物価上昇率1%の目途→「短期的にこの目的に到達するわけではありません」(日銀総裁) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

物価上昇率1%の目途→「短期的にこの目的に到達するわけではありません」(日銀総裁)

秘書です。
昨日の日銀総裁の記者会見を読解しましょう。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1203b.pdf

「・・・具体的な措置の内容をご説明する前に、日本銀行としてのデフレ脱却に向けた考え方を、改めて申し述べたいと思います。
わが国経済は、現在、急速な高齢化のもとで、趨勢的な成長率の低下という長期的・構造的な課題に直面しています。この課題への取組みは、わが国経済の新たな経済成長の基礎を築いていく上で不可欠です。デフレからの脱却は、こうした成長力強化の努力と金融面からの下支えを通じて実現されていくものです。以上を念頭に、民間企業、金融機関、そして政府、日本銀行がそれぞれの役割に即して取組みを続けていくことが、重要であると考えています。
こうした基本認識のもとで、日本銀行は、先月、政策姿勢をより明確化するとともに、金融緩和を一段と強化しました。・・・」

(問に対する回答)「先程も申し上げましたが、わが国経済は、現在、急速な高齢化のもとで、趨勢的な成長率の低下という長期的・構造的な課題に直面しています。デフレという現象も、成長率が低下するもとで将来の成長期待をなかなか持てない、その結果、支出が本格的に増えないということの反映です。そういう意味では、デフレという問題は、成長力低下の裏返しの現象です。」

→デフレの原因は貨幣的現象です。成長力が低下しているときには中央銀行がデフレにならないように細心の注意が必要なのに、世界の中で日本の中央銀行だけがデフレと戦う姿勢がぜい弱なということでしょう。デフレは貨幣的な問題ではない、急速な高齢化に起因する趨勢的な成長率低下が根本的な原因であるという考え方で。まだ「平成の末法思想」から抜けてないようですね。デフレの原因を日銀にだけおしつけないでほしい、という単独で責任を負うことの回避ですね。下記のFRBの姿勢とは根本的に違いますね。FRBと日銀は同じではないですね。インフレ率に対する責任感が全く違います。

「長期的なインフレ率は主に金融政策によって決定されるため、FOMCはインフレの長期的な目標を具体的に定める能力がある。」
インフレ目標設定に関するFOMC声明全文
2012年 01月 26日 08:51 JST
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK808529120120125

どこがFRBと日銀が同じなのでしょうか?


「企業の資金繰りも、総じてみれば改善した状態にあります。」

→中川秀直が予算委員会で指摘したように、やはり、中小企業の資金繰りの苦しさは、日銀総裁は無視しているわけですね。「総じて」という言葉の中に。大企業の間接金融依存が終わったのは一体いつから続いているのでしょう?

「物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、概ねゼロ%となっています。」

→日銀総裁はなぜ生鮮食料品だけを除き、エネルギーを除かないのか?エネルギーを除くとゼロ%ではなく▲1%近くになるからです。総務省が発表した「消費者物価指数 全国 平成24年1月分」(平成24年3月2日公表)によると、

・生鮮食品を除く総合指数は前年同月比は0.1%の下落。

・食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数は0.9%の下落。

エネルギー価格を抜かなきゃダメでしょう!ホルムズ海峡で危機が起きたら、石油価格が高騰して、物価があがるかもしれない。それでデフレ脱却を宣言しますか?



「景気に関するリスク要因について考えると、このところ市場はやや落ちついているとは言え、欧州債務問題が今後どのように展開していくかは引続き大きなリスクとなっています。原油価格上昇の影響も懸念されます。さらには、世界経済の牽引役として期待される新興国・資源国についても、例えば中国のインフレ率は低下基調にありますが、新興国が物価安定と成長を両立する形で経済がソフトランディングできるかどうか、なお不透明感が高い状況が続いています。
物価面では、国際商品市況や中長期的な予想物価上昇率の動向などを注視する必要があります。」

→景気に関するリスク要因は、みんな外的要因だ。何か見通しが外れても、それは外的要因です、政府も日銀も悪くありません、ということですね。


(問) 前の質問に関連するかもしれませんが、本日の会合でも宮尾委員から5兆円の基金増額の提案があったと思いますし、与党の一部にも、さらなる基金の積増しを求める声もあったと思いますが、総裁ご自身は、どういった考えで反対されたのでしょうか。

(答) 先程の説明と重複しますが、2月に金融緩和の強化、3月に成長基盤強化と、この2つをパッケージとして強力に打ち出しました。これによって、日本銀行のメッセージを明確に伝えると同時に、行動を明確に取ったということで、私どものメッセージは非常に明確だと思います。

→10兆円規模で約5円の円安効果があることが証明された。にもかかわらず、さらに5兆円の基金増額に反対するということはこれ以上の円安を望んでいないということなのでは?産業界の出身の審議委員のみなさんはなぜ、この提案に反対したのでしょうか?

