名目3%、実質2%を消費税増税の条件とすれば、劇的に日本経済が好転する可能性(高橋洋一氏) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

名目3%、実質2%を消費税増税の条件とすれば、劇的に日本経済が好転する可能性(高橋洋一氏)

秘書です。
今朝の高橋洋一さんのニュースの深層です。


消費税を社会保障目的税とする財務省と民主党は「世界の非常識」。名目3%、実質2%の「弾力条項」で財務省・日銀の尻を叩け!
ニュースの深層
2012年03月19日(月)高橋 洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32083


消費税増税法案の民主党事前審査が先週から続いている。消費税そもそも論を理解していないので議論が紛糾する。

まず消費税の基本を確認しておこう。消費税は地方または国と地方の一般財源という国が一般的だ。税率について、財務省はヨーロッパ諸国の消費税率(15~25%程度)を強調するが、ヨーロッパ諸国は日本でいえば一地域の経済規模・人口だ。日本でいえば、地域が道州制になってそれぞれの地域で独自に消費税率を決めていると考えればいい。カナダは、州によって12~15%となっている。

社会保障の観点から見ると、その財源は社会保険方式なので保険料が基本である。税方式は少なく、しかも社会保険料方式から税方式に移行した国を筆者は知らない。

最近では、社会保障と税の統合ということで、フリードマンの提唱した「負の所得税」の実務版である「給付付税額控除」が世界各国で行われている。ここでの税とは所得税であり、社会保障の役割である所得再分配を所得税と一体で行おうとしている。米国、カナダ、英国、フランス、アイルランド、ベルギー、ニュージーランドなどだ。

財務省・小沢一郎の間で生まれた「社会保障としての消費税」

こうした税理論と社会保障論から、財務省や民主党のいう消費税を社会保障目的税にするのはおかしいことがわかる。なぜ、日本で消費税の社会保障目的税がいわれるかといえば、1999年の自自公連立時に、財務省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、「消費税を上げるために社会保障に使うと書いてください」と要請して政治上の取引で了解されたものだからだ。そうした政治的な経緯があるので法律ではなく予算総則に書いてある。なお、平成12年度の税制改正に関する答申(政府税制調査会)の中で、「諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらない」との記述がある。

政権交代した民主党は、過去のしがらみなしで社会保障と消費税を考えられたはずだ。もし、まともに考えれば、地域主権から消費税は地方に税源移譲する。同時に、社会保障は、とりあえず給付付税額控除の方向で考え、そのための社会インフラとして「歳入庁」(所得税・法人税などと社会保険料を一体として徴収する機関、日本でいえば国税庁と年金機構徴収部門の統合)を創設する。そして、持続的な社会保障のために、所得・法人税と保険料のベストミックスを考えることになる。その際、年金の世代間不公平や各種社会保障の縦割りも議論される。

民主党はこうした大きな方向性なしで議論し、制度論として必ずしも優れていない自公時代のものをコピーしただけだったので、「社会保障と税の一体改革」とは名ばかりの「消費税増税大綱」になっている。民主党がどんなに説明しても、今回の消費税増税は政権交代して歳出が膨らんだのを穴埋めしているだけだ(2011年12月26日付け本コラム参照。先日、某国会議員はそのコラムを参考にして質問したといっていた)。

98%の国が名目3%の成長を達成している

 ただ、今の段階でもう基本論をやっている時間もない。ということで、民主党事前審査では、もっぱら景気悪化時に増税を停止できる「弾力条項」に議論があるようだ。さらなら増税は譲歩したとするアリバイ作りだろう。

条件は「国内総生産(GDP)の成長率が名目3%、実質2%」が示されているようだが、増税賛成派から厳しいという声があるという。

それは、今の状況でも増税したいからだ。ちなみに、安住淳財務相は22日の衆議院予算委員会で、現在の経済状況であれば消費税率を引き上げることは可能だとの認識を示している。その場で、1%の物価上昇率にいかないと消費税率引き上げをやってはいけないということではない、ともいっている。

