「被災者への賠償、電力事業継続、国民負担の最小化」の方法=「会社更生法+賠償機構」(高橋洋一氏) | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

「被災者への賠償、電力事業継続、国民負担の最小化」の方法=「会社更生法+賠償機構」(高橋洋一氏)

秘書です。
月曜の朝といえば、高橋洋一さんの現代ビジネスを読む時間。
でもその前に・・・


与謝野氏「善意に頼るのは甘い」 東電の債権放棄問題
2011年5月22日17時21分 朝日新聞

 与謝野馨経済財政相は22日のNHK番組で、東京電力の原発事故被害者への賠償問題に絡み、枝野幸男官房長官が東電に融資する金融機関に債権放棄を促したことについて、「金融機関の善意や良識に頼って、賠償スキームを作るというのは、甘いのではないか」と述べ、改めて枝野長官の姿勢を批判した。

 与謝野氏は東日本大震災を原子力損害賠償法の「異常に巨大な天災地変」に認定したうえで、東電の責任を免除し、国が被害者救済の責任を全面的に負うべきだというのが持論。

 与謝野氏は「人の善意や良識に頼ったおセンチな議論をするのではなく、債権放棄を銀行に求めるなら、法的根拠に基づいた債権放棄の求め方をしないといけない」とも語った。

→与謝野大臣の最後の発言にご注目。債権放棄を求めるなら法的根拠に基づきなさいい、おセンチなこといったって、金融機関にはできませんよ、ということですね。法的根拠に基づく債権放棄を求めることはありうるということ。このことをふまえて、今日の高橋洋一さんの現代ビジネスを読みましょう。

「実質債務超過」をごまかす東電決算はまず会社存続ありきの「国家的粉飾決算」
地域独占は変えず、電気料金値上げも織り込み

2011年05月23日(月) 現代ビジネス 高橋 洋一
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/5773

3月11日の地震発生から2ヶ月経過しているが、最近、福島原発事故関係で地震直後の情報が次々と出てくる。それぞれもっともらしい言い訳をつけているが、これまで政府が情報開示に熱心でなかったことが明らかになって、国民も国際社会も不信感が高まっている。

特に、3月12日の海水注入で政府が中断させたのではないかという批判に対し、公表政府資料で「午後6時の首相指示」を「海江田経済産業相が、東電に海水注入準備を進めるよう指示した」に書き直したりしている。

斑目委員長が「海水を注入した場合、再臨界の危険性がある」といったとしているが、斑目委員長は言っていないと否定している。少しでも原子力をかじった人ならば、冷やすことが優先であることはわかる。専門家である斑目委員長がいうはずないことだ。結局、斑目委員長の意見を受け入れ、政府は再び公表資料を書き直した。

3月12日といえば、午後3時から与野党の党首会談が官邸で行われた日だ。渡辺喜美みんなの党代表からその直前に私宛に電話があったので、当日午後2時からの原子力安全・保安院中村幸一郎審議官が「炉心溶融の可能性がある」と漏らしたこと、CNNやBBCでもメルトダウンの可能性に言及していたことを、そのまま伝えた。

党首会談の席上、渡辺喜美みんなの党代表から「メルトダウンでないか」との発言があったが、菅直人総理は「メルトダウンを起こしていない。大丈夫。」という返事だった。

菅総理がベントを東電に指示したとされているが、12日の午前中、防護服なしでスタッフを同行させて福島原発にいったため、総理一行を被爆させないために東電によるベント作業を遅らせたとしか思えない。こうした点は、いずれ政府から独立した組織での客観データによる歴史検証が必要である。

歴史検証に加えてもらいたいのが、5月13日の政府の賠償スキームと20日の東電決算だ。現代ビジネスでは、興味深い記事が多い。5月18日の磯山友幸さんの「東電上場維持で得をするのは誰か まず存続ありきの「援助スキーム」の闇」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/5181)に出てくる「東電救済策の説明資料」だ。

