次第、消化系にて海水を注入する予定」との連絡を行っており、福島第一原発の現場においても海水注入に向けた準備が進められていた。それにもかかえわらず、17時55分に、海江田経産大臣から東電に対して、1号機原子炉容器内を海水で満たすよう、原子炉等規制法第64条第3項に基づく措置命令が発出された。この措置に至った理由は、東電が廃炉を懸念しているという東電への不信感と、前述のベントに関する命令と同様に「国による後押し」という曖昧な論理に基づくものであり、命令発出の必要性について政府内で具体的な検討が行われた形跡は認められない。そして、この命令発出によって、現場における海水注入に向けた作業が促進されたという事実も認められない。
さらに、官邸5階では海水注入が必要であると関係者の認識が一致していたが、18時過ぎごろ、菅総理は、再臨界の可能性等について、斑目委員長が「ゼロではない」と表現で回答したことを受けて、「大変じゃないか」と懸念を示した。これに対し、海水注入の必要性を認識していたはずの者たちからは、その必要性について十分に菅総理に説明されなきあった。斑目委員長、又は久木田委員長代理は、「再臨界は、まず起きないと考えていい」という趣旨の説明をしたが、菅総理から、「そうはいっても、ないと言っていた水素爆発が起きたじゃないか」と言われると、それ以上何も言うことができなくなった。海江田経産大臣は、海水注入の措置命令について、菅総理に報告したと述べているが、その場にいた関係者の中で、そのことを認識している者はいない。結局、その場では海水注入につき菅総理の理解を得ることができず、注水準備作業に時間がかかることから、作業が完了するまでの間に再臨界の可能性等について検討を行うとして、議論は「仕切り直し」となった。こうして、海水注入の措置命令が既に発出されているにもかかわらず、事実上、政府としての海水注入の是非に関する判断は宙に浮いた形となった。
菅総理が「再臨界」の懸念にとらわれて、海水注入の必要性を説明する越えに十分に耳を傾けなかった面もあるが、その場にいた誰からも、菅総理に対し、既に現場においては海水注入の実施に向けて動いていることや、海江田経産大臣による海水注入の措置命令も発出済みであることを告げる動きは見られなかった。結局、宙に浮いた状態は、菅総理に対する説明事項を整理した上、再度説明をして、海水注入を納得してもらう19時55分ごろまで続いた。
この間、福島第一原発では、19時4分に1号機への海水注入が開始されていたが、この事実は官邸5階には伝達されなかった。武黒フェローは、菅総理の了解を得られなかったことを受けて、19時25分ごろ、吉田昌郎福島第一原発所長(以下「吉田所長」という)に対し、官邸で検討中であることを理由に、海水注入を待つよう指示し、東電本店も中断はやむを得ないと判断している。

3.4 官邸及び政府(官僚機構)の事故対応に対する評価

3.4.1 官邸主導の対応に関する評価

2)指揮命令系統の破壊(pp.324-325.)

指揮命令系統の破壊による現場の当惑について、福島第一原発の吉田所長は次のように述べている。これらは重く受け止めなければならない。

「指揮命令系統がムチャクチャなんですよ。結局、電話がかかってきたら武黒が官邸にいて、武黒から電話がかかってきて、『おまえ、海水注入は』、『やってますよ』と言うと、『えっ』、『もう始まってますから』、『おいおい、やってんのかい』と。『止めろ』と言うので、『何でですか』と。『おまえ、うるせえ。官邸が、もうグジグジ言ってんだよ』なんて言うから、(私が)『何言ってんですか』と言って、あれ、切れちゃったよ、そこで」
・・・
「俺は止めないよと言ったんだけど、官邸が言ってるからしょうがねえだろうとかいう話になったんです。だから、要するに、そのときも、指示命令系統がどこにあるのかというのが非常に分散している状態で、僕はこれはもう最後は僕の判断だと思ったんです」



(国会事故調会議録p.159.)
「○参考人(武黒一郎君)・・・発電所長からは既に海水注入をしているという話がありました。
それで、私としましては、総理に説明がまだ終わっていないということなものですから、こういう危機的な状況の全体としての統括をしておられる総理への御説明が終わっていないという中で海水注入がされているままでいるということが、水を入れるということの重要さと、一方で、全体的な統括をしていく上で今後もまだいろいろなことが起きるかもしれませんが、十分総理へ御説明を終わっていない段階で現場の方が先行してしまっているということが将来の妨げになっても困るという両方の中で、なるたけ早く総理に御了解をいただく、そのための準備も十分整っているので、一旦注水をとめて、そして了解をいただいてすぐ再開するというこおで進めてはどうかということを申し上げました。


(その他)

「・・・総理が、注水停止の原因を過剰反応した者の対応に求めることには違和感がある」(p.329.)

「平常時の縦割り意識にとらわれて自らの責任を回避しようとした官僚たちの消極的な姿勢は反省を迫られるべきである。」(p.333.)