2月23日衆院予算委員会与党質問に政府・与党の基本思想をみる(2005-07年は円安バブル?) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

2月23日衆院予算委員会与党質問に政府・与党の基本思想をみる(2005-07年は円安バブル?)

秘書です。

与党質問というのは、その日のニュースを政府・与党サイドで独占するために、サムシングニューなことを言ったり、数字を出したりする場にもなる大事な時間です。(昔は、野党との取引があったのか、野党がクローズアップされるように野党質問で重大な答弁をすることもありましたね)

さて、野党時代の民主党は統一テーマをしぼって次々に波状攻撃をかけて争点を形成していく戦術に長けていました。党首討論から一般質疑まで、統一がとれていましたね。

そして今、与党になって、やはり、統一したメッセージを出すことにとても長けているなと、感心したのが2月23日の衆院予算委員会の与党質問です。質問者は、日銀出身、財務省出身、証券会社出身の3人。

そこには、政府・与党が国民に伝えたいメッセージがあったように思います。

例えば、


(1)金利上昇圧力を強調→結果としてデフレに甘んじた方がいいような錯覚?  

(与党議員)長期金利が1%上昇した場合、国内金融機関の損失は大手・地方どのくらいになるでしょうか

(白川総裁)仮に金利が全期間に渡りまして一律1%上昇するというケースを想定しまして、金融機関の保有する債権の下落幅、損失を計算いたしますと、大手行につきましては3.5兆円、地域の銀行については2.8兆円でございます。これは議員ご存じのとおり機械的な前提をおいて計算しておりますので、あわせて金利が上昇いたしますときには、貸出金利もあがるということでございます

→これが以下のように報道されます。総裁はしっかりと貸出金利もあがるといっていますが、そこのところはこの見出しからは分かりませんね。総裁は結果責任が問われないような中立的発言しても、国民が目にする記事では、不安だけが煽られるようになってませんか?

衆院予算委員会:長期金利1%上昇で試算、銀行損失6.3兆円--日銀総裁
http://mainichi.jp/select/biz/news/20120223dde007020008000c.html

国債金利1%増なら銀行保有債券6兆円下落 日銀総裁
http://www.asahi.com/business/update/0223/TKY201202230567.html

ちなみに、国債金利があがると大変だというキャンペーン(?)は以前からあるようです。以前、高橋洋一さんのブログにこんなことが書かれていました。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31793?page=3

 それにしても、金融関係で、当局のリークとおぼしきものはまだある。2月2日付けの朝日新聞で三菱東京UFJ銀行による「日本国債暴落シミュレーション」といわれるものも怪しい。2016年にも10年物の長期国債の利回りが現在の1%から3.5%もなって、国債の暴落が始まるというものだ。これのどこが衝撃的なのか。

金融機関ならどこでも、この程度のシナリオでリスク分析を行っており、金融庁もそうしたものを以前から求めている。これが、他の金融機関ではやっておらず三菱東京UFJ銀行でもあたかも初めてのように報道するのはどうか。

それに内容としても、三菱東京UFJ銀行は200兆円資産のうち2割程度を国債で保有しており、その平均的な償還年限は3年程度であることは公開資料からわかる。1%から3.5%への金利上昇であれば、国債の価格低下は8%程度であり、全体資産からみれば2%程度とたいした問題ではない。

たいした話でないことを大げさにいうので、財政当局から財政危機を煽るためにリークされたのではないといわれている。もっとも、財政当局もこうした金融知識(資産負債総合管理 ALM:ASSET LIABILITY MANAGEMENT)がなく、かつて私が財務省のためにALMシステムを構築したものだ。金融知識がないからこそ、その程度の話で財政危機を煽れると思うわけだ。

→野田総理も、成長と金利の関係を聞かれてこう答えていますね。

(野田首相)・・・仮にですね、例えば成長戦略やって成長すると、そのことはいいことです。増収になります。だけど、金利、物価は金利に影響しますので、金利は1%上がったら、当該年度で利払い費1兆円、2年後には2兆円台。3年後には4兆円台。1%上がっただけで。ということを考えますと、当然増収の道もやっていかなければなりませんけれども、それは一方で歳出圧力にもなるんです。ということは財政再建、そして社会保障の安定財源確保を考える上では、どうしても今お願いしている社会保障と税の一体改革が不可欠であります。・・・

→一方で、金融緩和の副作用論を展開。金融緩和も地獄、利上げも地獄ということ?

