白川日銀総裁の人口と経済に関するスピーチの全文 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

白川日銀総裁の人口と経済に関するスピーチの全文

秘書です。
白川日銀総裁の人口と経済成長に関するスピーチの全文です(図表と注釈は本文をご覧ください)。
バブルの生成は、団塊世代が住宅を買ったことが原因?




日本銀行総裁 白川 方明

人口動態の変化とマクロ経済パフォーマンス
―日本の経験から―

日本銀行金融研究所主催2012年国際コンファランス
における開会挨拶の邦訳

2 0 1 2 年5 月3 0 日
日本銀行

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120530a1.pdf


1.はじめに

おはようございます。今年も日本銀行金融研究所主催のコンファランスに海
外中央銀行や国際機関の関係者、内外の学者の皆さんの多数のご参加を頂き、
大変嬉しく思うとともに、日本銀行の同僚を代表して、心から歓迎の意を表し
ます。
今年のコンファランスのテーマは、「人口動態の変化とマクロ経済パフォーマ
ンス」です。このテーマを議論する上で、日本ほど格好の事例を提供している
国はないと思います。日本の総人口は2007 年をピークに、生産年齢人口は1995
年をピークに減少に転じています。老齢人口比率、すなわち、総人口に対する
65 歳以上の人口の比率は1990 年の12%から2010 年には23%と急速に上昇して
います(図表1)。過去20 年間、日本経済の成長率は徐々に低下してきました。
この期間の前半の低迷は主としてバブル崩壊の影響でしたが、後半期の低成長
には、急速な高齢化進行という人口動態の変化が様々なルートで影響を与えて
います。このことを示すために、私がしばしば引用する事実は、過去10 年間の
日本の成長率の国際比較です。生産年齢人口、すなわち、15 歳から64 歳まで
の人口一人当たりGDP 成長率をみると――これは短期的には人口動態の変化に
あまり左右されない指標ですが――、日本はG7諸国の中では最高です。しか
し、高齢化に伴う生産年齢人口比率の低下の影響を受ける、総人口一人当たり
の実質GDP 成長率はG7諸国の平均並み、そして、総人口の減少の影響を受け
る実質GDP 成長率は下位グループに位置しています(図表2)。新古典派成長
理論では通常、人口と生産年齢人口の区別はなされませんが、この違いを明示
的に考慮することなしには、日本が現在直面しているような問題は分析できま
せん。過去10 年以上にわたって、海外におけるマクロ経済政策の論議に当たっ
ても、日本の経験は頻繁に引用され、様々な政策提案もなされていますが、人
口動態の違いを考慮することなく一般的な結論を引き出すと、時として、ミス
リーディングなものとなる危険もあります。
人口動態の変化に伴う問題は、日本だけでなく、諸外国にとっても今後、重
要性を増していくと考えられます。例えば、中国の生産年齢人口の増加率は1990
年から減少傾向をたどり、2020 年にマイナスになると予想されています(図表
3)。他のアジア諸国にとっても、高齢化はやがて到来する現実です。欧州をみ
ると、ユーロ圏周縁国では、2007 年までは移民流入が人口増加に大きく寄与し
てきましたが、金融危機後に債務問題が深刻化する中で、移民の流入テンポが
鈍化、ないし流出が進み、足もとでは人口成長率の鈍化や減少から潜在成長率
の低下に直面している国もみられます。
人口動態の変化とマクロ経済のパフォーマンスというテーマの下で議論すべ
き点は数多くあり、私の短い挨拶ですべてをカバーすることはできませんが、
以下では、いわば「人口問題先進国」として、日本の経験の幾つかをお話しし
ます。最初に、日本の人口動態の変化に関する事実を簡単に説明し、次にその
マクロ経済のパフォーマンスへの影響を取り上げます。最後に、人口動態の変
化に伴う課題について触れてみたいと思います。

