2月23日衆院予算委の一つの論点→インフレ予測における物価連動国債とサーベイ(アンケート調査) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

2月23日衆院予算委の一つの論点→インフレ予測における物価連動国債とサーベイ(アンケート調査)

秘書です。

2月23日の衆議院予算委員会での中川秀直の質問に関連して、以下の点が1つの焦点となりました。それはインフレ予測における物価連動国債とサーベイ(アンケート調査)の関係です。
ブルームバーグは以下のような記事をのせました。


白川日銀総裁:日本の物価連動債では予想インフレ率弾き出せない
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LZTQQF6TTDTY01.html
  2月23日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は23日午前、衆院予算委員会で、「日本の物価連動債の市場は非常に小さく、流動性が低いため、日本ではインフレ予想を弾き出すことはなかなかできない」と語った。自民党の中川秀直氏の質問に答えた。

  中川氏は5年物の物価連動債から弾き出される予想インフレ率はマイナス0.0018%だとして、日銀は1%の物価上昇を実現できるのかと質問した。白川総裁は「市場参加者の5年後の予想インフレ率はだいたい1%だ」と述べた。

  日銀は14日の金融政策決定会合で、これまでの「物価安定の理解」に替えて「物価安定の目途(めど)」を導入。当面、消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率で「1%」を目指し、それが見通せるようになるまで「強力に金融緩和を推進していく」と表明。資産買い入れ等基金を「55兆円」から「65兆円」に拡大し、増額分の10兆円は全て長期国債を対象とすることを全員一致で決定した。


ちなみに、ブルームバーグのHPには、日米の5年の物価連動国債利率が以下のように出ています。
http://www.bloomberg.com/quote/JYGGBE05:IND
http://www.bloomberg.com/quote/USGGBE05:IND

→2月23日衆議院予算委員会で、中川秀直の質問に対して、白川日銀総裁は下記のように答弁しました。

「それから最後に、インフレ予想でございます。先生御指摘の物価連動国債、これは私どもも、もちろんこの数字も見ております。ただ、この物価連動国債の市場は非常に今小さくなってきて、流動性が低くて、日本については、これからなかなかインフレ予測がはじき出せないという現状があります。これは別途、先生が御指摘の、市場参加者が、先行き、例えば5年後のインフレ率、そういう数字も実は出しております。そういう数字でみますと、今、大体1%という数字になってございます。もちろん、どれか単独の指標で見られるわけではございません。さまざまな指標を見て、そこはしっかり点検していきたいというふうに思っております。」

(1)物価連動国債とは何か?  

①財務省のホームページより
http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-indexed/index.htm

物価連動国債の商品設計
http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-indexed/syouhinsekkei.htm
 通常の固定利付国債は、発行時の元金額が償還時まで不変で、利率も全ての利払いにおいて同一です。従って、利子の額は各利払いにおいて同一であり、償還時には最後の利子と発行時の元金額(=額面金額)が支払われます。これに対し、物価連動国債は、元金額が物価の動向に連動して増減します。すなわち、物価連動国債の発行後に物価が上昇すれば、その上昇率に応じて元金額が増加します(以下、増減後の元金額を「想定元金額」といいます。)。償還額は、償還時点での想定元金額となります。利払いは年2回で、利子の額は各利払時の想定元金額に表面利率を乗じて算出します。表面利率は発行時に固定し、全利払いを通じて同一です。従って、物価上昇により想定元金額が増加すれば利子の額も増加します。
 なお、欧米諸国でもこうした形態の物価連動国債が発行されています。

ブレークイーブンインフレ率の推移
http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-indexed/1200210.pdf

②日銀レビューより

日銀レビュー「インフレ予想(Inflation Expectations)について」
2008年12月 企画局 関根敏隆、吉村研太郎、和田智佳子
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2008/data/rev08j15.pdf