(与党議員)・・・目先火事になっているから消さなければなりません。カンフル剤は打たなければなりません。しかし、ゼロ金利がですね、10年も15年も続くことによって、金利によって色々な競争を促す、あるいは生産性の高い企業が生き残り、生産性が高くない企業が淘汰され、日本経済全体の生産性が上がっていくというようなメカニズムを失ったということであります。・・・日銀が国債を買う。それはいいことですよ。しばらくは買わなきゃいかん。しかし、日銀が国債を買うという行動が日本の銀行の行動に影響を与えます。安心して買えます。・・・

(古川大臣)まさにおっしゃる通りだと思います。・・・


(2)2005-2007年円安バブル論  

(与党議員)05年から07年、これは大変な円安バブルとまさに欧米経済のバブルで日本の輸出産業が、本来は日本のような高い賃金ではつくってはいけない、あるいは新興国と競争するような低付加価値の製品をつくる企業は、本来既に、その段階では海外に出ておくべきであったにもかかわらず、(05)年―(0)7年の円安バブルで残っておられた。今、海外進出ラッシュといわれますけれども、これは円高の原因というよりも、実はそのときに出ておくべきだった企業がでていかなかったということであろうかと思います。もちろん、円高はこれは大変なことですから止めるべきではありますけれども。・・・

(古川大臣)・・・今のお話があった議員の分析はまさに全くその通りだと思います。・・・

→古川大臣も、小泉・安倍政権時代を大変な円安バブルとの認識を共有したというこのなのか!一体適正な為替相場はどの程度のことを考えているのか?

東京市場 ドル・円 スポット 17時時点/月中平均
http://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/html/nme_R020MM.5481.20120225085034.02.html

(年/月=ドル・円レート)
2005/01=103.27
2005/02=104.84
2005/03=105.3
2005/04=107.35
2005/05=106.94
2005/06=108.62
2005/07=111.94
2005/08=110.65
2005/09=111.03
2005/10=114.84
2005/11=118.45
2005/12=118.6
2006/01=115.33
2006/02=117.81
2006/03=117.31
2006/04=117.13
2006/05=111.53
2006/06=114.57
2006/07=115.59
2006/08=115.86
2006/09=117.02
2006/10=118.59
2006/11=117.33
2006/12=117.26
2007/01=120.59
2007/02=120.49
2007/03=117.29
2007/04=118.81
2007/05=120.77
2007/06=122.64
2007/07=121.56
2007/08=116.74
2007/09=115.01
2007/10=115.77
2007/11=111.24
2007/12=112.28

→小泉・安倍・福田政権期に経済成長に伴い税収が上がった事実を否定するために、あれは円安バブルの結果、税収は増税であげるべき、といいたいのでしょう!

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→これは、日銀総裁の時代認識そのものですね。政府・日銀・民主党一体ということで。

