【郵政赤字体質の原因は何か?③】日本郵政のJPエクスプレス事業統合、簡保の宿、病院等 | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

【郵政赤字体質の原因は何か?③】日本郵政のJPエクスプレス事業統合、簡保の宿、病院等

秘書です。
郵政赤字体質の原因は何か?その3です。日本郵政について。


(2) 事業価値の向上と健全経営の確立

①日本郵政

22年度決算において、日本郵政グループは民営化後初めて減益に転じ、当期
純利益は過去3年間で最も低い数字となった。銀行事業と生命保険事業の収益は、
それぞれほぼ横ばいおよび減少であったが増益を確保した。他方、郵便事業は
大幅に減益となった。22年度にJPエクスプレス事業を統合したゆうパック事業
の大赤字がその主因である
。費用面をみると、業務費は減少しているが人件費
はほぼ横ばいであり、経営効率化への取組みが不十分
であったこともうかがえ
る。23年度上期もゆうパック事業の不振は続いており、抜本的な取組みが求め
られる。
日本郵政単体データ(図表6)から明らかなように、医業損益は50億円超の赤
字、かんぽの宿等の宿泊事業損益は30億円超の赤字と、本業以外の業務で計80
億円程度の累計損失が毎年積み上がっていることに鑑みると、郵政民営化以前
からの問題であった高コスト構造脱却に向けた取組みについて、委員会として
懸念を表明せざるをえない


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(エクイティストーリーの現状とグループ会社のガバナンス)

郵政民営化法においては、ゆうちょ銀行及びかんぽ生命の株式について29年9
月30日までに完全売却することを義務化している。また、日本郵政の株式につ
いても3分の1超を政府保有とし、残りはできるだけ早い段階で3分の1に近づけ
る努力義務がある。
日本郵政グループはこれを前提としたエクイティストーリーを描き株式上場
に向け準備を進めていた。しかし、21年12月に凍結法が成立し、日本郵政に係
る全株式を保有する政府が売却不可能という状況に陥っている。しかし、23年
11月には復興財源確保法が成立し、震災復興費用捻出のため、株式上場の可能
性が再び議論される状況となった。
株式上場を行うにあたっては、業務革新を通じた費用の削減、経営の効率化、
上場に耐えうるガバナンス(内部統制、コンプライアンス態勢)整備が必要と
なる。
日本郵政グループでは19年の民営化以後、株式上場に向けたシステム開発や
内部管理体制の整備、コンプライアンス水準の向上に向けた取組みを進めてき
ており、凍結法が成立したことをもってもこれらの整備を停止したわけではな
い。システム開発についてはほぼ終了し、その維持を行っている状態である。
しかし、証券会社との打ち合わせ等具体的な株式上場に向けた業務の多くは休
止状態となっている。
また、株式上場を前提としている会社であれば、決算情報開示の迅速性や四
半期開示への対応が必要となるところであるが、現状ゆうちょ銀行、かんぽ生
命の金融2社は対応済みである一方その他3社は対応していない。グループ内の
開示態勢の整備、監査法人との調整が課題となっている。
グループ会社のガバナンスという点についても同様に、当初は株式売却を前
提として、内部統制・コンプライアンス態勢等の整備を進めていくというシナ
リオであったが、凍結法により、株式上場という旗を失ったことによりこれら
の改革の歩みが減速した可能性も否定できない。
また、先に述べた通り29年9月までに金融2社の株式を完全売却することが義
務化されているが、株式売却にあたっては相当の期間を要するものと想定され
る。しかし、24年3月現在において株式売却準備に手を付けられない状態が続い
ており、この点においても凍結法の影響は否定できない。
また、23年11月に成立した復興財源確保法では日本郵政株売却による資金確
保に触れられているが、日本郵政グループの事業実態及び資本市場にかかわる
全般的環境に鑑みると現時点で株式を売却したとしても国庫に入る収入は限定
的と想定せざるをえない。

(ゼロ連結法人のその後)

19年の「郵政事業の関連法人の整理・見直しに関する委員会」最終報告を受
け、同委員会の検討対象となった219法人のうち、新たな観点による整理・見直
しが必要となった法人(ゼロ連結法人)に関する対応状況は以下の通り報告さ
れている。
ゼロ連結法人への対処については、郵便の中核的な輸送業務を担う31法人の
うち約半数の15法人を1法人に統合して子会社化している。また、残りの16法人
については解散又は人的関係を解消した結果、ゼロ連結法人は存在しなくなっ
た。
また、OBが在職して郵政グループと取引のある57法人については、①業務上
グループ内に置くことが必要な法人5法人は子会社化し、それ以外のものについ
ては、②17法人は取引を終了し、③27法人はOBの退任を要請し、④8法人につい
ては取引を一般競争入札とすることで対応している。23年12月時点では、①3法
人を子会社化し、②8法人と取引が終了、③OBの役員はすべて退任し、④8法人
すべてとの取引を一般競争入札としている。
これらの取組みにより、ゼロ連結法人の整理・見直しは相応に進展している
ものと判断されるが、新たな形での利益移転の仕掛けが構築されていないか、
引き続き監視が必要である。