・・・
物価連動国債から求められるBEI は、あらゆる裁定機会を活用して収益をあげようとする、多様
な市場参加者の見方を集約した指標とも考えられるが、実際のところは、市場流動性の状況に
よって影響される。とりわけ最近のように金融市場が混乱しているときには、情報価値が大きく低
下するという問題がある。例えば、日本のBEI については、本年9 月から大きくマイナスとなって
いるが(図表8)、これは、家計、企業、エコノミストのインフレ予想の変化幅に比してもかなり
大幅な修正である。こうしたことから、BEI のマイナス転化は、今後10 年間物価下落が続くとマー
ケットが予想しているというよりも、そもそもわが国の物価連動国債の市場流動性が低い中に
あって、国際金融資本市場の混乱の影響で、一部マーケット参加者が物価連動国債の売却を急い
だため、「物価連動国債の急激な利回り上昇」=「BEI の急激な低下」がおきたものとみられてい
る。
・・・

(2)サーベイ(アンケート調査)について 

日銀レビュー 中長期の予想物価上昇率に関するサーベイの有用性について
2011年7月 調査統計局 片岡雅彦 白鳥哲哉
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2011/data/rev11j08.pdf

(要旨)
・・・
中央銀行にとっても、金融政策の運営にあたり重要な情報を提供するものである。予想物価上昇率を把握する有力な手法としては、マーケット情報から計測する手法や、各種の経済主体に対し実施するサーベイ(アンケート調査)などがある。最近、欧米では、世界的な金融危機で市場が混乱した経験も踏まえ、金融市場からある程度の距離を置いたサーベイの有用性が改めて指摘されている。わが国でも、そうしたサーベイは幾つかあるが、主に家計やエコノミストを対象としたものであり、企業の中長期的な予想物価上昇率に関するサーベイは存在しない。企業の中長期の予想物価上昇率は、販売価格や賃金の設定、設備投資などの企業行動全般に影響を及ぼすだけに、それに関するサーベイの実施は、経済物価情勢のより的確な把握に資するものと考えられる。

(本文)

・・・
予想物価上昇率を把握する手法は、大きく分けて、①マーケット情報から計測するアプローチ、
②家計や企業などに対してサーベイを実施するアプローチの2種類に大別される。

(マーケット情報から計測する手法の特徴)
まず、マーケット情報から計測する手法としては、物価連動国債と固定利付国債の利回りの格差(これは、ブレーク・イーブン・インフレ率<BEI>と呼ばれている)から、予想物価上昇率の動きを推測することができる。
・・・

(サーベイの特徴)
一方、サーベイは、家計や企業などが想定する予想物価上昇率を、アンケートへの回答という形
で、直接尋ねるものである。またサーベイでは、回答のバラツキ度合い等のミクロ情報を分析に
用いることができるため、予想物価上昇率に関する見方の違いや不確実性の大きさを点検するこ
ともできる。
他方で、サーベイの短所としては、①調査に手間や時間がかかるため、予想物価上昇率を短期間
で集計することができない、②設問の仕方によっては回答にバイアス5が生じる可能性があること
などが挙げられている。
・・・

(調査対象)
サーベイの対象としては、家計、企業、エコノミストが挙げられる。このうち、家計や企業を対
象としたサーベイでは、調査対象の経済主体がどのような予想物価上昇率を念頭に置きながら、消
費・投資活動を組み立て、あるいは販売価格や賃金を設定しているかを計測することができる。ま
た、エコノミストを対象としたサーベイでは、マクロ分析に基づく専門家としての見方を集約す
ることができる。
・・・
(わが国におけるサーベイの整備状況)
わが国では、家計やエコノミストについては、短期、中長期ともサーベイが実施されているもの
の、企業に対する予想物価上昇率のサーベイについては、予測期間が3ヶ月から1年先とするもの
は多く実施されているが、予測期間を中長期に設定したサーベイは整備されていない。
・・・

日銀レビュー「インフレ予想(Inflation Expectations)について」
2008年12月 企画局 関根敏隆、吉村研太郎、和田智佳子
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2008/data/rev08j15.pdf