円高に関連して、現在、特に問題となっているのは、これにより企業の海外生産シフトが加速し、国内産業が空洞化する可能性です。日本企業による海外生産の増加という流れ自体は、基本的には、世界の成長センターが新興国に移っているという大きな構造変化のもとで、企業の成長戦略の一環として、需要の拡大している市場の近くに生産拠点を設ける動きであると理解しています。ただ、そのペースはその時々の為替相場の動向にも左右されます。皆さまもご記憶のように、2000年代半ば過ぎにかけて大きく円安に振れ、国内生産の採算が一時的に大幅に好転した局面では、海外シフトの動きが一服して生産の国内回帰がみられました。しかし、リーマン・ショックの余波や欧州ソブリン問題が長引く中で、それらが表面化する前に比べて円高な水準が定着するにつれ、もともとグローバル市場の拡大に合わせて進められてきていた海外生産シフトへと、企業の戦略が再び戻りつつあります。従って、この戦略過渡期においては、海外生産シフトは傾向として過去の平均的なペースに比べて速まることになります。その際、海外生産シフトがあまりに急速に進展すれば、国内で新たな雇用吸収の場を生み出すペースが追いつかなくなる可能性がありますし、長い目でみて競争力がある中核的な企業や工場までもが海外シフトしてしまった場合、あとで円高が是正されてもその国内復帰は難しくなります。これらのリスクを含めて、最近の円高が日本経済に与える影響については十分注意する必要があると考えています。

【挨拶】日本経済:現状、見通し、課題
名古屋での経済界代表者との懇談における挨拶
日本銀行総裁 白川 方明
2011年11月28日
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/ko111128b.htm/

→そして、円高活用論。

(与党議員)・・・日本経済回復のためには、円高・デフレからの脱却が急務であることはいうまでもありませんが、この歴史的な円高・デフレがまだまだ続くことも予想されます。そこで日本経済の構造転換を促す上でも円高メリットを活用した政策の必要性が高まっているのではないかと考えます。総理はこの円高メリットを我が国経済に積極的に生かして行くということについてどのようにお考えでしょうか。

(3)人口減少デフレ・低成長原因論  


(与党議員)・・・2000年代全体は非常に低成長であった理由は、これはさきほど津村議員のグラフにもありましたが、まさに生産年齢人口が減りはじめた。これすごいインパクトです。マイナス1%の減少でですね生産年齢人口が減り、これからも減り続けるということであります。このへんの2000年代の不況について、その原因、古川大臣のご見解を伺いたいと思います。

(古川大臣)・・・今のお話があった議員の分析はまさに全くその通りだと思います。・・・
2000年代に入って高齢化の問題、特に団塊の世代が高齢化になったときにはどうするんだというまさにその問題が現実化して起きているわけですね。団塊の世代がこれからどんどん60歳以上を超えてきて、まさに労働人口が年間、団塊の世代のリタイアで100万人単位でこれから3年続けて減っていくという状況になってきます。やはりこうした下押し圧力に対して経済をどう持ちあげていくかと、そのことが今低迷している最大の要因ではないかと私は考えているところです。

→日本が生産年齢人口が減ったのはいつからでしょう?

総人口の減少が始まったのは2005年からです。15歳から64歳までのいわゆる生産年齢人口は、既に1996年から減少に転じています。

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そして、2002年から2008年の景気拡大の中で、実質成長率は、
2003年度=2.1%
2004年度=2%
2005年度=2.3%
2006年度=2.3%
2007年度=1.8%
成長した。生産年齢人口が減少してもプラス2%成長していました(小泉・安倍・福田時代)。百歩譲って2005-2007年度が円安バブル景気だったとしたら、では、2003、2004年度の2%成長は何だったのでしょう?

しかし、政府・民主党は2000年代の不況の原因は生産年齢人口減少であり2005-2007年の景気は円安バブルだったという歴史観を確率したいようです。日銀もほぼ同じですか?


