原発賠償案―政府案(プランA)と対案(プランB)を比較しましょう | 中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba

原発賠償案―政府案(プランA)と対案(プランB)を比較しましょう

秘書です。
原発賠償案について、政府案(プランA)と対案(プランB)を比較しましょう。


東電解体の道筋残す=賠償枠組みで-経産相
(2011/05/11-18:45)
http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa&k=2011051100832
 海江田万里経済産業相は11日、日本記者クラブで会見し、東京電力福島第1原発事故に伴う損害賠償の枠組みに関して「何年先か分からないが、将来の発送電分離の可能性を奪う形になってはいけない」と述べた。
 枠組みは、東電を当面、地域独占の電力会社として存続させ、賠償支払いに当たらせるのが前提。ただ、経産相の発言は、東電の発電と送電の両部門分離や、原発部門の切り離しなど解体を通して、他業種からの発電事業参入を容易にするなど電力自由化につなげる道筋も残すことを示唆した形だ
 また、経産相は「東電救済の枠組みではないことは、関係閣僚でしっかり確認している」と強調。目的はスムーズな賠償支払いで、東電をはじめ同社の株主や取引金融機関を救う仕組みではないかとの批判をかわした。
 さらに、「東電は自分たちに都合のいい主張をしてきたが、『そんなことではいけない』としっかり反論してきた」と明かした。

→海江田大臣も、「将来の」という表現を使って代替案の可能性を示唆しているようですね。なぜ、代替案を今、できないのか、ですね。

【社説】原発賠償案 これは東電救済策だ
2011年5月12日 中日新聞社説
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2011051202000007.html

 東京電力・福島第一原発事故の被災者に対する賠償案が固まりつつある。はっきり言って、これは国民負担による東電救済策だ。菅直人政権は霞が関と金融機関の利益を代弁するつもりなのか。

 賠償案は政府が設立する機構に交付国債を発行し、機構は必要に応じて東電に資本も注入する。賠償は東電が上限なく負担するが、資金が不足すれば交付国債を現金化して支払い、後で東電が長期で分割返済する。

 一見すると、東電が賠償責任を負っているように見える。ところが、東電の純資産は約二・五兆円にとどまり、リストラに保険金を加えても、十兆円ともいわれる賠償費用を賄い切れない。

 実際、勝俣恒久会長は会見で「東電が全額補償するとなったら、まったく足りない」と認めている。つまり、東電はすでに破綻状態なのだ。“実質破綻”している東電を存続させた場合、賠償負担は結局、電力料金の値上げによって国民に転嫁されてしまう。

 東電だけではない。機構に負担金を払う他の電力会社も同じだ。事故に関係ない地域の利用者も料金値上げで負担する結果になる。被災者にすれば、賠償金を自分が負担するような話であり、とうてい納得できないだろう。

 一方で、被災者には十分な補償が必要だ。したがって政府の支援は避けられないだろうが、その前にまず東電と株主、社員、取引金融機関ら利害関係者が最大限の負担をする。それが株式会社と資本市場の原理原則である。

 ところが今回の枠組みでは、リストラが不十分なうえ、株式の100%減資や社債、借入金債務のカットも盛り込まれていない。

 東電をつぶせば電力供給が止まるわけでもない。燃料代など事業継続に必要な運転資金を政府が保証しつつ、一時国有化する。政府の監督下でリストラを進め賠償資金を確保しつつ、発電と送電を分離する。発電分野は新規事業者に門戸を開く一方、旧東電の発電事業は民間に売却する。

 銀行再建でも使われた一時国有化の手法は、東電再建でも十分に参考になるはずだ。

 菅首相は原発事故を受けてエネルギー基本計画を白紙に戻し、太陽光など再生可能エネルギーの活用を推進すると表明した。そのためにも新規参入による技術革新を促す枠組みが不可欠である。賠償案は東電と癒着した霞が関と金融機関の利益を優先してつくられた産物だ。根本から再考を求める。

東日本大震災:福島第1原発事故 損害賠償問題 八田達夫・学習院大客員研究員に聞く
毎日新聞 2011年5月12日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110512ddm008040190000c.html

「東電はまず、新規事業者などに発電所を売却して損害賠償の財源を賄うべきだ。そうすれば自然と発電、送電部門が分離され、東電は送電会社になる。」

「東電以外の電力会社が過去の事故のために出資するなら、それらの会社の株主は訴訟を起こすのが筋。東電の株主と債権者に負担させるのがルールだ。金融市場が混乱するとの指摘があるが、銀行や保険会社がつぶれるわけではなく、経営者が責任を取ればそれで済む。むしろ、政府の介入でルールを変えることが、金融市場を混乱させてしまう。」

→では、政府案(プランA)と対案(プランB)について、高橋洋一さんに比較していただきましょう。

原発事故賠償金の国民負担を少なくし電力料金引き下げも可能な処方箋を示そう(抄)
2011年5月12日 ダイヤモンドオンライン 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
http://diamond.jp/articles/-/12214

・東電の賠償スキームそのものは単純だ。賠償は原子力損害賠償法に基づいて行われるが、これまで政府が明言しているように、同法3条但し書きによる免責が東電に適用されない。となると、東電が責任をもって行うこととなる。一方、東電の責任を超える部分は、被災者の泣き寝入りは容認することができないので、政府、つまり国民が負担することになるだろう。

