憲法記念日にあたって(中川秀直)
今朝の読売新聞社説が指摘しているように、内外に多くの懸案を抱えている中で、法改正の論議を深め、あるべき国家像を追求すべきときである。
昨年の東日本大震災の反省を踏まえ、緊急事態に対処するための条項を設けることは喫緊の課題である。日本に緊急事態は起こらないという安全神話から脱け出るためにも憲法改正が必要である。
緊急事態への備えを平時にすることには抵抗が強い。しかし、緊急事態には法整備の議論をしている余裕などないことは、昨年の経験でも明らかだろう。
日本は地震活動期に入った可能性がある。地震を避けることはできないが、予防策、迅速な事後対応策、組織改編などの準備で「人災」的側面を最小限に抑えることができる。
また、わが国周辺諸国の軍事的な動きも活発化している。政府・日銀が言っているように日本の潜在成長率が0%台、一方で中国は10年でGDPが2倍になるとすれば、GDPに対する国防費の比率が一定だとすれば、10年後の国防費は日本は現状維持で、中国は現状の2倍になっているということになる。
このことが日本と中国の軍事力のバランスに影響する。
残念なことに、政策コミュニティの間では、名目3%成長程度のささやかな成長戦略ですら絵に描いた餅、実現不可能な願望であり、それをもとに政策を考えるのは無責任であるとのコンセンサスが政官財学報の多数派で形成されてしまった。
ゼロ成長国家とは、再分配するパイが拡大しない国家のことであり、再分配するためにはその原資を誰かから収奪しなければならないゼロサム国家のことである。
再分配できない国は中央集権を維持することはできない。通貨すら維持できないかもしれない。それを無理に維持しようとするのが重税国家路線である。再分配する人から税でとりあげてそれを原資に再分配するというのは持続可能か。いかなる正義によりそのようなメカニズムを肯定するのか。
このように、これからの日本は、経済成長によって吸収していた国内外の様々なリスクが今後顕在化してくる。
緊急事態への備え、中央集権国家という国のあり方の基本的な見直しを急ぐべきである。
(5月3日記)