元役人の私から見ると、これは政治家への説明で使う資料である。しばしば政治家に対しては、このような対比表とスキームを描いた図(ポンチ絵)で説明が行われ、文章はめったにない。

 13日の賠償スキームの関係閣僚会合決定(閣議決定ではないことに注意!)文書も、それを事細かに説明するというよりも、多くの政治家に対しては対比表を説明するという程度だろう。

この対比表は簡潔であるが、表の作り方によってはミスリーディングになる。というか、官僚は意図的に表を作る。菅政権はまんまと騙された。

菅政権は、法的整理をすると、被災者が救われないと思い込んでいる。中には、法的整理をすると債権債務が確定するので、新たに被災者は賠償債権を請求できなくなってしまうとかいう詭弁を信じ込んでいる者もある

まったく政治家であることを忘れている。法的整理をした上で、救済機構などの被災者だけ救済する法律を作ればいいのだ。前述の対比表では、単に会社更生法だけを適用し、まったく被災者の救済方法が書かれていない。その部分を補うのが政治家だろうが、民主党政治家は官僚の手下となっている。

本当の損失は10兆円でもおかしくない

対比表の中で、「会社更生法」のところを「会社更生法+賠償機構」と書き直せば、被災者への賠償、電力事業継続、国民負担の最小化になる。私がこれまで本コラムで書いてきた案はそうしたものだ。

法的整理を使うのは、東電のステークホルダーに責任を持たせる資本主義経済のルールだ。そうであれば、枝野幸男官房長官の「金融機関に債権放棄を真っ先に求める」発言や、与謝野馨経済財政担当相の「東電融資では貸し手責任発生は理論上あり得ない」発言は、いずれも妄言として片付けることができる。

さらに、20日の東電決算に大いに関係するが、法的整理すべき状況にもなっている。
東電の決算は、当期純損失が1兆2473億円、同期比▲1兆3811億円(連結ベース)であった。これは純資産を半減させるもので、過去に例のない大きな赤字だった。

しかし、本当の損失はそんな程度でない。避難者は5万世帯程度、彼らの生活保障だけで巨額になる。失った資産を含めて一世帯当たり3000万円とすれば、1.5兆円だ。企業も含めると経済損失はその倍以上だろう。汚染水の処理もある。処理コストは1トン当たり1億円といわれるが、すでに汚染水は7万トンになって、これで7兆円だ。となると、10兆円の損失でもおかしくない。

東電の原発事故で東電は加害者であり、加害者負担の原則から東電は賠償責任を負う。原子力賠償法があるが、東電は免責されないことは政府が公言している。東電の純資産は2.5兆円程度なので、どう考えても「実質債務超過」だ。

もっとも、こうした場合の決算での常套句は「確定していない」、「合理的に見積もれない」だ。しかし、実態は見積もれなくても、東電はすでに「実質債務超過」になっている。それは、東電自体が政府に救済を申し出ていることからもあきらかだ。

賠償スキームは東電の救済策となっており、株式減資や債権カットはないという酷いものだが、とりあえず、20日の決算で「債務超過でない」といいたいために、その作成を政府は急いだ。あえて、その論理をいえば、東電を温存・救済し、今後とも地域独占を継続させ、全国で数%から十数%の電力料金アップとなり、その超過利潤が見込まれるので、それを加味すれば「債務超過にはならない」というものだ

しかし、その収益見込みは確定していない。2000年の独禁法改正で、すでに電力の自然独占に関する独禁法適用除外規定は削除された。もはや政策として独占利潤は保証できない。つまり、これは国家が仕組んだ粉飾決算ともいえる