2.日本の人口動態の変化

最初に、日本の人口動態とマクロ経済のパフォーマンスの問題を考える上で、
私が重要と考える事実を4点指摘します。

第1は、日本の人口増加率や生産年齢人口は、かつては非常に高かったとい
う事実です。今では信じられないことですが、第2次世界大戦直後は日本では
人口過剰が問題とされ、実際、ブラジルへの移民船での移民は1952 年に再開さ
れ、1973 年まで続きました。日本の高度成長は1950 年代半ばに始まり1970 年
代初頭に終わったとされていますが、生産年齢人口の増加は自由貿易体制と並
んで、高度成長を支えた大きな要因でした。図表4は高度成長の始まった時期
と終わった時期における日本の年齢別人口構成を示したものですが、生産年齢
人口が急速に拡大していたことが分かります。ちなみに、この間の人口増加率
は1.3%、生産年齢人口増加率は1.9%でした。国際的にみても、当時は日本の
総人口や生産年齢人口の増加率は先進国の中で最も高い、ないし高いグループ
に属していました。

第2は、日本の人口や生産年齢人口の増加率の低下は、国際的にみて際立っ
たスピードであったという事実です(図表5)。総人口の動向を規定する最も大
きな要因は、出生率と死亡率ですが、出生率は1950 年代から急激に低下し、現
在は1.39 と、先進国の中では最も低位グループに属しています。死亡率もまた、
第2次世界大戦後、急激に下落し、千人当たり死亡者数は1979 年に6.0 まで低
下しました。その後、徐々に上昇し、2010 年では9.5 人となっています。

第3は、興味深いことに、上述の出生率の低下はかなり長い期間にわたって
一時的な現象とみられ、通常5年おきに再計算される公的機関によるわが国の
出生率予測は公的年金等の設計の基礎データとなりますが、事後的には1976 年
以降、ほぼ一貫して過大推計となっていたという事実です(図表6)。実際、出
生率が2を大幅に下回るという前提が置かれたのは1992 年の推計が初めてで、
それまでは、出生率は長期的には2に復帰していくという前提が常に置かれて
いました。
人口動態の変化に関する事実への認識の遅れに加え、そうした事実の持つ意
味の認識はさらに遅れました。その結果、予想される人口動態の変化に対処し
た措置が採用されるにはさらに時間がかかりました。これが人口動態の変化に
関して私が指摘したい第4の事実です。ちなみに、政府の1992 年度の国民生活
白書は「少子化社会の到来、その影響と対応」という表題を冠していますが、
振り返ってみると、この頃はバブル崩壊の深刻な影響に苦しんでいた時期でし
た。このため、一般国民はもとより、エコノミストの間でも、高齢化や少子化
といった人口動態の変化が日本経済に対して持つ意味の重さを、後に我々が実
感するほどには、十分には認識できていなかったように記憶しています。この
点について、新聞記事数から確認しますと、高齢化や少子化に関連する記事の
数は、1990 年代以降増加基調にありますが、これがバブルや不良債権をキーワ
ードとする記事の数を上回るようになったのは、生産年齢人口が減少局面に入
って凡そ10 年も経過した2000 年代半ば以降のことです(図表7)。

3.人口動態の変化が日本の経済に与えた影響

次に、人口動態が日本のマクロ経済のパフォーマンスに与えた影響という観
点から、経済成長率、物価上昇率、経常収支の3点について、整理したいと思
います。

経済成長率
まず、人口動態の変化が日本経済に与えた影響のうち、最も重要な経済成長
率に与えた影響を取り上げます。
ソローの成長理論モデルでは、全人口が労働力だと仮定されています。この
場合、労働節約的な技術進歩のある場合の長期均衡状態では、一人当たり成長
率は技術進歩率によって決まり、マクロの成長率は人口成長率と技術進歩率、
すなわち労働生産性増加率の和になります。日本のように高齢化から生産年齢
人口が減少し始めた経済では、仮に労働力率を一定とすると、労働力人口も減
少し労働供給が制約されるため、労働節約的な技術進歩がない限り資本収益率
が低下し、マクロの成長率には下押し圧力がかかります。過去10 年間の日本の
現実の状況に当てはめて言うと、労働力人口は年率0.3%の減少、労働生産性は
0.8%の増加、成長率は0.6%ということになります(図表8)。ただし、このよ
うな分析は高齢化や人口減少の影響を考える上での第一次近似としては有用で
すが、政策を考える上では、以下で述べるように、他の要因を取り込んだもう
少し現実的なアプローチが必要です。