(3)エコノミストのインフレ予想

民間エコノミストのインフレ予想は、各種のマーケット・レポートで利用可能である。しかし、
個々のエコノミストの予測をみるよりも、コンセンサス・フォーキャスト社による集計のように、複数のエコノミストの予測を平均したものが、よく活用されている。
・・・
ただし、エコノミストのインフレ予想を解釈するうえで注意を要する点も幾つかある。まず、エ
コノミストの予想は、家計や企業のような賃金・価格の設定主体の物価観ではないため、実際の賃
金・価格設定行動にどの程度影響を与えているのかが不明という問題がある。加えて、民間エコノ
ミストも、中央銀行当局と同じようなマクロ経済指標をみて、しかも同様の手法を用いて予測をし
ているとみられるため、中央銀行の内部予測に対してどの程度独立の情報をもつのかが判断しに
くいケースがある。例えば、図表6 でユーロ圏の今後5 年間のインフレ予想が2%弱でほぼ安定的
に推移していることが、民間エコノミストも「中長期的には中央銀行が目標としているインフレ
率に収束するはず」というマクロ経済学の一定の理論に基づいて回答した結果だとすれば、両者の
予測に大きな差は生じにくいことになる。そうなると、こうした予測をみることは、中央銀行に
とって、自分の姿を鏡に映してみている(looking-into-the-mirror problem)ということにな
りかねない10。

(注10)・・・民間エコノミストのインフレ予想が、実際の賃金・価格設定行動に影響を与え、自己実現するということであれば、民間エコノミストのインフレ予想が中央銀行のインフレ予測と同じであることは、中央銀行当局にとって歓迎すべきことである。問題は、民間エコノミストのインフレ予想が、実際の賃金・価格設定行動に影響を与えないにもかかわらず、中央銀行は、民間エコノミストの予想が自分たちの予測と同様であることをみて、間違って安心してしまうケースにある。

→2月23日の衆議院予算委員会における白川総裁の発言の数字の出所は「コンセンサスフォーキャスト」と確認をいたしました。この数字は、2011年4月時点では、+1.0%、2011年10月時点(直近)では+0.8%だったとのことです。なるほど、1%という数字は、2月14日の日銀政策決定以前からのこの調査に出ていた数字だったようです。

白川総裁は「コンセンサスフォーキャスト」の数字を予想物価上昇率として講演資料でもよく使っています。


http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko111222a1.pdf
↑この講演の16ページの「日本では、潜在成長率と長期的なインフレ予想の間に、有意なプラスの相関が観測される。」の図。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110715a.pdf
↑この図の13ページの「1990年代初頭における日本経済に対する楽観的な見通し」の図。

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2011/data/ko110207a.pdf
↑この講演の8ページの「潜在的な成長率は予想物価上昇率と高い相関」の図。

→1990年代にはサーベイ(アンケート調査)方式では、実質成長率の予想は楽観的すぎたようです。

→ちなみに、別のフォーキャスト調査団体である社団法人経済企画協会によるESPフォーキャスト調査については、以下のような調査方法をとっているようです。

ESPフォーキャスト調査参考資料(PDF形式)・関連資料リンク
http://www.epa.or.jp/esp/fcst1.html

2012年2月9日のESPフォーキャスト調査によると、
http://www.epa.or.jp/esp/fcst/fcst1202s.pdf

消費者物価指数(2010年基準)予測は、12年1-3月期は▲0.25%、調査期間中全ての期で下方修正、プラス転化は13年7―9月期の0.04%、年度では、11年度は▲0.12%、12年度は▲0.25%、13年度はプラス転化し0.01%。グラフをみると2014年度の第一四半期の消費者物価指数は+0.18%ですね。(生鮮食品を除く総合の前年同期比上昇率)

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直近の消費者物価上昇率について、政府・日銀の見通しと、ESPフォーキャスト調査の結果には乖離があるように見えますが。