2010年に日中戦略的互恵関係は変質した(中川秀直) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

2010年に日中戦略的互恵関係は変質した(中川秀直)

2012年度の中国の国防予算は約8兆7000億円で、米国に次ぐ第2の規模であり、日本の防衛予算の2倍に近い。中国の国防費は、中国の経済成長と同じ勢いで伸び続けている。しかも、宇宙関連など国防費以外の国防関係予算を含めれば、実質的には17兆円と言われている。他方、日本の国防費は経済成長に比例して抑制が続いている。

中国の国防予算は経済に比例して伸びていく。日本はもう経済成長しなくていいといってきた反成長主義のみなさんは、こうした国防予算のアンバランスが蓄積されていくことについてどのような認識を持っているのだろうか。

中国の国防費の伸びが2030年まで続ければ米国の国防費と肩を並べるのである。3月1日、米国のウィラード太平洋軍司令官は下院軍事委員会の公聴会で「中国はアジア太平洋の海洋、サイバー空間、宇宙といった領域で米国や同盟国に挑み続けている」と発言している。

最近の尖閣諸島に対する中国の対応も、大きな戦略的視野の中でとらえるべき問題であり、今後の長期持久戦の末、日中の経済力、国防力の格差が決定的な段階が来ることを準備した戦術であろう。こうした長期持久戦に対応する決心があるのかどうかが試されている。

2010年、日中の経済力が名目GDPにおいても逆転した年に、あの尖閣沖漁船衝突事件が起きたことは象徴的である。そして、2011年夏には米国副大統領の日本滞在中に中国公船が尖閣周辺で領海侵犯をしている。

私は日中戦略的互恵関係を構築した時期、与党幹部として中国側と対話をした経験を持つが、あの当時、私は成長戦略により名目GDPでの日中逆転をできるだけ先送りしなければならないと考えていた。しかし、名目GDP逆転のポイントは早まってしまった。そして、今は中国の経済力が米国の経済力に接近するプロセスに入っている。だから、戦略的互恵関係は2010年を境に変質をしていると私は考えている。

野田首相はこの2010年を境にした変質を認識しているだろうか。

野田首相は今年1月31日の参議院予算委員会で日中の戦略的互恵関係について以下のように述べている。

「昨年の暮れに、これ戦略的互恵関係の話はしました。会うたびに、ホノルルでも、あちこちでやります。これはある意味、呪文のようにお互い唱えながら、個別に懸案起こることはあるんです。だけど……(発言する者あり)ちょっと呪文、ちょっと適切じゃなかったかもしれません。何と言ったらいいでしょう、理念、ごめんなさい、理念、理念、失礼いたしました。理念というか、基本的な原則を確認をしながら、何回もそれを唱え続けることによってその意識を深めるという意味もあると思うんです。」

私は、戦略的互恵関係とはまさに戦略的な関係なのであって理念ではないと考えている。そして、戦略的な関係は変化していく。呪文のように唱えればいいという発想では、2010年を境にした変質をどれだけ認識しているのか疑問が出てくる。

日中関係をどうとらえるかは国家の基本問題である。こういう問題こそ、党首討論で議論を深めるべきテーマだと思う。

(3月6日記)