(かんぽの宿等)

かんぽの宿等を含む宿泊事業は、20年度52億円、21年度32億円、22年度32億
円と毎年赤字を続けており、23年上期もその傾向は変わらない(図表6)。
20年12月にかんぽの宿等のオリックス不動産への一括譲渡が発表されたが、
21年1月には鳩山邦夫総務大臣(当時)が異議を表明し、契約を解約するに至っ
ている。
その後不動産売却等に関する第三者検討委員会が設置され、同委員会から売
却に関する手続き上の問題の指摘を受けるに至り、現在では凍結法によりかん
ぽの宿等は売却できない状態にある。
日本郵政グループは、総務省の要請を受けて、かんぽの宿に関する収益改善
計画を策定し、これに沿った形で諸策が講じられている。具体的には、メンバ
ーズカード会員サービスの充実やインターネット予約の拡大による収益向上、
顧客満足度の向上、人件費及び物件費のコスト削減を進め、さらに、飲食・売
店等の委託部門の直営化等を推進することで黒字化を目指している。しかしな
がら、その成果は未だ見られない状況で、21年2月の譲渡中止からの3年間で約
90億円もの損失を出す結果となった

赤字事業の黒字化は企業にとって重要課題ではあるものの、本業に資源を集
中するという視点からは、売却の可能性を検討することも必要である。また、
売却となった場合には買い手がその飲食部門等を必要としないケースもあり得
ることから、売却検討も視野に入れるならば、飲食・売店等の委託部門の直営
化などという業務改善策の講じ方については慎重になる必要があるとの意見も
当然ありうる。
手続きの透明性に十分配慮して、国民に疑義が生じないようにするという前
提に立った上であれば、本業以外の赤字事業の売却は否定されるものではない
また、手続きの効率性、円滑な事業譲渡という観点からは、一括売却も選択肢
の一つとなり得るものである


(JPタワー(旧東京中央郵便局))

20年6月に旧東京中央郵便局敷地における再整備計画が発表され、21年鳩山邦
夫総務大臣(当時)が歴史的建物保存の観点から計画の見直し求め、当初計画
が変更されるという一連の動きの中で建築費等のコストは当初より大きく増加
し、スケジュールの遅れも生じた。
24年5月末に竣工が決定したJPタワーは、東京駅前の一等地であり、今回高層
化して賃貸に供することで安定した不動産賃貸収益が見込まれている。同様に
大阪中央郵便局、名古屋中央郵便局駅前分室においても再開発計画が発表され
ているが不動産市況の落ち込み、オフィス賃料の低迷を背景に計画が進捗して
いない。
駅前に立地するなど価値の高い資産に関しては不動産市況も考慮しながら幅
広い可能性を検討し有効利用することが必要である。また、資産価値の高い資
産であるならば、売却を講ずることは、売却収入およびバランスシートのスリ
ム化も期待できることから検討に値する選択肢と考えられる。

(病院事業)

現在全国14の病院を保有しているが、20年度から22年度までの3年間、毎年50
億円を超える赤字を計上している
(図表6)。日本郵政へのヒアリングによると、
現段階で病院事業の売却は検討しておらず、地域や労働組合との話し合いを行
いながら収益の改善を図っていく方針であるとのことであった。日本郵政グル
ープにとって本業でない病院事業の経営改善は困難が伴うものではあるが、か
んぽの宿等以上の赤字を計上している現状に鑑み、売却や提携といった方法も
視野に入れつつ、早急な解決が求められる。

(国際戦略の状況)

日本郵政グループの国際戦略に関しては、過去に郵便事業会社の北京事務所
創設、国際物流業務に関する新規事業認可を取得して山九との共同出資による
国際物流子会社「JPサンキュウグローバルロジスティクス」設立、また、ラ・ポ
スト(フランス)との国際物流、EMS(国際スピード郵便)、環境分野における
協力についての合意、中国向けインターネット・ショッピング・モール新設等
を行ってきた。21年4月以降の3年間においては、22年11月に中国郵政との国際
事業拡大に向けた提携、23年8月に国際金融の調査を目的としたゆうちょ銀行の
ロンドン駐在員事務所・香港駐在員事務所の開設、23年11月にインターネット
オークション世界最大手の米eBayとの業務提携を発表するなど、国際的なサー
ビス拡大に向けた布石を打っている。尚、eBayは過去に日本市場から撤退した
経緯もあり、その提携効果は現時点では未知数ではあるものの、グローバル化
が進展する中、これらを含め国際事業部門をいかに成長させていくかは今後と
も重要な課題である。