「・・・ご質問の中で指摘されていましたが、例えば、企業の海外展開が国内の空洞化を招くと捉えることは必ずしも適切ではないことは、かねて申し上げている通りです。基本的には、需要が拡大する海外に日本の企業が進出していくこと自体は自然な流れであり、抑えることの出来ない動きだと思います。そういう意味では、拡大するグローバル事業を取り込むと同時に、内需を開拓していく努力も必要ですが、実は、そのグローバルな展開をしていく時、国内との補完的な関係が出来上がってくるわけです。過去の海外進出がそうであったように、海外で生産を増やすと同時に、国内からは、より高度の部材、中間財の輸出を行うという形で分業関係ができてきたわけです。私どもとしては、効率的な国際的分業態勢の構築と、国内産業の高度化といった戦略的な取組みを一体として行うことで、国内の設備投資や雇用にも好影響を与え、その結果、成長力も強化されていくことを期待しています。今、抽象的に申し上げましたが、これをどういう形で実現していくのかについては、今後、十分に意見交換をし、具体案を詰めていきたいと考えています。」

→企業の海外展開が国内の空洞化を招くと捉えることは必ずしも適切ではない、という考え方が円高容認論の根幹ですね。産業界代表の審議委員も同じ意見なのでしょうか?

「物価面についてみると、原油価格の上昇が川下へと波及し、物価の上振れ要因となる可能性があるほか、人々の予想インフレ率を押し上げる可能性もあります。一方で、こうした物価上昇が実質購買力の低下を通じて、経済にマイナスの影響を強く与える場合には、やや長い目でみて、結局は下振れの要因となる可能性もあります。」

→だから、物価をみるときには、エネルギーの要因を排除しなければならない。生鮮食品だけでなく、エネルギー要因を除き、現状は対前年同月比▲1%近傍で下落を続けているとの認識を持つべきでは。そうすれば宮尾提案が1対8で否決されることはなかったのでは。

「私どもとしては、残された金融緩和の余地を最大限に追求することで、金融緩和政策を行っています。しかし、これだけで、必ずしも需要が創出されていくわけではありません。それだけに、これだけ緩和された金融環境を最大限使っていくための努力の方が遥かに重要です。その面では、様々な企業の取組み、政府の環境整備が重要と思っています。そこで話を止めてしまうことも可能ですが、中央銀行として少しでも貢献していく道を探っていくということです。元々、これだけで全体が解決すると思っているわけではありません。ただ、繰り返しになりますが、それでも効果と副作用を点検した上で、効果が勝ると判断する領域で模索していくのが私どもの今のアプローチです。」

→残された金融緩和の余地を最大限に追求しているなら、なぜ、宮尾提案を否決したのか?


「先般の措置の中で、まず「中長期的な物価安定の目途」についてですが、これは、日本銀行という組織にとっての目指すべき物価安定の数字を明らかにしたものです。こうした数字が明らかになることによって、人々の将来の物価に対する予想がしっかり数字にアンカーされていくということを期待しています。」

→そうであるならば、日銀が重視しているフォーキャスト調査(アンケート調査)の予測が日銀の予測に収れんしてくるはずです。2月14日の政策決定会合後のフォーキャスト調査はどうでしょうか。これは日銀が使っているフォ―キャスト調査ではありませんが信頼のできるフォ―キャスト調査です。日銀が物価上昇率0.5%と見込んでいる2013年には、ESPフォーキャスト調査では、第1四半期と第2四半期はマイナスで、第3四半期0.02%、第4四半期0.01%です。宮尾提案のようにさらに踏み込むべきときでしょう?一体、どんなフォーキャスト調査に基づいて宮尾提案を否決したのでしょうか?

http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-11185710080.html

「日本銀行が、デフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長を実現していくことが極めて重要な課題と考えていることは、再三申し上げている通りです。この点について考え方が変わったということはありません。一貫して、こうした課題が重要であると思っています。ただ、そうした日本銀行の姿勢が必ずしも明確に伝わっていないというご批判があったことも事実です。」

→批判している人は、姿勢がつたわっていないことを批判していたわけではありません。デフレ脱却への責任を回避して、やらないことを批判しているのです。小さすぎて遅すぎる2.14政策決定でも市場は反応している。日銀には市場を動かす力があることが証明されています。でも、責任をおいたくないし、これ以上はやりたくない、ということなのでは?