金融機関が裏で債権保全に走る可能性

 その上で、重大な問題はさらにある。

 今国会には法案は提出されない。ということは、東電の「実質債務超過」のリスクが出てくる。というのは、東電の債権者が債権保全に走る可能性がある。特に、金融機関は表向き協力的でも裏では利己的に債権保全するのはよくある話だ。例えば、金融機関の貸し付け債権で償還期限が来たら回収するというのもある。しかし、被災者は置いてきぼりになる。形式的には求償権を東電に有するのだが、被災者はその権利行使をする術をしらない。

数多くの被災者に代わって国が権利保全した上で、法的整理すれば、金融機関などの横暴を押さえられる。いずれにしても、それこそ早く政治家が立法すべきことだが、現政権は東電を救済することばかり考えて、被災者は二の次になっている。被災者への賠償支援は喫緊だ

こう考えると、国家的粉飾決算をせずに、賠償機関法とともに法的整理に入ったほうがフェアだ。しかも、被災者への賠償、電力事業継続、国民負担の最小化になる。

 賠償スキームでは、「電力事業形態の見直しは賠償スキームと別に検討する」と書かれていることからわかるように、東電を温存しつつ送発電分離をいうのは矛盾している。それに関わらず、菅総理は送発電分離をいうが、リップサービスでしかない

 しかし、法的整理であれば、資産側の5兆円送電網を売却し被災者への賠償資金にできる、同時に負債側の株式減資や債権カットも行える。そのため、20日の決算で言及されていない株式減資で2.5兆円、債権カットで3.5兆円、企業年金で0.5兆円程度可能なので、被災者への賠償で国民負担は6.5兆円程度も少なくでき、国民負担は最小化される。

 なお、20日の決算で言及されていた資産売却0.6兆円は、法的整理での資産売却でも行われる。人員のスリム化等が金額的には些細であるが、これらに上乗せされる。

長期的にも、送発電の分離で発電での新規参入が増え電力料金も下がるので、これも国民負担を少なくする。また、法的整理だと資金調達が困難なるというが、それは政策金融機関で補えるし、電力事業も継続できる。

→そして、高橋洋一さんが引用した磯山友幸さんの文章は下記の通り(図は本文でご確認ください)

東電上場維持で得をするのは誰か
まず存続ありきの「援助スキーム」の闇

2011年05月18日(水) 現代ビジネス 磯山 友幸
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/5181

「法的破綻処理では、一番守らなければならない被災者より、債権者が優先されてしまう」

 5月16日の衆議院予算委員会で自民党の塩崎恭久・元官房長官に「東京電力を法的整理しない理由は何か」と聞かれ、菅直人首相はそう答えた。

 被災者に補償をさせるためには、株主も社債保有者も一般債権者も守らなければいけない、という論理は誰が見ても不自然である。だが、菅首相は東電を守るために詭弁を弄しているわけではない。東電を守らなければ被災者の補償が行えないと本気で信じ込んでいるのだ。

 政府は5月13日に東京電力福島第一原子力発電所の賠償金支払いの枠組みをまとめた。東電を政府の管理下に置き、新たに設立する機構を通じて公的資金を投入。上場を維持し、社債も全額保護する、という内容だ。政府内で東電の処理策が本格的に議論され始めたのは4月中旬。政府案のタタキ台とも言えるペーパーがいくつも官邸周辺に流れていた。そのいずれにも共通していたのが、「上場維持」の四文字だった。

 ちなみに文書のタイトルには東電の「処理策」ではなく「援助スキーム」「支援スキーム」となっており、これらのタタキ台が東京電力を「助ける」という目的を持った人たちによって作られたことを如実に示している。

 そんな援助スキームと一緒に流布したのが「想定されるスキームの比較」という表だ。政府案のほかに「会社更生」「国有化」「会社分割」「東電賠償額に上限」などが例示され、それぞれの特長が記載されている。その会社更生の欄に「損害賠償債権は社債に劣後」「更生計画によっては損害賠償は支払われない」と記載されている。他のケースでは100%履行されるとしており、要は会社更生にだけはもっていきたくないという作成者の意図がミエミエの代物だ。

