専門家からは、現役世代の将来不安は解消されず、消費抑制につながると懸念されている(ロイター) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

専門家からは、現役世代の将来不安は解消されず、消費抑制につながると懸念されている(ロイター)

秘書です。
一体改革についての専門家の声は?


明るい展望が開けたとみる声はほとんどない

基礎的収支の黒字化すらめどが立たない

従たる税の問題よりも、主たる社会保障制度の内容がほとんど何も決まらなかったこと

このまま、民主党と自民党で妥協の産物が生まれるようなことになれば、低所得者対策に重点を置くバラマキ型の民主党案と、既得権益者優遇の自民党案とが合わさり、財政拡大に突き進む可能性が高まるとの指摘もある。負担ばかりが重くなる現役勤労者の不安は募るばかりだ

可処分所得のライフサイクルを通じての低下と認識して、消費性向をさらに引き下げる可能性がある

財政の黒字化の見通しも見えず、将来不安もかえって募り、現役世代の消費を冷やすことになる




焦点:一体改革修正協議、増税先行の決着に展望開けず
2012年 06月 16日 02:12 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE85E00W20120615?sp=true

[東京 16日 ロイター] 社会保障と税の一体改革をめぐる修正協議で民主・自民・公明の3党が合意に達し、消費増税法案成立に前進したが、肝心の社会保障制度改革は先送りされ「社会保障と税の一体改革」には程遠い決着となった。専門家からは、現役世代の将来不安は解消されず、消費抑制につながると懸念されている

財政再建に一歩踏み出したことは評価できても、歳出面の大胆な削減には踏み込んでおらず、このままでは基礎的財政収支の黒字化は困難。社会保障制度の将来像も、財政健全化への道筋も開けない状態が続き、国民にとって明るい展望はまだ持てそうにない

<増税でも財政黒字化難しく>

欧州財政問題が広がりを見せ、日本の財政再建への姿勢も注目される中で、民主・自民の社会保障と税の一体改革に向けた修正協議が一応の合意にこぎつけた。しかし、明るい展望が開けたとみる声はほとんどない

大和総研経済調査部エコノミストの神田慶司氏は、評価できる点があるとすれば世界中が財政問題に厳しい目を向ける中、増税すら前に進まないという最悪のシナリオが回避できたことだと見る。「日本の長期金利が本来よりも低い水準で維持されてきたのは、最終的には政府の徴税能力が信頼されてきたため。それがとん挫すれば長期金利の急騰など欧州の二の舞ともなりかねない」とみていた。しかし5%の増税が実施されることになっても「基礎的収支の黒字化すらめどが立たない」と指摘する。

2015年度に消費税を10%に引き上げることで、財政状況は幾分改善する。内閣府の試算では、基礎的財政収支の赤字幅が12年度の名目GDP比5.4%から20年度に3.0%まで縮小。増税のない場合に比べると、1.5%ポイント小さくなる。

しかしそこから先の一層の赤字縮小のめどは全く立っていない。基礎的財政収支の赤字幅は12年度で25兆円程度あるが、消費増税5%の税収は年間10兆円程度にとどまる。5%分の消費増税だけでは、財政再建はままならないことを示す。

今のところ、安全資産とみなされている日本国債の金利は極めて低水準で推移しているが、財政への信認は市場の風向き次第である日突然崩壊することがあり得るのは、スペインやイタリアの例を見れば明らかだ。しかも、日本の公的債務残高GDP比率は182%。ギリシャの134%、イタリアの119%、スペインの72%を大きく上回る。GDPの規模は世界第3位であり、債務残高の大きさからみて、もし金利水準が跳ね上がれば、国際的な援助を求めてどうにかなる規模を超えており欧州のように頼れる仲間がいるわけでもない。

清家篤・慶応義塾大学教授は「社会保障給付の増加を抑えない限り、財政悪化は止められない」と指摘する。もともと「社会保障と税の一体改革」でそうした給付削減や支給開始年齢引き上げなどに踏み込まなかった点が最大の課題だとしている

<将来像見えず景気下押し要因に、選択肢提示を>

何よりも批判されるべき点は、「従たる税の問題よりも、主たる社会保障制度の内容がほとんど何も決まらなかったこと」(伊藤忠経済研究所・主任研究員の丸山義正氏)との声がほとんどだ。このまま、民主党と自民党で妥協の産物が生まれるようなことになれば、低所得者対策に重点を置くバラマキ型の民主党案と、既得権益者優遇の自民党案とが合わさり、財政拡大に突き進む可能性が高まるとの指摘もある。負担ばかりが重くなる現役勤労者の不安は募るばかりだ

丸山氏は「一体改革の主であるはずの社会保障制度改革は先送りされ、従の増税のみが先行する方向に議論は進んでおり、可処分所得のライフサイクルを通じての低下と認識して、消費性向をさらに引き下げる可能性がある」と予想する。

大和総研の神田氏も「財政の黒字化の見通しも見えず、将来不安もかえって募り、現役世代の消費を冷やすことになる」とみている。

しかも当面の負担増は消費増税だけではない。復興増税や年金保険料・介護保険料・健康保険料の引き上げ、高額所得者を対象とした給与所得控除や扶養控除廃止など、現役世代にかかる種々の税・社会保険料負担は増加の一途をたどる。第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏の試算では、直接税と社会保険料の報酬に占める割合は12年度の22%から20年度には24%近くに上昇する。サラリーマン世帯には消費増税以外にも可処分所得の減少要因目白押しの状況だ

財政再建への取り組みは猶予ならない状況にあるため、消費増税は避けて通れないとしても、その影響を少しでも緩和するために、現役世代の将来不安を解消し、持続可能な社会保障制度の将来像をきちんと整備することが急がれる。学者からは「高負担高福祉を目指してさらに消費増税選択するか、負担も小さく老後は自己責任でという選択肢にするか、きちんと選択肢を示した方が良い」(福田慎一・東京大学経済学部教授)との提言があったはずであり、与野党とも早急に税と社会保障の全体像の選択肢を提示することが求められる。

(ロイターニュース 中川泉;編集 石田仁志)