第1は、労働力率が長期的に変化する可能性です。例えば、日本の女性の労
働力率は国際的にみて低く、特に30 歳代の労働参加率が一旦低くなるという「M
字カーブ」の傾向が顕著であり、現在でもそうですが、近年、そうした傾向は
徐々に変化しています(図表9)。

第2は、総人口一人当たりの成長率と労働力人口一人当たりの成長率の違い
です。ソローの成長モデルでは、全人口が生産年齢期にあり労働力人口に一致
すると仮定されていますが、高齢化が進むにしたがって両者の乖離は大きくな
ります。非労働力化した高齢層のウェイトが高まっていく過程では、総人口一
人当たりの成長率は、労働力人口一人当たりの成長率よりも低くなります。生
産要素の供給力という観点では、労働力人口一人当たりの成長率が重要ですが、
財やサービスの需要を支える消費者の平均所得という観点では、総人口一人当
たりの成長率の方が重要です。前者の成長率が高くとも、後者の成長率が低下
すれば、需要削減圧力が加わり、経済成長率を押し下げると予想されます。

第3は、いわゆる「スペンディング・ウェーブ」の影響です(図表10)。日本
の1980 年代後半の資産バブル発生のひとつの要因は、この時期にベビーブーム
世代が住宅購入を最も活発に行う年齢層となり、住宅購入を活発化したことで
す。同様に、1990 年代後半以降の自動車等の国内販売の減少には人口動態の変
化も大きく影響しています。一方で、高齢化の進展は医療や介護といったサー
ビスへの需要増加を意味します。現在、日本の消費のうち、約40%は60 歳以上
の年齢層によるものであり、今後、その比率はさらに上昇すると予測されてい
ます。そうした潜在需要の増加に応じて供給体制が変化すれば、潜在成長率の
低下は緩和される筈です。


第4は、財政バランスの変化を通じる影響です(図表11)。急速な高齢化は財
政赤字の拡大をもたらす大きな要因となりました。言うまでもなく、高齢化の
進展は、成長率の低下に伴う税収の伸び率低下や、医療、介護、年金等の社会
保障関係費の増大を通じて、財政赤字の拡大要因となります。また、将来の財
政バランスに関する不確実性が高まれば、現役世代の消費抑制要因となり、成
長を下押しする可能性があります。さらに、政治プロセスを通じる影響も考え
られます。高齢化は当然のことながら選挙民の平均年齢の上昇を意味しますが、
高齢者の投票率が高く、また、高齢者が社会保障制度の維持の選好を有すると
すれば、その程度に応じて、財政赤字が増大する傾向が生じます。

第5は、金融資産選択を通じる影響です(図表12)。特に、経済成長に欠かせ
ないリスク・マネーの供給という観点からは、高齢者の増加が家計の金融資産
の選択を通じて、どのような影響を与えるか検討する必要があります。しかし、
家計の金融資産選択は、年齢だけでなく、労働所得の動向や、住宅の選択など
と同時に決定される問題です。日本については、高齢者になれば他の条件を一
定として株式保有が増えるのか、あるいは株式を売却し、国債などの安全資産
選好を強めるのか、といった点について、マイクロ・データを用いた分析結果
が十分には蓄積されていません。今後の研究が期待される分野です。
なお、以上の分析は日本経済全体への影響に焦点を当てていますが、実際に
は、高齢化や少子化といった人口動態の変化も経済への影響も、均一ではなく、
人口増加率や生産年齢人口、高齢化比率のスピードは地域によって大きな違い
があります(図表13)。この違いは各地域の成長率の違いをもたらすひとつの要
因となっていますが、各地域の財政収支や金融機関経営の違いももたらしてい
ます。