検討段階で政府案を知った財務省の中堅官僚は、「こんな経済産業省の利益第一のような案は、いくら民主党政府でも通さないでしょう」と達観していた。だが、蓋をあけてみれば、そんな見通しは見事にはずれ、ほぼ原案通りになった。

 しかし、なぜ上場維持ありきで議論が進んだのか。上場維持で一番得をするのは誰なのか。

 早い段階で官邸周辺で使われた理由付けが「電力株の保有者は個人の高齢者が多く、上場廃止になると高齢者が生活に困窮する」というもの。年金を運用している機関投資家も電力株を大量に抱えているので、国民生活に大きな影響が出る」という説も流れた。だが、これはどう考えても説得力に乏しい。

 次に出た解説はこうだ。株主責任を問えば、次は銀行が債権放棄を求められる。メガバンクは事故直後に二兆円もの緊急融資をしており、これが焦げ付けば、株主代表訴訟が起きるのは必至。上場維持を防波堤にしようという金融機関の働きかけが政府案のベースにある、というものだ。

 証券界の重鎮の読みはさらに深い。「上場廃止となれば大幅な人員整理は避けられない。当然、企業年金も減額される。これに抵抗しているのが労働組合だ。組合は言うまでもなく民主党の支持母体。次の選挙を考えれば、組合は敵に回せない」とみる。政府に案が決まった後になっても東電の清水正孝社長が企業年金見直しに抵抗しているのもその証左だ、という。

 もちろん、原案を作ったと目される経産省にとって東電の存続は悲願だ。東電を破綻させ、電力事業を再編することになれば、全国を十の電力会社で地域独占する今の体制に風穴があく。そんな経産省の利害と、組合の利益を第一に考える民主党政権の思惑が一致した結果が今回の枠組みだというわけだ。

 では、政府が上場維持と言えば、すんなり上場が維持できるのだろうか。

 まずは取引所の上場規則である。上場企業は債務超過になれば上場廃止基準に抵触する。今の東電はどうか。「政府は東電を政府の管理下に置くと言っているが、実質的に債務超過だからそうなるのであって、ルール上は廃止基準に抵触する」と取引所の関係者は言う。

 もう一つが会計監査だ。担当の監査法人は東電の財務諸表に被災者への賠償などの債務がきちんと計上されているかを調べることになる。ここで決算書が債務超過となれば前述の上場規則に抵触する。かといって損失の見積もりが不十分か、きちんと見積もりができない状態だとすると、監査法人は監査意見を述べることができなくなると思われる。意見を表明できないとなると、これもまた、上場廃止規則に抵触し、上場廃止とならざるを得ないのだ。

それでも政府が上場維持を求めるとなると、これまで積み上げてきた資本市場のルールを無視するしかなくなるだろう。今回の東電の事故をルールの「想定外」として、上場規則の例外とし、監査結果も無視するのだろうか。そんなことをすれば、取引所の上場ルール自体の信頼性が揺らぎ、日本の監査制度自体も根本から揺さぶられる。経済のグローバル化が進んだ中で、日本の資本市場のルールが「特殊だ」ということになれば、市場の地盤沈下に拍車がかかるだろう。

 株主も、社債権者も、銀行も、一般債権者もみんなが得をして、東電の社員にもシワ寄せがいかず、しかも被災者には確実に補償がされる。そんなバラ色の救済策の尻拭いを最終的にすることになるのは誰なのか。

 結局は、そのコストが上乗せされた電力料金を支払う一般の消費者や、税金を余計に支払うことになる納税者ではないか。

 菅首相は何に対しても「国が責任をもって」と安請け合いを繰り返す。だが、国という大金持ちがいて、大盤振る舞いしてくれるわけではない。そのツケは確実に納税者に回る。

 さて、これから東電を助けるために、どうやってルールの網の目をかいくぐるのか。その時、取引所の幹部や、監査法人の幹部、そして法律学者たちはどんな発言をするのか。注目したい。