しかし、ある研究によると、2004年の経済成長については、経済成長に大きな寄与をしているのは全要素生産性であり、生産量の成長率のうち86.4%を占め、次に寄与しているのは資本サービス変化率であり、寄与率は20.8%、労働時間はマイナス11.0%という負の寄与率であった。この年の就業者数はプラスに寄与している。

「人口減少と日本の経済成長率」
梶善登(2006年10月)「レファレンス」
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200610_669/066903.pdf

→日銀総裁も2000年代以後の低成長の主因を高齢化と人口減少だと指摘しています。

「1990 年代の低成長の主因は、未曾有のバブル崩壊に伴うデレバレッジであった。これに対し、2000 年代以降の低成長の主因は世界の経済史に例を見ないような急速な高齢化や人口減少である。」

「人口減少も潜在成長率を引き下げることを通じて過剰債務の調整を長引かせる。人口増加率の低下や高齢化は先進国に共通の問題であるが、この点、日本はより深刻である。日本の人口増加率は米国、ユーロ圏、英国と比較すると、最も低いが、それ以上に、人口増加率低下の速度が速いことが経済や社会に様々な負荷をかけている。他方、欧米諸国は日本と比較すると、人口増加率は高いが、移民による人口増加の寄与度が大きい。しかし、この要因による人口増加は経済の低迷が続けば、減少することも予想される。」

デレバレッジと経済成長――先進国は日本が過去に歩んだ「長く曲がりくねった道」を辿っていくのか?――
日本銀行総裁 白川 方明
London School of Economics and Political Scienceにおける講演
(アジアリサーチセンター・STICERD共催)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2012/data/ko120111a.pdf

→2000年代を高齢化と人口減少で低成長だったと、景気拡大の歴史を消し去り、景気拡大と税収増があったというとあれは円安バブルでしたという。こうした歴史観が、デフレやむなし、増税やむなしの風潮を形成していくわけです。

→中世の寺社勢力は、朝廷や庶民に怨霊思想、地獄思想、末法思想を植え付けました。当時の寺社勢力は朝廷への加持祈祷をやるだけでなく、庶民への金融機関でもありました。

そして、現代、小泉・安倍・福田政権の円安バブルのために海外移転が加速しているという、あたかも前政権の政策の影響にとりつかれてしまったために海外移転が進んでいるというような、一種の「怨霊思想」、物価があがって利上げしたら国債暴落だと不安を煽る「地獄思想」、人口減少・高齢化の前にはどんな政策をうってもデフレ克服なんてできやしないという「末法思想」が蔓延する中で増税の合意形成がされようとしているように見えますが。


(4)1997年以後の税収減について 


→最後に、1997年以後の税収があがらなかったのは減税によるのではないかとの野田首相の発言も重要ですね。


デフレ克服に向け、日銀との連携強化~首相
< 2012年2月23日 17:24 >日テレニュース24
http://news24.jp/articles/2012/02/23/04200669.html

 23日の衆議院予算委員会の集中審議で、野田首相は、消費税率を引き上げる際には「経済の好転が条件で、様々な指標で判断したい」と述べた上で、円高やデフレの克服に向けて日本銀行との連携を強化する考えを示した。

 自民党・中川秀直議員「このままでは、あなた(野田首相)が増税を実施しようとしている14年にはまだデフレかもしれませんよ。国民も、今のままだったら、消費増税法案が出てきても、デフレ下での大多数、増税には賛成しないと思いますね。自民党も賛成すべきでないと思います。我々はやはり、経済の状況の好転を条件に増税を国民にお願いするのが正しい」

 野田首相「経済再生は当然やっていかなければなりません。その上で、消費税率を引き上げる際には、経済の好転が一つの条件になっております。様々な指標を総合的に勘案をしながら、判断をさせていただきたいというふうに思っております」

 中川議員は、過去の消費税増税の例を引き合いに、「経済の規模が拡大しない限り、税収は上がらない」とただした。これに対し、野田首相は「(過去の)消費税率を上げた後で税収が落ちたのは、他の減税もあったからではないか」と反論した。

 また、野田首相は、円高やデフレの克服に向け、日銀・白川方明総裁と頻繁に会うなどし、政府と日銀との連携を強化する考えを示した。

→だとすると、小泉・安倍・福田政権で税収増になったのは、増税したからですか?この問題は、また改めて。

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