物価上昇率

人口動態とマクロ経済のパフォーマンスとの関係で、次に取り上げる論点は
デフレとの関係です。人口動態とデフレと言うと、一瞬、その論理的な関係が
理解しにくいかもしれませんが、先進国のデータを横断的にみると、興味深い
ことが分かります。すなわち、2000 年代の10 年間について先進24 ヶ国の人口
増加率とインフレ率を比較すると、両者の間に正の相関が観察されるようにな
っています(図表14)。この事実は、マネーの増加率とインフレ率の相関が先
進国で近年弱まってきていることと対照的です5(図表15)。この関係をどのよ
うに解釈すべきでしょうか。
人口変動とインフレ率の相関に関しては、両者が景気循環を起点として共変
動している側面を反映している部分があります。例えば、欧米では、景気の変
動が需給ギャップを変動させてインフレ率を変動させると同時に、移民の流出
入によって人口の増加率が変化するよう作用した側面があります。しかし、日
本のように、移民の流出入が人口変動に及ぼす影響は無視できる国では、景気
変動が人口変動をもたらした度合いは小さいと考えられます。その日本につい
てみると、1990 年代以降、インフレ率と人口変動率の間に正の相関関係が観察
されるようになっています(図表16)。これには、高齢化に伴う経済の所得形成
力の低下も影響してきたと考えられます。
日本の経済成長率については、バブル崩壊や急速な高齢化、生産性の伸び悩
みなどを背景に、総人口一人当たりの実質GDP の成長率が1980 年代の約4%
から近年は約1%まで大きく低下しています(図表17)。こうした趨勢的な成長
率の低下は、今後さらに高齢化が進むと予想される人口動態のもとで、人々の
中長期的な成長期待を低下させ、家計の恒常所得を下押する可能性があります。
潜在成長率の低下自体は供給力の伸び悩みであり、恒常所得の低下に伴う需要
減少は供給減少と対をなす現象であることから、その限りで物価に対しては中
立的です。しかし、先ほども触れたように、人口動態の問題は当初はあまり意
識されず、ある段階から強く意識されるようになりました。その段階で、将来
起こる成長率の低下を先取りする形で、需要が減少し、物価が下落する一因と
なりました。

この間、米欧先進国では、金融危機の影響から、総人口一人当たりの実質GDP
の成長率が日本とほぼ同じレベルまで低下しています(図表17)。他方、バラン
スシート調整が長引く中、今後、米欧でも、高齢化と生産年齢人口成長率の低
下が進んでいきます。そうした人口動態の変化が、経済の所得形成力を弱めて
いけば、各国でインフレ率の低下圧力が強まっていく可能性も考えられます。


経常収支

人口動態とマクロ経済のパフォーマンスとの関係で、最後に取り上げる論点
は、経常収支への影響です。この点に関しては、日本の2011 年度の貿易収支が
赤字になったことも手伝い、経常収支もいずれ赤字になるのではないかという
議論が聞かれることもありますが、そうした見解は妥当しません(図表18)。ま
ず貿易収支について言うと、昨年度は東日本大震災に伴うサプライチェーン障
害による輸出減少と、原子力発電所の事故に伴う火力発電の増加から液化天然
ガスをはじめとする化石燃料の輸入増加が大きく影響しており、これらはいず
れも永続的な要因ではありません。経常収支は一国の貯蓄・投資バランスを反
映しますが、貯蓄に関しては、ライフ・サイクル・モデルが示すように、高齢
者比率が高いと、貯蓄率は低くなると考えられます。他方、投資に関しては、
少なくとも2つの経路を通じた高齢化の影響を指摘できます。第1に、労働不
足が生じて資本への代替が進む場合、国内投資が増加する経路です。第2に、
人口減少に伴う、国内需要の減少を受け、国内投資が減少する経路です。高齢
化に伴い需要が拡大する産業が資本代替の余地があまり高くないサービス産業
だとすれば、第2の経路が支配的でしょう。いずれにせよ、日本の所得収支は
日本の対外純債権が253 兆円、GDP 対比50%以上であることを反映し、過去10
年の年平均で12.4 兆円、GDP 対比2.5%の黒字を計上していることからみて、
当分、経常収支の黒字基調には変わりはないとみられます。

4.日本は人口動態の変化に対応できるか?