東電は既に実質的に債務超過状態にある

・「賠償額=東電負担分+国民負担分」という公式が成り立つ。

→「東電負担分」=東電のステークホルダーである株主、債権者、経営者・従業員のいずれかが負担
→「国民負担分」=「税負担」か「電力料金値上げ」

・負担関係をきっちり具体的に把握するには、東電のバランスシート(BS)を見なければいけない(図1)。資産は13.2兆円、負債のうち流動負債1.9兆円、固定負債8.8兆円(うち社債4.7兆円)、純資産2.5兆円(2010年3月末。連結ベース)。

中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba-図1

・東電の賠償スキームでは、現状のバランスシートにいろいろな要素を加味する。

→資産側=原子力損害賠償法に基づき、東電は原子力損害賠償責任保険に加入する義務があり、福島第一原発で0.1兆円だ。さらに、この責任保険でカバーできない範囲については、国が東電を相手として原子力損害賠償補償契約を結んでいる。これは2011年度予算で2.3兆円だ。これは国民負担である。

→負債側=今回の原発問題への賠償は一義的には東電にかかる。仮にその金額を10兆円とし、負債側に加える。

・賠償額が10兆円まで達しないとしても、その金額が株主資本2.5兆円と保険0.1兆円の合計2.6兆円を超えると債務超過になる。東電社長がすでに政府の支援を求めていることからわかるように、とても2.6兆円で収まるはずなく、東電は既に実質的に債務超過状である。

賠償額のほとんどが国民負担となる政府案

政府案(プランA)をみてみよう。

・海江田万里経産相は、東電のステークホルダーである東電株主を救済する意向を示している。株主を保護する以上、債権者も保護されるはずだ。

・他のステークホルダーである経営者・従業員については、経営者で役員報酬の全額返上などがいわれているが、金額的にはたいした話でない。企業年金までカットするのであれば、数千億円程度は国民負担が減るが、そうした話は出ていない。

・となると、政府案(プランA)は、東電負担はなく、賠償額のほとんどが国民負担になる(図2)。

・国民に負担してもらうについては、東電の不始末を増税というわけにはいかないので、電力料金の値上げという形になる。

・東電が温存されるので、地域独占や発送電一体などの現行の仕組みはほとんど変更されることなく継続されるだろう。

中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba-図2

債権者や株主も負担を負うプランを考える

政府案とは対極のもの(プランB)を考えてみよう。

・東電のステークホルダーである株主や債権者に負担を負わすものだ。

・もし株主に本来の役割を持たせるなら、100%減資すれば2.5兆円も国民負担は減少する。もし債権をカットすれば、その分はさらに国民負担は減る。

・もっとも債権のカットには技術上の問題がある。電気事業法37条に基づく一般担保による優先弁済だ。金融機関関係者はこれを主張し、被災者への賠償より 自らの債権を優先弁済すべきという。

・まず担保でカバーされている東電の債務は、負債計10.7兆円のうち5.2兆円しかない。そこで担保なしの債権について、債権カットを電力事業に支障の出ない範囲で行うとすると、3.6兆円も国民負担は減少する。100%減資の場合と合わせて6.1兆円も国民負担が減る(図3)。

中川秀直オフィシャルブログ「志士の目」by Ameba-図3

送電網を売却して送発電分離による電力の自由化の契機とする

・プランBでは、東電は解体されるが、その過程で、事業や資産の売却が行われる。

・たとえば、5兆円以上の資産として東電のBSに計上されている送電網を売却して、賠償金の原資とすることができる。そうなると、電力自由化のキモである送電と発電の分離を実務上同時に達成できるのだ。

・電力が地域独占というのは経済学の教科書にもあるが、それは電力事業のためには巨額な設備投資が必要だから、自然独占になると説明されてきた。ところが、電力事業を発電と送電に分けると、そのロジックは送電に当てはまるが、発電は最近の技術進歩によって当てはまらなくなった。

・ということは、電話では電話網を開放していろいろな事業者を新規参入させたことによって電話料金が低下したように、送電と発電を分離し、送電網を開放し発電では新規参入させたほうがいい。日本でも、エネルギー関係や他の公益事業など多くの業者が発電での新規参入を考えている。

・送電と発電の分離によって送電網を開放することは、欧米では当たり前だ。しかし、日本では送電網の開放が不十分で電力発電の新規参入が少なく、電力料金は国際的にも割高になっている。

・かつて日本の電力料金が高いのは停電がないからだと豪語されていたが、今は無計画な「計画停電」があるので、そんな強弁もできない。また、省エネに役立つスマートグリッドが日本で進んでいないのは、送電網が開放されていないからだ。

・日本経済の将来を考えれば、電力料金はすべての産業の基盤になり、それが国際的に高いのは、日本の産業の国際競争力を低下させるので不味い。

政府案のように東電温存・送発電の分離できず・電力料金引き上げという道をとるのか、プランBのように、国民負担を少なくするとともに、東電解体・送発電の分離・電力料金引き下げという道をとるか、という日本経済にとって重要な岐路である

→1000年に一度の震災後の今、プランAかプランBかの選択のとき。どっちに日本の未来があるのか、子供たちの未来はどっちにあるのか、おおいに議論していきましょう。