「(問) 2点お伺いします。1点目は、基本的なことですが、緩やかな回復経路に復していくと考えられるということですが、それでも物価上昇率1%がみえるまで、日本銀行として一段の緩和政策を採っていくという理解でよろしいでしょうか。2点目は、来月、審議委員2人の任期が来ますが、そのことに対する政治的なプレッシャーを恐れて、日本銀行が政策を採っているという声もあります。総裁のご見解をお願いします。

(答) 1点目の物価についてですが、私どもが金融政策を運営していく上では、先行きを展望して、物価安定のもとでの持続的な経済成長の経路に向かっていっているかどうかが、非常に大事なポイントだと思います。デフレの原因が、先程申し上げた日本経済の構造的な成長力の低下にあるわけですから、短期的にこの目的に到達するわけではありません。しかし、そうした方向に経済が向かっているかどうか、これが基本的な判断の大事な点だと思っています。いずれにせよ、望ましい物価の状況が実現するためには、関係者の様々な努力が必要だと思います。2点目の審議委員の人事については、国会の同意を得て内閣が任命する手続きになっていますので、私からコメントすることは差し控えたいと思います。ただ、日本銀行が政治的なプレッシャーを意識して金融政策の運営を変えていくということはありません。中央銀行が働きかけていく経済主体、あるいは市場参加者という面からいうと、中央銀行が独立した判断で、中長期的な経済・物価の安定という観点から金融政策を行っていくことが非常に大事であり、中央銀行がそうした政策運営を行っていくような環境を作っていくことが大事であるということも――既に認識して頂いていると思いますが――、さらに一段の理解を頂きたいと思っています。いずれにせよ、日本銀行が政治的な圧力によって金融政策を変えていくということは、中央銀行にとって自殺行為ですので、そうしたことはありません

→「短期的にこの目的に到達するわけではありません」?

ある営業部に例えましょう。営業部長が売上目標を営業マンに提示します。そのときに、営業マンが「短期的にこの目的に到達するわけではありません」、「売上目標が達成できない原因は日本経済の構造的な成長力の低下にあるわけです」「売上目標達成に向かっているかどうか、これが基本的な判断の大事な点だと思っています」といったら、営業部長はどうするか?きっとクビか左遷を考えますね。しかし、この営業マンはいいます。「それは私の独立性を侵害するものです」と。

こんなことは実社会ではありえないでしょうが、日銀にはありえるわけです。それが目標の独立性まで与えられて何の結果責任もおわないですむ日銀法の法制上の欠陥ですね。(営業部長とは、国民代表たる政府ですね)

この法制度の検討は立法府の権限で行うものであり、金融政策を左右する政治圧力のために行うものではありません。政治は中央銀行の政策手段には介入しません。しかし、中央銀行も、立法府の立法の検討に対してロビイングするようなことはしてはいけませんし、決してそんなことはしないと期待しております。




(参考)日本銀行における役員の給与等の支給の基準(抜粋)
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2012/rel120314c.htm/


1.社会一般の情勢への適合

法第31条第1項では、役員の給与等の支給の基準を定めるに当たって、社会一般の情勢に適合することが求められている。その際、基本的な考え方として以下の点に配慮するものとする。



(1)

役員の給与等は、各役職の職責及び必要とされる能力に応じたものであること。



(2)

役員の給与等は、日本銀行の適切な政策運営及び業務サービスの維持・向上を図るために必要な人材を確保する上で十分競争力のあるものとし、そうした人材の民間企業等における処遇の実情を勘案すること。



(3)

役員の給与等は、日本銀行の業務及び財産の公共性にかんがみ、その総額を含めて適正かつ効率的なものとなるよう配慮すること。


2.特別職国家公務員給与等の勘案の仕方

法第31条第2項では、役員の給与等の支給の基準を定めるに当たって、特別職の職員の給与に関する法律(昭和24年法律第252号)の適用を受ける国家公務員(以下「特別職国家公務員」という。)の給与及び退職手当その他の事情を勘案することが求められている。その際、基本的な考え方として、以下の点に配慮するものとする。



(1)

総裁の給与については、特別職国家公務員の最高給与を上回らないようこれを定め、総裁以外の役員については、各役職の職責に応じ、総裁との均衡を考慮すること。



(2)

役員の退職手当については、特別職国家公務員の退職手当を勘案するとともに、日本銀行役員の任用形態や退任後の就職に関する制約等にも配慮すること。



→結果責任という概念はないようで。