人口動態の変化は、ゆっくりと長い時間をかけて日本経済に大きな影響を与
えてきました。今後も人口減少は継続し、先ほど説明した様々な経路を通して、
当面、日本の経済成長率に下押し圧力を及ぼすと考えられます。しかし、これ
を運命論として受け入れることは不適切です。人口高齢化が経済に与える影響
は、経済や社会の柔軟性次第で変わり得るものです。問題は高齢化や人口減少
それ自体からではなく、それへの対応への遅れから生じているものです。私と
しては、人口動態の変化が引き起こしている問題を正確に認識し、そうした事
態を変える必要があると社会が判断するのであれば、対応策はあるということ
を強調したいと思います。以下では、そうした判断に立った場合、考えられる
対応の方向性を述べてみます。
第1は、労働人口を増やす努力です。この点では、外国人労働者の受入とい
った中央銀行総裁のマンデートを超えたテーマは別にして、出生率や労働参加
率の引上げの努力が挙げられます。興味深いことに、国際比較をすると、女性
の労働参加率と出生率の間には正の相関関係があるほか、日本国内の47 都道府
県の間でも、育児期の女性の労働参加率と出生率の間には正の相関関係が観察
されます(図表19)。実際、近年、日本の女性や高齢者の労働参加率は着実に上
昇しており、必要な方向に向けた努力は始まっています(図表20)。
第2は、需要パターンの変化に応じた供給面の対応努力です。内需面での典
型は、医療・介護といった高齢層の潜在ニーズへの対応です
(図表21)。過去
10 年間に、65 歳以上の人口は日本では33%増加し、米国では16%増加しまし
た。同じ期間に医療・介護関連の支出は日本では11%増加し、米国では74%増
加しました。このことは医療・介護関連のサービスやそれを満たす医療機械等
の設備という面では、日本における潜在需要は非常に大きいということを物語
っているように思われます。
第3は、グローバリゼーションという大きな流れを最大限に活用し、海外需
要を取り込む努力です。もし日本が閉鎖経済であれば、人口減少の影響からは
逃れられません。しかし、日本よりも人口増加率が高い国、あるいは成長が著
しい新興国の需要を中心に、海外需要を取り込むことによって、成長は十分可
能です。海外需要を取り込むという場合、輸出もありますが、日本企業の海外
進出による直接投資収益も含めて、所得収支の黒字という形での海外の成長の
成果を取り込む方法もあります。2000 年代の日本の実質GDP 成長率の平均は
0.6%であるのに対し、実質GDP 成長率と比較できるように、実質GNI から交
易利得を除いたものの成長率は0.7%となっています(図表22)。ちなみに、こ
の点では日本の対外直接投資の対GDP 比率は、他の先進国と比べて際立って低
い水準で推移しており、その引き上げ余地は大きいといえます(図表23)。経済
成長を議論する場合、通常は生産活動が行われる場所に着目して、GDP 概念が
重視されることが多い訳ですが、所得収支の黒字が増えてくると、自国の国民
の稼ぐ所得に着目したGNI 概念も重要になってきます。
第4は、以上3つの努力を行う過程で、資本の最適配分を行う努力です。日
本の労働生産性の伸び率については先ほど言及しましたが、労働生産性の水準
自体は他の主要先進国に比べても低いものとなっています(図表24)。このこと
は逆に言えば、資本の最適配分を行えば、一人当たりの所得水準はかなり上昇
する余地があることを物語っています。

5.おわりに

以上、人口動態の変化が日本経済に様々な影響を与えていることを説明して
きました。振り返ってみると、世界的な信用バブル崩壊が起こるまで、バブル
崩壊のもつ深刻な意味は学界でも政策当局者の間でも十分な理解がなく、日本
の経験は日本に固有の出来事と片付けられる傾向がありました。同様に、急速
な高齢化や少子化のもつ意味についても、この問題のもつ重要性と比較すると、
必ずしも十分な理解があるようには思えません。しかし、ウィリアム・ぺティ
の「政治算術」やマルサスの「人口の原理」を持ち出すまでもなく、経済学は
もともと人口問題を研究対象としていました。経済政策の立案にあたっては、
人口動態の変化とその政策含意に関する基礎研究が欠かせません。今回の会議
が、そうした基礎研究の蓄積に貢献することを期待して、開会の挨拶に変えた
いと思います。ご清聴ありがとうございました。
以 上