名目3%、実質2%はそれほど厳しい条件だろうか。世界を見てみよう。データの入手可能な国152ヶ国で2000年から2008年で名目成長率、実質成長率の平均をみると、名目3%以上の国は98%の149ヶ国、実質2%以上の国は85%の129ヶ国もある。

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これから分かることは、実質2%、名目3%ともに達成は容易であるが、実質2%のほうがやや困難である。そこで、日本のデータを見てみよう。こういう時のデータ判定条件は、四半期ベースの実質GDP成長率と名目成長率を見て、前期比増加率を年率換算することが多い。なお、テクニカルな問題だが、前年同期比で見ることも可能であるが、そのほうが条件のクリアはより困難になるので、一応、前年同期比でみてみる。

1994年度からの四半期でみると、実質2%を超えているのは45%だが、名目3%は18%だ。四半期で見る場合、2期連続で条件をクリアしていることとすれば、打率4割5分の打者が2打席連続ヒットを打つことは難しくない。しかし、代率1割8分の打者が2打席連続ヒットは難しいかもしれない。

なお、四半期で見て二期連続で数値条件をクリアしているかどうかというのは、財政構造改革の推進に関する特別措置法で規定された財政再建の停止条件である。

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ただし、世界では98%の国が名目3%をクリアしているのに、なぜ日本はダメなのか。それはカネを刷らないからだ。

再び世界のデータに戻ろう。マネー伸率と名目GDP伸率には強い相関がある。リーマンショック以降、各国がカネを刷って大恐慌に陥らなかったことや、先ほどの日銀がなんちゃって「インフレ目標」(あえていうと、「イン”メド”」)で10兆円余計にするといっただけで、円安で株高になった。これらは、本コラムの読者なら、筆者が前に書いてきたとおりの予想の範囲内だ。カネを刷れば、名目3%を達成することは簡単だ。

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そして、しばしばいわれる人口要因はどうなのか。人口減少の国は11ヶ国があるが、すべて名目3%をクリアしている。下図をみると、人口要因が名目成長に関係しないことがわかるだろう

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打率1割台の日銀がなぜ容認されてきたのか

 以上から分かることは、名目3%、実質2%はそれほど難しい条件ではない。
こんな簡単なことがなぜできなかったのか。

 それは、まず日銀法の不備がある。世界の中央銀行は、バーナンキFRB議長がいうように、目標の独立性はなく手段の独立性しか認められていない。ところが、日銀法では、目標まで中央銀行が定められることになって目標の独立性まで与えている。これは世界で希な中央銀行法だ。それでも、日銀が目標を定めていればまだましだったが、先日、「メド」とはいったが、「目標」とは口Gさけてもいわない。それは達成できないときに責任問題になるからだ。

本コラムでいってきたように、日銀は「デフレ・ターゲット」を行っているかと見間違うほどに、0~2%というレベルの低い範囲ですら、1998年の新日銀法施行以来、16%しか達成していない。世界では6割以上あたりまえの中で打率1割6分の低打率だ(ちなみに、米国FRBは同期間で73%)。それが問題にならないのは、目標すらなく、その説明責任すらないからだ。


 その日銀の体たらくを財務省も容認してきた。デフレ脱却すると目先の金利上昇におびえてきたという面もある(これは名目成長したら日本が破綻するというくらいにおバカな話)が、なにより低い名目成長のほうが税収不足になって、増税(=税率の引き上げ)がいいやすいからだ。


財務省のDNAは税率の引き上げだ。決して税増収ではない。筆者が小泉・安倍政権時代に、増税なしで財政再建をほとんど行ったこと(プライマリー赤字は▲28兆円から▲6兆円まで改善)は不都合な事実である。

ところが、名目3%、実質2%を消費税増税の条件とすれば、劇的に日本経済が好転する可能性がある。というのは、「増税命」の財務省がそれを達成しようと必死に日銀の尻を叩くからだ。となると、日銀も組織防衛から、インフレ目標をしっかりした形でいうために日銀法改正もでてくる。

こうした世界標準の制度作りのために好循環がでてくるのであれば、名目3%、実質2%も決して悪い話ではない。